50 驚くべき秘密

 以前、滝川真司と落ち合った喫茶店で、羽黒祐介はひとりで待っていた。真司から、一体どのような真実が飛び出してくるのか、祐介には想像もできなかった。

 そこに滝川真司が現れた。以前とは表情が違っていた。少しばかり硬くなったのは警察の取り調べを受けたからであろう。

「お久しぶりです。滝川さん」

「お久しぶりです……羽黒さん」

 真司は祐介と同じテーブル席に座ると、ウエイトレスにホット珈琲を注文した。

「あれから赤沼家ではまたひとりお亡くなりになったそうですね……」

「ええ、ご存知でしたか」

「ご存知も何も、取り調べを受けましたよ。ただどちらの事件にもアリバイがあって無実は証明できましたが……」

「それは良かった」

「ここは京都ですからね。夕方まで先輩の和菓子職人と一緒にいて、そこから赤沼家の本邸に駆けつけるというのはさすがに無理がありますよ」

 滝川真司は、大晦日の午後六時まで先輩の和菓子職人と共に自分の勤める和菓子屋にいたのだと言う。どんなに早くても、ここから群馬の本邸までは五時間以上はかかるだろう。

「それはそうでしょうね。ところで、あの大晦日の夜に村上隼人君に会いましたね」

「そのことですが……警察にも聞かれましたよ。ええ、先輩と別れて自宅に帰ろうとすると。どこからともなく現れて、村上さんが僕に話しかけてきたんです。最初、僕は誰だか分かりませんでした。でも話を伺ったら、琴音ちゃんの恋人だったというので非常に驚きました……」

「何をお話しになったのですか……?」

「警察に変なことを言えば、村上さんが疑われかねないので、僕は警察には適当なことを言いましたが……彼は実に変わっていました。琴音さんのことを知りたいはずなのに、鞠奈のことばかり聞いてくるんです」

「鞠奈……琴音さんの双子の妹の……」

 祐介は意外な情報に耳を疑った。

「ええ、彼は琴音ちゃんのことよりも、鞠奈のことを調べている様子でした。それで、鞠奈の自動車事故のことを聞いてくるんです。でも、僕は前も言いましたけど、その頃は小学生ですから……鞠奈の事故のことなんかよく理解できなかった……。村上さんにお話しできることなんてあまりなかったんです。わざわざ、これだけの為に京都まで来たかと思うとなんだか申し訳なくて……それで警察に問い合わせて聞いてみたら、と僕は村上さんに提案しました」

「それで、警察に聞いてみる、と彼は了解したのですか?」

「その時は、そのつもりになったようです」

 ところが、その日に重五郎が殺され、自分が容疑者として疑われているのではないかという心配が湧いてきた為に、警察には問い合わせなかったのだろう。

「一体、彼はなぜ鞠奈さんのことを調べていたのか、その点に心当たりはありませんか」

「いえ……ただ彼は「驚くべき秘密に気づいてしまった」と僕にそう言ったんです」

「何ですって……驚くべき秘密……それはなんのことだか彼は言っていましたか」

「いえ……残念ながら教えてくれなかったんです……」

 一体、村上隼人の語った「驚くべき秘密」とは何のことだったのであろうか。祐介は話を聞くに従って、体がゾクゾクとしてくるのが冷え性みたいで耐えられなかった。

「ところで、その鞠奈さんの自動車事故というのは一体どこで起きたのですか」

「栃木県のどこかだったと思います。すみません。記憶が曖昧なもので……」

「大丈夫です。それだけ分かれば……」

 そして、祐介はまたしても事件の核心に近づいてきた気がして、武者震いのような衝撃が全身を駆け抜けてゆくのを感じたのである。

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