41 初七日に舞い降りた死

 その翌日のことであった。初七日しょなのかの法要ということで、赤沼家の人々は補陀落山ふだらくさん金剛寺こんごうじに集まっていた。亡くなってから七日目に執り行う初七日の法要は、今時では簡略化されて、葬式と同日に行うことがもはや一般的であるが、赤沼家では今でも七日目に執り行うことにしていたのである。

 この時に突如として舞い降りてきた第二の死というのは、実に不可思議な形で今回の事件を彩ることとなった。もしも、この死がなかったならば、事件はこれほどまでに複雑にはならなかったことであろう。

 この時、集まった人々はごくごく内輪の人間だけであった。というのは、やはり赤沼家の人間の命を狙う怪人が想定されたからである。結局は、いつもの赤沼家の人間の他は、重五郎の叔父叔母がいただけである。

 もしものことがあってはなるまいと、金剛寺の一室には根来刑事や羽黒祐介が待機してきた。しかし、第一の殺人の際に、犯人は赤沼家の人間ではないということが証明されていた為に、警察は人が侵入しないか、外側を見張るばかりであった。しかしこの時、すでに殺戮の魔術は金剛寺の内側に忍び込んでいたのである。

 無事に法要が終了して、座敷で会食が行われた。早苗夫人はまさにその会食の只中にいた。

 早苗夫人は、目の前に並んだ寿司も何もかも、食べる気分にはならなかった。その為に箸は置きっ放しであった。それよりも、これから先のことが不安で仕方がなかった。さまざまなことが早苗夫人の頭を駆け巡っていたのである。

(あの村上隼人という男は今頃どうしているだろう……。彼にはアリバイがあると言っていたけれど……分かったもんじゃないわね……でも…もし本当にアリバイがあるとしたら……他の誰が怪人になり得るというのかしら………)

 考えていると、早苗夫人はだんだん恐ろしくなってきた。

(そもそも、何でこんな恐ろしいことが起こったのかしら………。元はと言えば、あの殺人予告状なんていうおぞましい手紙のせいなんだわ……。全てがおかしくなってしまったのは……あの手紙がきっかけだったのよ……)

 そう思って、早苗夫人は身を震わせた。早苗夫人には、このような不幸が続くことがもはや耐えられないのであった。早苗夫人はその時、ふと蓮三のことを思い出した。あの子なら頼れる。あの子と話したい。しかし蓮三は今どこへ行ったのだろう。この時、座敷には蓮三の姿がなかったのである。

「吟二、蓮三はどこへ行ったの?」

「庭に煙草を吸いに行ったんだろ。法要中もなんだかソワソワしてたよ」

「そうなの……」

 早苗夫人は立ち上がると、蓮三に会う為に庭へと歩いて行った。

 早苗夫人は靴を履いて、庭へと回りこんだ。

 早苗夫人はその時、奇妙なものをみた。その瞬間、早苗夫人は絶句した。あるいは毛が逆立つほどに戦慄した。なぜならば、その庭の中央にはよく刈り込まれた茂みがあったのだが、その茂みから二本あるものが出ていたのである。それは黒い靴を履いた人間の足であった。

 まさか、これは蓮三ではないか、それだけはあってはならないと、早苗夫人は震えながらそれに歩み寄った。

 そして、早苗夫人は見てしまった。茂みの向こうに仰向けで倒れていたのは最愛の息子、赤沼蓮三であった。

 見れば、蓮三の片隅には、煙草が一本落ちていた。

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