20 麗華の気持ち
次に応接間に呼ばれて、極めて重要な情報を与えてくれたのは赤沼麗華であった。
赤沼麗華は、父親の死を受けて放心している様子だと伝わっていたが、この応接間に入ってきた時には、その瞳には再び生気が宿ったように見えた。またいつかの美しさを帯びて、息を吹き返したように感じられた。事件の発生から、幾ばくも時間が経っていないが、それでも、自力で冷静にものを考えられるようになったのではないだろうか。
「もう大丈夫なのですか?」
「はい……」
「お気の毒ですな、こんなお若いのにお父さんが亡くなられて……」
「ありがとうございます……でも、そんなことはもう関係ありません。それよりも、わたしにも事件の捜査に協力させて下さい……」
「あなたにも……? いえ、一般人が事件の捜査に協力するのは危険ですから……」
「でも、何かしたいんです。ただ黙って見ているわけには……」
「危険です。これは殺人事件なんですよ。お気持ちは分かるが、その気持ちは時として復讐心となって自分本来の意識を狂わせます」
「わたしは復讐をしたいわけではありせん」
「それでも個人的な感情は憎しみを生み出し、いつか冷静な判断を狂わせることになるでしょう。だから、我々のような第三者が捜査をしているのです」
「仰りたいことは分かりますわ。でも……」
「私たちを信用してほしいのです」
「………」
「信用して頂けませんか?」
「わたし、刑事さんたちを疑っているわけではありませんわ。ただ、どうしてもじっとしていられないんです……」
「じっとしていて下さい!」
危なっかしくていけねえや、と根来は思った。
「わかりました。刑事さんたちがそんな風に言うなら。でも、私、羽黒さんに相談します……私に出来ることが見つかるかもしれません」
「誰ですって……?」
「羽黒さんです」
「そういう名前の方が知り合いにいらっしゃるのですか」
「探偵をされてるんです」
「ああ、探偵ですか」
明らかに馬鹿にした口調で、根来は言った。
「探偵なんてものはあまり信用せん方が良いですよ。あれはね、浮気調査とかが本業で、殺人事件の捜査なんてせんのですよ……」
「羽黒さんは有名な探偵です。殺人事件もいくつも解かれてるんです……!」
麗華は、必死に羽黒祐介のことを擁護する。
「ん……」
根来はその話を聞いておやっと思った。そして、まさかとは思いつつも聞かざるをえなかった。
「あなたの仰る羽黒さんって、もしかして羽黒祐介探偵のことですか?」
「え? あ、はい……そうです」
「羽黒探偵がこの事件の調査をされているのですか……」
「はい、実は何日か前に東京に行って相談してきたんです」
「そうだったんですか……」
明らさまに根来の態度が変わったのが、麗華は不思議で仕方なかった。
「羽黒さんのこと、ご存知なんですか?」
「ご存知も何も……彼はこの世界じゃ相当な有名人ですよ。何しろ、あの名刑事の羽黒龍三警視の息子さんで、いくつもの未解決事件を解決した名探偵ですからね……」
「そんなすごい人だったんですか……」
「ええ、すでに何か重要な情報を得ているかもしれませんな。近い内に会いに行きましょう。ただ……」
根来は麗華を親が子供を叱るように、
「だからと言って、あなたの捜査参加を認めたわけではありませんよッ!」
と怒鳴ったのだった。
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