第5話 お国のためでごわす。
「しかし、製品に、硫酸とか塩酸とか、物騒な成分が表示されているのに
消費者と言うものは無知ですなあ、いつもそれを使っている」
会長同士が、今夜も一杯やりながらヒソヒソ話をしている。
「全く同感ですわ。結局、見ないんでしょうなあ、毎日、口に入れるものですから
少しは興味を示してもよさそうなもんですがなあ」
「一日に3回も4回も歯磨きをする社員もうちには居ます」
「そうなんですかあ、うちの社員は、うちの製品をあまり好まないようで
発ガン物質が含まれてるとか結構ぐちゃぐちゃ言うとります」
「うちも、先日急にやめた人間がいまして、毒を製造してるとか
変なことばかり言うもんですから、他の理由をつけて首にしました」
「大丈夫ですか?最近は労働問題が厄介ですよ」
「いやあ、腐ったみかんは早いうちに、除かないと、他のみかんまで
腐ってしまいますから」
運ばれてきた肴をつまみながら、二人は深夜まで飲み続けた。
二人とも既に、現役の社長ではないから翌日の出勤は自由である。
二人の間には奇妙共同犯の絆のようなものが生じていた。
とは言うものの、心の何処かに大きな不安は住み着いたままだ。
家族にも友人にも話せない製品毒の事である。
今や、傍に居る同業者にしか理解してもらえない機密事項と
なっていたが、ここだけの話し、両社は今回の製造にからみ
尾崎首相の特別忖度で、大型助成金を手にしている。
最早、後戻りは出来ないし
日本という国の将来を担っているという奇妙な自負もある。
ガンと言う病気で多くの高齢者を整理出来れば
年金財政も立て直せるかもしれない。
いわば、二人は御国のために働いているわけだ。
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