第4話 年金財政の逼迫

その後、三年の歳月が流れ去った。


尾崎首相は、まだ総理の座に君臨している。

他にやれる人材が、悲しいことに居ないのである。

日本に本物の政治家が居ない証左である。


二人の社長は、揃って会長職になったが

実際の権限は、確実に掌握している。

現社長は、形だけで、三年前よりも二人の権勢は

増している。


 奇妙なデーターが総理から二人に渡され

深夜の官邸で、またまた密談となった。


 若年層のガン死亡が増加し

高齢者のガン死亡が横ばいである。


年金保険料を納める若年層が亡くなり

年金を受け取っている年代層が、いまだに死なずにいる・・・。


「弱りましたねえ・・・」

尾崎首相が眉間に皺をよせてささやく。

小峰社長も室津社長も同じ表情である。


「どうやら、高齢者は、我々が思うほど、歯磨き剤を使っていないようで」


「若い人は、昨今の健康ブームで、1日に何回も磨いている。

 この年齢層の消費は順調だ」


「年寄りは、危険なものを口に入れない」


「防御反応が自然に出ているようで」


「高齢者が、表示している薬品名をいちいちチエックしているとは

 思えんのですが・・」

「まあいずれにしても、じわじわとガン患者を増やして

 どんどん死んでいただくと言う計算は、成り立たないようで」

「若い人が先に亡くなるとは、誤算もいいところで」


「考え直しが必要ですなあ」


「もっと強力で、高齢者が死亡するものは作れんのですか?」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「現状のまま推移しますと、年金受給者の高齢者ばかりの日本が

 年金破産するのは、間違いないのです・・・」

「お気持ちはわかりますが総理、我々もあきらかな毒薬を製造するわけには・・」

「何か他の方法をお二人に考えていただきたい」

「・・・・・」

「・・・・・」


 年金財政の逼迫が三人を苦しめていた。


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