第72話 いろいろ思う夜
母が余命宣告を受けたことが信じられないほど、穏やかな日々が過ぎる。三か月前に宣告されたことは、まるで遠い過去のように思えるほど。
安定していると信じたい。思っていたより順調なのでは?と思いこみたい。体調が不安定にも見えない。薬で安定した状態を維持できているのだが、もしかしたら宣告された期間よりもっと先まで、ずっと先まで、生きていられるのでは?そうあってほしい。そう思いたい。でも現実は違うのだろう・・・。
安心していられるのは、母の寿命が延びたと感じるからではなく、母が家にいてくれるから。それだけで安心する。
母と一緒にいる時間を大切にしたくて、この頃は外で飲まなくなった。家飲みをする。缶ビールを開けて、母が家にいることに乾杯。美味しく飲める。もう一度一緒に生活したいと思っていたことが実現できているわけだから。
少し前までは、外で飲んでも家で飲んでも母のことが心配で不安なだけだった。悪いことばかり考えてしまっていた。でも、今は違う。母が家にいる嬉しさで美味しく飲める。
でも頻繁に飲む気にもなれない。ふと大橋先生の余命宣告が頭をよぎるから。母のことが心配になる。期待と不安が交互に押し寄せる。今は前向きにとらえようと自分自身に言い聞かせる。
あまりに母を心配し過ぎて「お母さん大丈夫?」、「足元は大丈夫?」など、気づかぬうちに「大丈夫?」をたくさん使ってしまい、兄に注意された。普通に生活したい母に、かえって病気を意識させてしまうという。
確かに母のことを思うあまり、過剰な「大丈夫?」は良くない。でもやはり心配で、何かあるとすぐ「大丈夫?」と聞いてしまう。なので、今までは10回言っていた「大丈夫?」を3回ぐらいに減らして言うように、と注意を受けた。
「心配して何が悪いの?回数の問題?」と喧嘩になったが、落ち着いて考えると、母のことを大事に思うからこそ、母を心配させないように接する心がけが大切だと理解した。でもこれがまた難しい。まずは「大丈夫?」と言う回数を少なく・・・。
――どうにも回数の問題じゃない気もするが。
家族間でも考えの違いでいろいろと問題が出て来ることはある。それでも家族一丸となり、厳しい現実を受け止めて、不安を抱えながらも、今とこれから先も、母と過ごす日々を大切にしようという思いはみんな同じだ。
すべては母のために。
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