第6話 母に会いに行こう
母の入院生活が始まってから、僕の生活は一変した。朝、洗濯機を回し、洗い物と片付けをして、洗濯を干し、風呂の掃除をして、母の着替えを持って病院へ向かう。
坂の上にあるK病院。家から歩いて10分ほどで着く。近くてとても助かる。道中も坂を上る時も母の事が気になって仕方がない。とにかく一刻も早く母の顔を見ないと落ち着かない。気持ちが焦り、足早に病院を目指す。
病院に着くと入院病棟の受付へ。自分の名前を記入して入館証を受け取る。受付女性の対応がとてもありがたい。何度も出入りすると顔を覚えてくれて、「そのままどうぞ」と名前記入の手間を省いてくれた。こういう大変な時だからこそ、優しいお気遣いに感謝の気持ちが溢れる。
数年後。最寄駅からの帰宅中、K病院から仕事帰りのその受付女性とすれ違う時があった。向こうは覚えていないだろう。でもこちらは優しい気づかいを覚えている。当時を思い出して感謝した。
母は入院した時から車椅子で移動していた。朝の採血や検査の時は看護師さんが車椅子で連れて行ってくれる。入院してすぐ、ベッドの頭上には母の顔の周りを取り囲むようなビニールで覆われた除菌装置が設置されていた。数日間はこの装置を付けることになったが、母は寂しそうな笑顔で嫌がった。
「普通に寝たいよ」
母の気持ちは分かる。今まで健康に過ごしてきたのだから、急に重病人扱いの生活となったのは嫌だと思う。それでも病が少しでも回復するのであれば、なんとか我慢してもらいたい。だから母を励ます。
「先生も三日間くらいで(除菌装置を)外せると言っていたからさ。それまでは付けておかないと」
病は気から。母の気持ちを思い、とにかく落ち込まないように励ましていこう。朝晩、顔を出して楽しい話をしよう。母の好きなコーラスグループ「FORESTA(フォレスタ)」の話、ピアニスト「西村由紀江」さんの話、バラエティー番組「モヤモヤさまぁ~ず2」の話、「ポチたま・まさおくんの旅」の話など。
「お母さんが入院している間は録画して取っておくからね」
「取っておかなくてもいいよ」
「いいから取っておくから。退院したら見ようよ」
「ありがとう」
母の笑顔を見ると心が落ち着く。
もっともっと、母の気分を盛り上げて行こう。毎朝、毎晩来て元気パワーを注入しよう。今までたくさんの元気をくれた母に、もっともっと、ずっとずっと元気で長生きしてほしいから。
明日も明後日も明々後日も、母に会いたい。これからも毎日、母に会いに行こう。
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