第17話

 白銀のセラミックの上に釘付けにされた時代遅れな建造物。

 薄暮の中に浮かんでいる。

 そのもとに黒い男が監督僧の白いローブをまとってたたずんでいた。

 黒天使によく似た男はゴシック寺院の正面から堂々と入っていく。

 しかし、男の瞳は荒々しささえ見せ、ドナには見せなかった残忍な表情をしていた。

 静謐な祈りの場に、足を踏みいれる。

 アーチ状の柱が高い天井を支え、聖母を仰ぐ聖人の似姿が信者たちを見下ろしている。

 白い光芒を放つ聖母像が、病める者たちを優しく慰撫するように、両腕を広げて立っていた。

 男は聖母像の前にひざまずく信者や尼僧の後ろを音もなく通り過ぎていく。静かにうつむいた彼の顔は、まさに黒天使とうり二つだった。

 寺院の内部は近代化され、古典的なのは外殻だけだと知らされる。

 彼は一度も入ったこともない、この寺院の内部を知り尽くしていた。

 もとは監督僧であり、そして、工場の責任者に昇進した男の脳みそから、隠された情報をすべて掌握していた。

 穏やかな笑みを口許に浮かべながら、黒い天使に似つかわしい行為を行使しに行く。

 ひとたび、コンピューターの回路にアクセスし始めたときから、人間には不可能な情報が彼の中に雪崩込んで来ている。そして、同時に彼をここに送り込み、黒天使を差し向けた人間に情報を送り続けている。

 尼僧を売買し、黒天使を殺した人間の破滅は、見えない部分から既に始められていた。

 寺院の最上階でチェックメイトされる。

 エレベーターの登録コードは彼には無用だった。

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