第12話

 ドナが部屋を片付けて教会の礼拝堂に戻って来たときには、黒天使はいなくなっていた。

 丸い大きな目をパタパタと瞬かせる、妙に愛嬌のあるガードロボットだけが残っていた。

 黒天使やコルベートのことを考えると落ち着かなくなる。ドナが初めて男性に異性を意識したのは、彼らが最初だった。

 尼僧院で接する機会のあった男性は、教祖であり司教のオレフ様と、一部の監督僧だけだった。監督僧などおよそ異性の対象なんかではなかった。比べ、オレフ様はあこがれの対象であり、恋愛やら俗物的感情の相手等ではない。

 首筋に残るコルベートの手の生暖かさと、手に残る黒天使の冷たい感触。

 この二つがドナの心にずっしりと重かった。

 しかし、暗くなってはいられない。

 シスターであるかぎり、そして、この教会があるかぎり、仕事というものをしなければならない。

 ドナは物置へ走り、バケツとモップをもってきた。教会に一応備え付けられているクリーナーを使えば、あっという間にピカピカになるけれど、教会の教えはそれを禁じていた。

 ドナは打ち付けられて動かないいすの下にもぐりこみ、昼間のゴタゴタを忘れ去ろうと、一生懸命になって、汚れをこすり落とした。

 何かが、チョコチョコとドナのお尻をくすぐる。

 ドナは犬かと思い、

「おやめってば、くすぐったいじゃない」

 笑いながら、そっと振り返った。

 ガードロボットがドスンドスンとドナにぶつかってくる。

 ドナは仰天して、いすの下からはい出た。

 カシャカシャとロボットのまぶたが瞬く。ロボットの気味の悪い無表情に、ドナはゾッとした。

 ロボットのわきの蓋がパカッと開き、しゅっと何かが飛び出たかと思うと、ドナの胸にプスリと刺さった。

 ドナは叫ぼうとした。しかし、喉はマヒし、ドナは力なく崩れた。

「ピッ、ニンムカンリョウ」

 薄れていく意識の中で、ドナは自分が狭くて薄暗いところへ押し込められるのを感じた。

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