第9話
黒い男の沈んだ黒い瞳が、無言に非難しているように見える。両足でしっかりと地上を踏み締め、彼は何事もなかったかのように、物陰に消えた。
(次の出荷は何日後だ)
(三日もありません。それだけあれば十分でしょう)
(いやな情報を耳にしたのだ……だれかがわたしたちの事業に首を突っ込んでいる)
(不審者を探らせましょう。登録していないものがいればすぐにわかるはずです)
厚い金属壁を通して、機械音に調整された音声が聞こえる。黒い男はほこりの舞う路地裏を、風に吹き飛ばされて行くゴミのようにすばしこく移動していった。
だれも彼を振り返る者はいない。通りは大小関係なく人気がなく、薄気味悪い。
黒い男の表情に乏しい顔が、一心に傍受する会話の内容に集中している。機械音のせいで特定の人物を判定するのは難しかった。しかし、情報に変わりはない。
(今も見張らせています。呑気にふろに入っているようですね。どうせ、服も着らずに出荷するんだ、このまま連れてきましょうか)
(お前の好きなようにしろ)
(では、早速)
黒い男は、遠目から先程の高層ビルを眺める。M21唯一の貿易会社。教会直属の最大収入源。
非難めいた瞳が宙をさまよい、こめかみを指で押さえる。
(目的を遂行しなさい……)
機械音ではない生身の音声が黒い男の耳の中に反響した。
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