第8話

 中央ドームの一際高い建物の外側に、ゴミ袋のように何かが引っ掛かって揺れている。

 窓からは見えない側面を、金属線のような命綱につかまって、黒いコートが垂れている。地上は既にケシ粒のように小さく、黒い男は寄生虫のように建物に取り付いている。

 するすると、取っ掛かりのない建物の表面を昇っていく。革の手袋が、ギシギシときしむ。

 ひとしきり昇ると、彼は作業を止め、銀色の壁に耳をつける。確信を得て、コートの内側から、小さなドリルを取り出し、静かに壁に穴を開け始めた。まるで針穴のような小さな穴が開き、その中に細い糸のようなものを突っ込んだ。耳に耳栓のようなものを詰め、両耳を手でふさいで、何かに聞き入っている。そして、彼は一気に金属線のリールを巻き上げ、屋上へと上がっていった。

 飄々とした、建物の一角。彼は恐れもなくへりに立ち、ドーム内を一望する。顔をわずかにしかめ、「見えているか」とつぶやいた。

 すぐに巻き尺式の金属線をベルトの金属部分に収めると、ためらいもなく飛び降りた。

 落下する。

 黒い人影にだれも気付かない。無関心な町並みは、そのまま住民の心象を表している。宗教は、冷たく降り積もっている。溶けない澱のように、町を覆っている。

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