第3話

「G−4ゲートに貨物航船SN−343入ります。作業員は定置に着いてください」


 岩や砂ばかりの惑星の表面に、丸いドームがところどころにある。一万度の高熱を発するシリウスを太陽に、防熱加工された白いドームの屋根が目が焼けるほどに輝いている。


 M21の宇宙港のゲートが蜂の巣のように密集している。六角形のゲートから、新式から旧式の船が発着する。航路が交わらないように、管制塔が見えないルートを導いていく。


 巨大な貨物船は、ライトのこうこうと照らされる六角形の穴のなかへ降り立った。噴射口から熱気が逆巻き、鳴動しながら着陸した。エンジン音は徐々に止み、熱気が空へ巻上がると、天井のブースが閉じた。


「SN−343、出荷ゲートを開きます。ハッチを開いてください」


 炭酸の漏れるような鋭い空気音が響き、四つのゲートが開く。大きな魚のような船は、下腹のハッチを大きく開き、わらわらと貨物を運び出すロボットに身を任せた。


 ロボットは黙々と白い四角のブロックを運び出す。四方のゲートに延びるベルトコンベアに順に載せ、ゲートの奥に消えていく積み荷を見送ることもない。 最後の積み荷が運び出され、ロボットたちはピタリと作動を停止した。


 再びやってくるブロックに反応するまで、または搭乗のサインが下されるまでは、ただのでくの棒と化してしまう。


 降ろされたブロックはベルトコンベアでそのまま除菌室をくぐり、それから生きた人間によって初めて仕分けされる。それまでの様子をすべて、所処に取り付けられたカメラが管制塔へ映し続け、異常の有無を伝えるのだ。


 異常は見つからなかったようだ。ひとの手による検閲も終わり、ブロックは区分けされて、市民の手に渡されていく。


 食料を積み込んだブロックは冷凍保存されている。外温の影響をシャットアウトし、また外気にその冷気を漏らさない。


 無論、外見からその異常を発見することは難しい。検閲の時点で、それを補うためにブロックの中身を透写して、中身の異常を見つけ出すのだ。登録されていない物品は、ただちに仕分けされて責任者は検問される。


 区分けされたブロックは、それぞれ積み重ねられ、倉庫で一時保管される。定時を過ぎると作業員は仕事を終え、帰路につく。文字どおり、倉庫にはひとっこ一人いない状態になってしまう。


 最後の作業員の上がりの声と、シャッターの閉める音が響くと、あとはネズミでもいない限りどんな音もしないように思えた。


 しかし、どこかでカチリと電子ロックの開く音がして、鋭く空気の漏れる音が響いた。


 ゴトリと鈍くものの崩れ落ちる音。


 コーンと軽い落下音。そしてコツンと高い靴音が響き渡る。


 光源のすべて絶えた倉庫のなかで、その音の主を見つけることはできなかった。

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