第60話 ss.嵐はいずこ

 石垣島も暑さがだいぶ和らいでパパに言わせると短い秋なんだって。

 でも、私に言わせればまだまだ暑いんだよ。

 夜と朝方はだいぶ涼しくなってきてるとは思うんだけど、太陽はまだまだ元気100倍って感じなんだもん。

 そんな週末に私はユーカさんとミポさんのアパートの泊りがけで遊びに来ているの。

 ユーカさんとミポさんのアパートは2DKで一部屋ずつ使っているんだけど部屋の真ん中にある襖を挟むようにベッドが置いてあるの。

 何でも、寝る時は襖を開けてお喋りしながら寝るんだって。

 でね、2人の部屋は両極端って言うか……


 ユーカさんの部屋はシンプル・イズ・ベストって感じで凄くすっきりしていてユーカさんの人となりを表しているんだけど、ミポさんの部屋は……

 壁一面に本棚があって綺麗にコミックやライトノベルやDVDが……

 まさしく壮観って感じで、後はパソコンデスクがおいてあって綺麗なんだけど。

 所々にフィギュアーが置かれてて。

 これで部屋が汚ければ確実にネルシャツを着てケミカルウォッシュのジーパンにシャツインした眼鏡を掛けた小太りの男の人が現れそうな……なんて失礼だよね。


「ミポはアニオタだからね」

「ユーカさん、身も蓋もない事を」

「だって、しょうがないじゃん。事実なんだもん」


 そんな事を言われてもミポさんはどこ吹く風だった。

 でも、夏休みに西表で聞いた話とは少しかけ離れているような気がするんだけど。


「良いんだよ、チーフだってカミングアウトしているし。私だって隠すきなんて毛頭無いから」

「えっ、まさかと思うけど……」

「そのまさかなの、美緒ちゃん」


 パパ、あなたはいったい何て事をしたんですか? 

 この物静かで可愛らしい女の子を悪の道に引きずり込んでアニオタ&秋葉系にしてしまったとは……

 信じられない……


「本当にミポは人の影響を受けやすいよね」

「でも、今は自分で歩いて行けるよ。暗い所と雷は怖いけど」

「まぁ、チーフのお陰でミポは日の当たる所に出てこられたんだもんね」

「それって……」

「実はあれからしばらくしてミポの元彼は傷害事件を起こして問題になったの。1歩間違ったらミポだったのかもしれないしね」

「もう平気だよ、ちゃんと人を見る目を養っているからね」


 ミポさんの言葉に胸を撫で下ろしたの、パパの影響ばかりじゃなくてちゃんと自分の目を信じているんだよね。

 凄いと思う2人とも大人なんだ。


「チーフ教の教祖のくせに」

「良いじゃん、私の勝手でしょ」


 それを聞いた瞬間、ユーカさんが出してくれたジュースを吹き出しそうになった。


「げほ、げほ、げほ、苦しい……」

「大丈夫? 美緒ちゃん。ユーカが変な事を言うからだよ。チーフは私にとって憧れの人なの」

「まぁ、仕方が無いって言えば仕方が無いよね。ミポにとっては白馬に乗った王子様みたいなもんだもんね」

「いつかチーフみたいな素敵な人を探すから良いでしょ。ユーカなんてこの間、彼氏に振られたばっかりのクセして」

「あうっ、それは言わないで約束でしょ」

「変な事ばかりユーカが言うからでしょ」


 2人のやり取りを見ていて私は笑い出しちゃったの。

 だって凄く仲が良いのが判るんだもん言いたい事を言い合ってるんだよ、本当に信頼し合ってる証拠だもんね。


「ああ、美緒ちゃんに笑われた」

「ユーカの所為じゃん」

「本当に仲が良いんだね」

「まぁね、大親友だし」

「そうだね」


 それからいっぱい色んな話をしたんだよ。

 でも一番気になるのはミポさんがアニメやコミックに嵌った理由かな。

 聞いてみて少し驚いちゃった。


「西表ではこの話はしなかったんだけど。実はミポはしばらくチーフと一緒に暮らしてたの」

「ええ! パパと一緒って……」

「やっぱり、驚くよね。だから話せなかったの。要らぬ誤解を避けたかったから」


 ユーカさんとミポさんが一緒にアパートで暮らし始めるまでの2ヶ月くらいパパと一緒だったんだって。

 急なことでアパートを引き払うにも荷物を運び出す所が無くって、仕方なく身の回りの物だけを持ち出してパパがマンションに連れてきたんだって。

 それでしばらく相手の出方を伺う為に仕事も休んで、パパのマンションから一歩も外に出ないで居たんだって。

 私がもしミポさんの立場だったら怖くて外なんて歩けないと思った。


「で、チーフの家にあるコミックやライトノベルを読んで、パソコンでアニメを見続けたらオタクの出来上がりって訳」

「でも、それだけじゃオタクにはならないんじゃ」

「チーフだって、冬場にすることが無くって嵌ったって言ってたからね。それに元々ミポは夢見る少女だからじゃないのかな」

「良いでしょ、ちゃんと現実も見てます。だからチーフみたいな人を探すって言ってるでしょ」

「ええ、それってパパじゃ駄目って事なの?」

「違うよ、チーフには心に決めた人がきっと居るんだよ」


 2人が話してくれたんだけど私が石垣島に来る前から、時々寂しそうな哀しそうな目で海を見ている時があるって。

 それは私も薄々感じていた事だったから驚いちゃったんだ。


「私は元々ワンルームに住んでいたんだけど狭くって引っ越しを考えていたの。でね、チーフにミポと一緒に住んだらどうだって言われてチーフに保障人になってもらってこのアパートでミポと一緒に暮らし始めたんだ」

「最初は喧嘩ばかりしてたけどね、でも喧嘩と仲直りを繰り返しながら2人はお互いの事を知ってより仲良くなったんだよね」

「そうだね」


 それから、ミポさんの部屋で色んな事を教えてもらったの。

 もちろんユーカさんも一緒にね、ちょこっとだけユーカさんは嫌がってたけど。

 だって私の知らないパパの事を知るチャンスじゃんね。

 特にミポさんはパパの影響を凄く受けてるし、それにパパがどんなアニメなんかを見ていたか知りたいしね。

 でも、意外とパパが見ていたアニメって普通だったよ。

 もっと凄いの見てたのかと思ったらミポさんに怒られちゃった。


「チーフはそんなオタク塗れの人じゃありません!」


 って、ミポさんが真面目に怒ってる顔を始めてみたかも。

 それくらいパパの事を思ってるし知っているって事だよね。

 でも、最近は凄いんだね『初音ミク』ってソフトは歌を作って歌わすことができるんだよ。

 そんで凄いのはCDまで発売されてるんだよ、それもベストアルバムだよ。

 しばらく、頭から抜けなかったんだよ……


「ミック、ミックにしてやんよ」

「ミック、ミックにしてあげる」


 カルチャーショックだったなぁ、おそるべしだね。

 アニソンもいっぱい聞かせてもらえたし、パパが見ていたアニメも中々面白かったな。

 今度、お家で見せてもらおうと。


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no rain...no rainbow... 仲村 歩 @ayumu-nakamura

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