第34話 今年は
今年の梅雨は晴れの日が少ないような気がしていた。
雨が降らなければそれはそれで島では水不足に悩まされ困った事になってしまうのだけど。
雨の所為なのか美緒がイライラしていた。
「ああ、もう何で雨ばっかりなの。嫌になちゃう、気は滅入るし」
「何を梅雨に八つ当たりしてるんだ。もう直ぐ梅雨も終わるよ」
「そんな事、パパに判るわけ無いじゃない! 馬鹿じゃないの?」
「今度は俺に八つ当たりか? もしかして美緒お前」
「変な事を勘ぐらないでよね。私だって女の子なんだから失礼でしょ!」
「悪かった、ゴメンな」
「もう、謝んないでよ……」
数日後にはハーリーが行われようとしていた。年に一度の海人(漁師)の盛大なお祭りだ。
八重山の各地で行われるが中でも浜崎町の石垣漁港で行われる『大海洋祭マンタピア八重山』と合同で行われる、石垣市爬龍船競漕大会『海神祭』が一番盛大で。
そして、ハーリーの鐘が鳴れば梅雨が明けると言われるくらいハーリーが終わると沖縄に夏本番がやってくる。
『海神祭』の前日くらいから美緒が体調不良を訴え始めていた。
「美緒、辛いなら学校を休んだらどうだ?」
「平気だよ、このくらいいつもの事だし」
「そうなのか?」
「それに、明日は朝からハーリーの応援にクラスで行くんだから」
「そうだったな、楽しみにしていたもんな」
「うん、いってきまーす」
「気をつけていくんだぞ」
「はーい」
石垣市爬龍船競漕大会『海神祭』では中学校対抗や職域と呼ばれる会社やお店で参加する団体ハーリーに女性だけのマドンナレースなどが行われる。
そして海人(漁師)による御願ハーリーで始まり東1組・東2組・中西合同と地区別の海人が転覆ハーリーや〆の上がりハーリーで順位を競う。
年に一度の盛大なお祭り&レースな訳で応援する方にも力が入り、島のオバーもあらん限りの声を上げ太鼓を打ち鳴らして応援する一大イベントだった。
美緒達も学校の代表として応援に行く事になっていて、初めての『海神祭(ハーリー)』を美緒はとても楽しみにしている。
しかし、美緒は体調不良を理由に学校を早退して帰ってきていた。
メールで連絡があったが大丈夫と本人が言っているので、俺はいつもどおり店で仕事を終わらせて片づけと翌日の準備をしていた。
「チーフ、美緒ちゃんは元気ですか? たまにはお店にも連れて来てくださいよ」
「まぁ、元気かな。ユーカ、美緒の連絡先を教えるから一緒に遊べば良いだろ」
「それは、駄目です。メルアドとナンバーは直接本人と交換するのがルールです。ね、ミポ」
「うん、そうだね」
「そうか、あいつ今日は具合が悪くて学校を早退して家で寝てるよ」
「ええ! 具合悪いのに独りぼっちなんですか? 信じられない、チーフの人でなし! 鬼!」
「それじゃ聞くが誰が働いて俺と美緒に飯を食わせてもらえるんだ?」
「それはそうだけど」
「それじゃ、後は任せたぞ。俺はこれで帰るからな。オーナーに鍵を閉めてもらえよ」
「はーい、なんだやっぱり心配なんじゃん」
「当たり前だろが。それじゃお先」
「「お疲れ様でした!」」
由梨香と美穂里に見送られて店を後にしてマンションに急いだ。
マンションのドアを開けると美緒がパジャマ姿で居間で丸くなっている。
「美緒、大丈夫なのか?」
「うん、お腹が痛いだけ」
「薬は?」
「切れちゃった。それに買い物に行きたい」
「そんなに痛いんじゃ無理だろ、メモをしろ俺が買い物に行って来るから」
「で、でもパパじゃ……」
「それじゃ、美緒が行けるのか?」
「無理かも……」
「それに急ぐんだろ」
「えっ、う、うん」
美緒にメモを書かせて近くのマックスバリュー平真店に向う。
そして軽く食べれる物と飲み物を籠に入れてメモに書かれているものを籠に放り込んでいく、怪訝そうな顔で見られるが俺は全く気にしなかった。
そして店内の薬屋で店員お勧めの鎮痛剤を購入してマンションに戻る。
「美緒、買って来たぞ」
「ほ、本当に?」
美緒の前にマイバッグを置くと紙袋を取り出して慌てて風呂場兼トイレに向った。
「ギリギリセーフかも」
「そんなに辛いならもっと早く連絡しろ。喰い物を買ってきたから少し食べて薬を飲むんだ」
薬とジュースと菓子パンを取り出して美緒に渡した。
「あ、いつもの薬だ。何で判ったの?」
「店員に聞いたんだ。一番効く奴をよこせって」
「でも、パパは恥ずかしくないの? こういう物って女の子しか必要ないじゃんか」
「恥ずかしがる必要は無いだろ、俺くらいの歳なら結婚していて当たり前だ。嫁さんが具合が悪ければ旦那が買い物に行くもんだろ。それに高校の頃、スーパーの日用品売り場でバイトをしてたからな」
「そうなんだ、ありがとう」
「薬は飲んだのか?」
「うん、少ししたら楽になると思う」
「それじゃ、部屋でゆっくりするんだな」
「う、うん」
美緒が不安そうな顔をして俺の顔を見上げて戸惑った様な表情を浮かべた。
「まだ、何か言いたい事があるのか?」
「う……でも、無理だよね。もう部屋で寝るね」
「言いたい事があるのなら、はっきり言えよ。そこで少し待っておけ、シャワーを浴びてくる。出てくるまでそこを動くなよ。良いな」
「パパ……」
美緒の言葉を遮るように着替えを準備して風呂場に向かいシャワーを浴びる。
シャワーを浴び終わって美緒の食べ残しのパンを食べていた。
「パパ、もう寝るね」
「待ってろって言わなかったか?」
「でも……」
立ち上がり洗面所で歯を磨き部屋に戻り徐に美緒を抱き上げた。
「パパ? 何をするの?」
「あのな、不安なら不安だと言え。具合が悪いんだろ」
「そうだけど、いつもの事だから」
美緒を俺のベッドの奥つまり窓際に寝かせると美緒が困った顔をした。
「なんだ、その顔は? 嫌なのか?」
「嫌じゃないけどさぁ、良いの? 本当に」
「あのな、真帆と居る時はどうしてたんだ? 真帆と一緒に寝てたんじゃないのか?」
「な、なんで判るの?」
「美緒の顔に書いてある。誰かの側に居たいって。今までもこんなだったのか?」
「こんなって?」
「生理不順で生理痛が酷いんだろうが」
「えっ、知ってたの?」
「あのな、俺はその辺のガキじゃないんだ。付き合ってきた女だって何人も居るんだ、それに結婚経験者だぞ。美緒がここに来て丁度2ヶ月半だ、普通なら2回はあってもおかしくない話だろ。そんな事も判らない男は猿の雄と一緒だ」
「ゴメンなさい」
「謝るな、寝るぞ。明日早いんだろ」
「うん」
美緒から少し離れて美緒に背を向けて横になると美緒が話しかけてきた。
「なんで、パパのベッドはダブルサイズなの? もしかして」
「もしか何てねえよ、体がデカイからシングルじゃ狭いんだよ」
「もう、なんだか口調が怖い。怒ってるの?」
「怒ってないよ、寝るぞ」
「うん、ありがとう。パパの匂いがして落ち着いた」
「加齢臭か?」
「違う! 少しだけ男の人の匂いがするだけだよ」
「当たり前だ、これで女の匂いがしたらそれはそれで問題だろ」
「明日からは美緒の匂いがするけどね」
「バーカ、娘の匂いがしたってなんて事ないだろ」
「うん、おやすみ」
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