第33話 『今日は』

『はんなとーら』まで来た道をひたすら走り続ける。

カーステレオからは俺のお気に入りのMiss Mondayの曲が流れていた。

「パパ、石田さん達とはどういう知り合いなんだ?」

「前の仕事先のオーナーの親戚だよ。俺の事を気にかけてくれてる人たちだよ」

「前のってどんな仕事をしてたの? 今まで」

「ホテルでサービスの仕事が多かったな。フサキに軽井沢に宮平、そうそう初めて石垣に来た時は全日空ホテルでバイトをしてたんだ。それにイタリアンのワインバーの調理だろコンビニの深夜番もした事あるし居酒屋の雇われ店長に他の居酒屋で火口と揚場をしていた事もあるな」

「本当にフラフラと色んな仕事をしてるんだな」

「内地に居た時も色んな仕事をしたぞ。高校卒業して直ぐにケーキ屋に4年勤めて、アクセサリー関係の営業のアシスタントだろ。それから石垣島に来て、戻ってきてから派遣に登録してテレビ局の大道具をしてたりファッションリングの製造や日産の期間従業員をしてから石垣島に移って来たのかな」

「凄いんだね」

「ただ飽きぽいだけだよ。趣味と一緒だ、何でも広く浅くだから長続きしない」

「判ってるのに駄目なのか?」

「性分かな。直ぐに上司や会社と衝突して、堪え性がないんだよ」

「そうなのかなぁ」

美緒が来る時と同じ様に何かを考え込んだ。

「ねぇ、パパってもしかして好きな事に対してはストレートじゃないの?」

「皆そうだろ」

「そうじゃなくって、パパは真っ直ぐ過ぎるんだよ」

「へそは信じられないぐらい曲がりきってるけどな」

「ああ、自覚はあるんだ」

「歳を取ると腹の中が黒くなって来るんだよ」

「うわぁ、聞きたくないよ! そんな話、パパのイメージが」

「美緒の頭の中のパパのイメージってどんななんだよ」

「え、えーとね。いつも仕事中みたいにビシっとしているパパかな? 仕事も家事も女の扱いも超一流で完璧なの」

「無理、聞いてるだけで息苦しいぞ。仕事だけで十分だろ、それに家事だってそこそここなしているだろ」

「えー、あんなにだらしないのに? 片付けも出来ないくせに」

「悪いとは思ってるんだぞ。それに女の扱いが上手ければ苦労しないよ」

「それは、何となくユーカさん達の話から判る気がする。誰にでも優しいんだもんね」

「まぁ、そう言うことにしておいてくれ」

毎回、不思議に思う事がある。

遠出した時の帰りの時間が短く感じるのは何故なんだろう。

もう直ぐ白保の集落の入り口にさしかかろうとしていた。

「そうだ、少し寄り道するぞ」

「えっ? どこに?」

「知り合いのお店だ、美緒も気に入ると思うけどな」


白保の集落を過ぎて宮良の特別支援学校の先でスピードを落として小さな看板が出ている民家の庭先に車を入れる。

「ishigaki...yururu...?」

奥まで進むと白いガレージの入り口にラタンの暖簾が風に揺れていた。

車を店の前に停めて店に入る。

「こんちは!」

「あら、おじぃ。いらっしゃい……今日は女の子連れなんだ」

「『今日は』を強調してません?」

「だって、この間はたしかお友達の年上の女性と一緒だったでしょ」

「まぁ、否定はしませんけど。俺の娘ですよ」

「む、娘さんなの? どこにおじぃの血が流れてるの? 凄く可愛い子じゃない」

「それでも俺の娘ですよ」

「だから、今回は安全運転なのね」

「いつもは違いますか? 安全運転しているつもりなんですけど」

「う~ん、少し荒いかな」

「すいませんでした、以後気をつけます」

そんな話をしていると美緒は鼻歌交じりで、俺達の会話には聞こえている筈なのに無関心な振りをしてに綺麗な碧いガラス達を眺めていた。

「美緒、欲しい物があれば言えよ」

「うん」

俺の方を向かずにガラスを見ながら返事をした。

「ねぇ、おじぃ。本当に娘さんなの?」

小声でayameさんが聞いてきた。

「昔の彼女の子どもなんです。父親を探す為に来たんです、ここまで」

「それじゃ」

「調べた訳じゃないですけど、多分」

「そうなんだ、おじぃも大変だね」

「楽しいですよ」

「それなら良いけど」

美緒を見るとピアスやネックレスを手にとって光りに翳しながら眺めていた。

「良い子そうじゃない」

「俺の娘が良い子じゃ無い訳が無いじゃないですか」

「たいした自信だこと」

美緒に近づき声をかけた。

「綺麗だろ」

「うん、でもピアスの穴なんて開けてないし。ネックレスはね」

「それじゃ、携帯のストラップはどうだ。こんな感じで」

俺の携帯を美緒の目の前に出すとストラップに触ってまじまじと見ていた。

「ここで買ったのかぁ。前から気にはなっていたんだけどさぁ。それじゃこれにしようかな」

美緒が手に取ったのは雫型の綺麗なグラデーションのガラスで可愛く揺れていた。


『ishigaki...yururu...』からの帰り道はのんびりゆっくりと走った。

「なぁ、あの人も友達なのか?」

「知り合いだよ。ブログであの店を知って何度か足を運んだ事があるんだ。お互いにハンドルネームしか知らないよ」

「『おじぃ』がパパのハンドルネームなのか?」

「そうだ、前に仕事をしていた居酒屋がスタッフをニックネームで呼び合う店だったんだ。その店で一番年上だったから『おじぃ』って付けたんだ」

「えっ、自分で付けたのか?」

「そうだよ、いけないか? 結婚もして子どもが居ればオジサン=おじぃだろ」

「ブログね、こんど見ちゃお」

「美緒が見ても面白くないぞ」

「それは見る人が決めるんですぅーだ」

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