第23話
「淳一?」
「唯、えーっとこれはだな」
まずい。非常にまずい。唯にバンドをやってることはバレてはいけないのだ。そう、文化祭の時にサプライズ的な感じで初お披露目したいのだ。 ギターをまた始めたのはもう唯は知っているのだが、バンドを始めたのはまだ知らない。 唯はそこまで感は鋭くないから大丈夫だとは思うが……
そんなことを考えていたのだが、唯の視線は俺の背負っているギターケースではなく、真柴の方に向かっていた。
「初めまして! 私、淳一くんの友達の真柴弓月です」
唯の視線に気づいた真柴は一瞬困惑した表情を見せたが、すぐいつも皆に見せる笑顔で唯に挨拶をした。
「あ、どうも。私は安藤唯です。淳一とは幼馴染というか腐れ縁というか……あんた、何なのよ淳一?」
「いやいや、いきなり何なのって言われてもって感じなんだが……幼馴染だろ」
唯の方を見ると、若干顔つきが険しかった。
唯さん、怖いんですけど……
「あはは、何かいいね! 幼馴染って感じのやり取りで! 私幼馴染いなかったからすごく憧れるなー」
「いやいや、淳一なんかデリカシーないし、ノロマだし、グズだし、淳一と幼馴染で良いとこなんて何もないわよ」
唯……お前それ本気で言ってたら俺泣いちゃうぞ? 28歳のおっさん泣いちゃうぞ?
「うーん、でも淳一くん、ちゃんと良いとこあるよー! いざとなった時助けてくれるし、それに優しいし……」
真柴が俺の方を見て意味ありげな表情をしてくる。
やめろ……お前そんな冗談言ったら唯が間に受けるだろ……ってもう遅いみたいだな……
だって唯さん、俺を睨みつけてくるんだもん……
「ふーん、真柴さん、淳一のこと随分詳しいみたいね」
「うーん、唯ちゃんと比べたら過ごしてきた時間は短いけど、濃い時間は過ごしてきたかなー。色々とね、ねー! 淳一くん?」
だから真柴! 俺の方見て、そんな顔でそういうこと言うな……そして唯……なんか怒ってる? いつもの可愛い顔がどこかにいってしまってるぞ! 今の唯はなんか……鬼の形相だぞ!
「ふ、ふーん。 そうなんだー。ふーん。あっそう」
「唯、別に真柴とは何もなくてだな……」
「え? 別にどうでもいいけどー、淳一がどうしようと私には関係ないし。じゃあ私帰るねバイバーイ」
「お、おい、唯!」
唯を呼び止めようとしたが、唯はそそくさと帰っていってしまった。
最悪だ……
唯、絶対誤解してる……
「お前、変なこと言うなよ……誤解されただろ!」
そう言って真柴の方を見るといつもの笑顔で俺の方見ていた。
「ごめんね、でも恋のリングには上がりたいからねー」
真柴が笑顔でそんなことを言うものだから思わず聞き間違えたのかと思い、もう一度聞き返す。
「は? 何だって?」
「何でもないよー、それじゃあね淳一くん! 私もそろそろ帰るよ」
そう言うと真柴は家へと帰っていった。
さっきのは一体何だったんだ?
そんな疑問を抱えながら俺はギターケースを背負い直し、家へと帰った。
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