第3話「疾風の駆動」

3-1

 深夜、櫻木町を通る高速道路。

 観光シーズンには渋滞になることもしばしばだが、今の交通量は平時とさほど変わりはない。

 運転上のマナーを守っている車が殆どの中、度を越えてスピードを出す車が一台あった。

「ねえ、ちょっとトバしすぎじゃない?大丈夫?」

「へーき、へーき。遅い方が逆に危ないんだって」

 赤が鮮やかなスポーツカーの搭乗者は二名。運転手には染めたのが一目でわかる金髪の青年。助手席には、茶髪の女性が座っている。

 助手席からの不安な声を気にすることもなく、男はアクセルを強く踏んで車体が風を切る感覚を楽しんでいた。

「まあ、そう言うんならいいけど………あれ?」

 ふとバックミラーを見た女性が、間の抜けた声を漏らす。

「どしたよ?」

「なんか…後ろの車、変じゃない?」

「どれどれ?」

 男が不注意にもバックミラーを注視する。そこには、高速で走る二人の車に追いすがる、銀色の軽自動車の姿があった。

「どこが?」

「あの、ほら…運転席」

「え?」

 言われて男は後続車の運転席を見る。しかしフロントガラスが黒く塗りつぶされたようになっており、車内を覗き見ることはできなかった。

「まあ…変、かな」

「ね?なんかちょっと怖い…あ、れ?」

 二人が顔を突き合わせていた一瞬の後、バックミラーから後続車の姿は消えていた。

「ど…どこ行ったの…」

「引き離したんだろ、スピード上げたし…」

 気を取り直して前に向き直る男。しかしその視線は、すぐにドアのガラスの向こうへと引き寄せられる。

 男の視線の先、二人の乗る車のすぐ横に、先程まで後ろを走っていた軽自動車がぴったりと張り付いていた。

「嘘だろ、なんだよこの…っ!」

 プライドを傷つけられた男は、アクセルを踏む足にさらに力を籠めた。時速百キロをとうに超えていたスポーツカーは、さらにスピードを上げる。

 しかし軽自動車は引き離されることなく、遂にはスポーツカーの前に飛び出した。

「おい…おいおい、おい嘘だろ!?」

「ねえ、ヤバイって!スピード落としてよ!!」

 悲鳴に近い女の懇願に、ようやく男はブレーキを踏み込む。

 スポーツカーはけたたましい音を立てながら減速し、車体を左右に揺らしながらも次第にバランスを取り戻した。

 一方で軽自動車の方は止まることなく加速を続け、遂には緩やかなカーブを曲がり切れずに遮音壁に激突した。

 スポーツカーを路側帯に停め、車外に出る二人。しばらく前方で爆発炎上する車を茫然と見つめていたが、ふと男が口を開いた。

「横、通った時、チラッと中、見えたんだけど……」

「え……」

「誰も、乗ってなかった」

「……え?」

 女が、男の顔を見る。

 男は精気の抜けた顔で、空ろな目を燃え盛る車に向けていた。


* * *


「深夜の高速道路、危険なカーチェイス………か」

 県立櫻木高等学校、一年二組の教室。

 朝のホームルームが迫る中、水沢みずさわじゅんは窓際に位置する自分の席に座り、スマートフォンでニュースサイトを閲覧していた。

 内容は、昨夜未明に起きた高速道路での暴走事件である。

「暴走していた車の片方の運転手は、相手の車には誰も乗っていなかったと証言しており……うーん」

「これで、えーっと……三件目?」

 指折り数えながら発言したのは、前の席からスマートフォンの画面を覗きこんでいた鈴森すずもりれい

 彼女が座っている席は葉月はづき桃子ももこの場所であるが、今は用事で別の教室に行っているため勝手に座っている。

「かな。一件目が夜の住宅街で、二件目が早朝の山道。今回が高速道路、と」

 二人の言う通り、車両の暴走事件は高速道路の一件が最初ではなかった。ここ数日、正確に言えば先の神隠し事件が解決した日の翌日から、櫻木町で車両が暴走する事件が立て続けに起こっていた。いずれの場合も車両は盗難車であり、最後には乗り捨てられるか大破している。当然ながら、犯人は不明だった。

「ルルイ、これって……やっぱり?」

「はい。間違いなく、アニマの仕業です」

 純の机に置かれたコンパクトの鏡の中から、ルルイが小さな声で玲の言葉に答える。

「その自信ありげな様子…こないだみたいに、ルルイの知ってる人?」

「はい。今暴れているのは──」

「よっ、お二人さん!」

 いきなりの大声に三人の身体がビクリと震える。

 純と玲が横を向くと、そこには声の主である山口やまぐち冬彦ふゆひこが立っていた。その後ろには、戸羽とば英二えいじと葉月桃子もいる。

「なんか最近仲いいよな、お前ら…あっもしかして」

「そんな訳ないでしょ」

 下品な笑顔を浮かべた冬彦の後頭部を、桃子が手にした英和辞書で叩く。軽く、というほど軽くない勢いをまともに受け、冬彦は頭を押さえてしゃがみこんだ。

「あんまりふざけてると馬鹿が増すわよ」

「い、今でもバカみたいな言い方しやがって……」

 痛みで目に涙を浮かべる冬彦。

 それに対して向けられる桃子の表情は、非常に冷めていた。

「ちょ、ちょっと桃ちゃん……」

「このぐらいでいいのよ、こういうのには」

「手加減してくれよな、葉月。こいつがこんなんだって、この一ヶ月ぐらいでわかっただろ?」

「英二、お前まで……ん?」

 英二の言い様に物申さんと立ち上がった冬彦が、純の机の上に目を向ける。

 純が冬彦の視線を追うと、その先にはルルイのコンパクトがあった。ルルイの姿を見られたのかとも思ったが、今は映り込まない位置に隠れており、そうではないと一安心した。

「え、と……山口くん、どうかした?」

「いやそれ、どーーーっかで見たような…なあ英二、これ知らない?」

「ん、言われてみれば…でもなあ、最近色々あったし…」

 二人の言葉に、純の顔色が青ざめる。そういえば二人ともこのコンパクトを一度見ていたのだ、ということを今更思い出し、言い訳を考えていなかったことを後悔した。どうしよう、と玲の方に顔を向ければ、向こうも「何も考えてなかった」と顔で語っていた。

「き、気のせいじゃない?これ、あの、鈴森さんのだし……」

「あーれ、そうか。んじゃ気のせいかあ」

「玲、そんなの持ってたの?」

「ぅえ!?」

 予想外の方向から攻撃を受け、玲が珍妙な声を上げる。

「え!?も、持ってたよ?というか、最近買ったというか、貰ったというか……あ、アハハ」

「ふーん…?」

 髪の毛を豪快にかき回す友人の顔を、疑いの眼差して見つめる桃子。

「……まあ、玲がそう言うんなら、そうなんでしょう。あなた達の気のせいよ」

「いや、でもなあ……」

「あなたの記憶力と玲の言葉、どっちが信頼できると思う?」

「な、なんだと!」

「おい葉月、だからあんまり刺激するなって……」

 三人が口論を始めた一方、純は玲の方へ顔を近づけ、周りに聞こえないように話しかけた。

「そういえば、あの時コンパクト持ってたけど、どうやって?」

「どうやって…って、公園に転がってたのを拾って持って行ったんだけど。大変だったんだよ。鏡の中に持ち込めないからって、結局そこから走ることになってさ」

 公園から廃車置き場までの距離を思い出しながら、純は目の前のクラスメイトの健脚ぶりに感服した。

 そして三人の言い争いがいよいよエスカレートし始めた時、教室のスピーカーから予鈴が鳴り響いた。英二が無理矢理に会話を切り上げ、冬彦をなだめながら自分の席の方へと向かう。

「あ、ホームルーム始まっちゃう!ごめんね桃ちゃん、机借りてて」

「いいのよ、気にしなくて」

 玲も急いで立ち上がり、コンパクトを持って教室の反対側にある自分の席に戻っていく。去り際に「また後でね」のサインとしてウインクを送ったが、受け取った純は顔を赤らめて返事を返す余裕もなかった。

「……水沢くん、玲と仲がいいのは本当みたいね。何かあった?」

 純がどぎまぎしていると、前の席に座った桃子が首だけ回して声をかけてきた。

「え?いや、そう特別なことは……」

「……そう」

 それだけ言って、前へと向き直る桃子。

 なんとか最後まで誤魔化せたと安心した純は、桃子の目つきが一瞬鋭くなったことに気付くことはなかった。


* * *


 その日の放課後、帰宅部である純と玲は学校を出て暫くすると、朝に中断された話の続きをルルイに求めた。

「この世界の乗り物を身体に暴走を繰り返しているのは、ブルブというアニマです」

「その…ブルブって人は、何ができるの?」

「簡単に言えば"加速"です。彼は相手と認識した者よりも、速く走ることができるんです」

「…それだけ?」

 玲は顎に右手の人差し指を当てて首をかしげる。

「それだけですが、逃げたいのに決して逃げられない恐怖は、かなりのものです。事実、彼はこれまで数々の世界で交通網を荒らし回ってきました」

「こ、交通網……でも確かに、絶対に逃げられないってのは怖いかな…」

 言い回しに引っかかるものを感じながら、純は自分が何者かに追われ、絶対に逃げきれなくなっている場面を想像する。追ってくるものが車となると、確かに恐ろしいものがあった。

「……って、ちょっと待って。それって、絶対に追い付けないってことにもならない?」

 傾げたままだった首を元に戻しながら、玲が浮かんだ疑問を口にする。

「えっと…誰よりも速く走れるなら、そうなるかな」

「じゃあ、絶対に捕まえられないじゃない!」

「あっ……」

 玲の言葉にハッとなる純。誰も逃げられない追跡者は、誰にも捕まらない逃亡者と同じことだ。純の胸の内で不安がどんどんと大きくなり始めた。

「ど、どうする?二人目にしてもうギブアップ?」

「それについては、大丈夫です」

「大丈夫、って…絶対に追い付けないって言ったの、ルルイだよ?」

「アニマの力、ワザミタマの力は、同じアニマには効き目がとても弱まるんです。この前も、わたしの鏡を通せば純さんが玲さんの姿を見ていましたし、玲さんもミタマを宿した純さんは普通に見えていたでしょう?」

「そう…言われてみれば」

 先日のことを思い返す純と玲。確かに互いの姿ははっきりと見えていて、コミュニケーションに困ったことなどもなかった。

「じゃあ、なんとかなるかな?変身した水沢くん、すっごく速かったもんね!」

「そう、かな。いや、でも車ほどじゃなかったと思うけど……」

 先日に姿を変えて全力で走った時のことを、純は思い出す。自転車を全力で漕いだ時よりはよほど速かったと思うが、前に乗る羽目になったジェットコースターよりは遅かったように感じられた。高く見積もっても時速百キロは出ていないだろう、と純は目算した。

「……やっぱり、無理じゃないかなあ」

 純はそう口に出したものの、玲の機嫌を損ねることを恐れて声は囁くように小さく、玲の耳に入ることはなかった。

「問題は、彼がいつ現れるかがわからない点ですね」

「うん。夜中だと外に出るのも難しいし」

「やはり、わたしが常に町中を見張っているのが最もいいかと」

「あーあ、都合よくこう、ビューッて出てきてくれたりしないかなあ」

「都合よくって言い方はちょっと……」

 玲の言葉を不謹慎と感じながらも、自分が気にしすぎているのではと純は強く出られなかった。

「彼は自分の器を頻繁に取り替えます。探すのも無理がありますし、ここは出てきたところを迎え撃つしかないでしょう」

「そっか…じゃあ、今日から張り込みだね!あたしにできることならなんでも言ってね!」

「ありがとう。でも、まあ……危なくない範囲で、ね」

「よーし、やるぞー!」

 両腕を天へと伸ばし、やる気を漲らせる玲。

 玲の様子に笑みを浮かべながら、純は今後の出方を考えて気が重くなっていた。

「……張り込み、か」


* * *


「張り込み、かあ……」

櫻木駅近くの大型スーパー。その屋上に変身した純は陣取っていた。櫻木町の中心に位置するこの場所からならば、ブルブがどこに現れても向かいやすいと考えたためだ。

時刻は二十三時四十七分。早めに寝ると誤魔化して自宅を抜け出て、一時間ほどが経っていた。

 玲も参加する気満々だったが、「女性が夜分遅くに出歩くのはよくない」と強引に説得され、現在は自宅で待機している。

「……結局、夜中に出歩いてしまった」

 頭を抱えてわかりやすく落ち込む純。場合によっては補導は免れないだろうが、そもそも今の格好だと通報されてしまうのではないだろうか、などと嫌な想像がグルグルと渦巻く。

「あの、純さん、大丈夫ですか?」

「あ、うん。大丈夫だから……ルルイ、町の様子はどう?」

「今のところ、変わりありません」

 純の左手首に巻かれたリストバンドの鏡の先で、ルルイが町の様子を窺っている。

 町の様子を把握するにはルルイとのコミュニケーションが不可欠、しかし戦闘時のことを考えるとコンパクトを携帯するのは避けたい。そう考えて色んな店を周った結果、純が見つけたのがこのリストバンドだった。自転車に乗った際にバックミラーとして用いるものだが、懐にしまう必要が無く、変身後の腕でもギリギリ巻けるという優れ物ですぐに購入を決めた。

 純がいい買い物をしたものだと喜びで頬を緩ませていると、鏡の中でルルイの表情が曇り始めた。

「どうかした?」

「いえ……いました、ブルブです」

 ルルイが町の様子を映していた鏡を、リストバンドの方へ向ける。

 ルルイの能力は使い勝手がいいように思えてその実、制限も少なくはなかった。その一つが、"自分の身体ではない鏡に投影することはできない"というものである。そのため、純のリストバンドの鏡に干渉するのではなく、今のように鏡越しに鏡を見せるという面倒なことを行っている。

「見えますか?」

「うん、小さいけど……近いね。向こうのレンタルビデオの店だ」

 ルルイの鏡の中で路上駐車されていたバイクがひとりでに動き出し、徐々にスピードを上げて車の流れに乗って走り始めた。

「ここからだと…真っ直ぐ行って、交差点のあたりで待ちかまえられると思う」

「では、急ぎましょう。これからどんどん速くなっていきますよ」

「よし……!」

 頭の中でルートを思い描くと、純は夜空へと跳び出した。

 建物の屋上を跳び渡り目標地点の交差点に到達すると、車の隙間を縫うように爆走する無人のバイクが純の視界に入った。

「どうするつもりですか?」

「とにかく、あいつを止めようと思う」

 そういうと純は交差点の信号機へと跳び、自分の方へ向かってくるブルブの速度を見計らった。

「あの……純さん、まさか」

「……今だッ!」

 不安に満ちたルルイの言葉に答えることなく、純はタイミングを見計らって信号機の上から飛び降りた。

 あと少しでアスファルトに激突するという寸前で、純の身体は後方から走ってきたブルブのシートの上に収まり、一体となって風を切り始めた。

 振り落とされないよう、純はすぐさま両ハンドルを握りしめた。身体が完全に安定したのを確かめると、思わず安堵の息が漏れた。

「ふう………」

「ふう、じゃありません!純さん、無茶をしすぎです!」

 リストバンドからルルイの非難の声が飛ぶ。

「まあ、上手くいったんだから…」

「それはそうですが……」

「人の上で痴話喧嘩はやめてもらおうか」

「な……ッ!?」

 車体から発せられた声に面食らう純。ふとメーターパネルを見れば、スピードメーターとタコメーターに不気味に輝く目のようなものが浮かんでいた。

「しかし、ようやく出てきたな。出てこないのではとも思ったぞ」

「お前が、ブルブか」

「そうだ。ルルイとお前を始末するためにやってきた……が、正直なところ、私としてはどうでもいいことだ」

「えっ……?」

「私はもとより、ただ走ることが好きでな。そのついでというだけのことだ」

「相変わらずですね、ブルブ」

「そちらもな。まさか裏切るまでとは思っていなかったが……さて、そろそろいいだろう」

「な、なにが……」

「私は走るのは好きだが、誰かを乗せるのは特に好きではない。降りてもらうぞ」

 そう言うや否や、ブルブはさらにスピードを上げ始めた。純が受ける風圧もより強まり、ハンドルを握る手が緩んでいく。

「そうは…させるか!」

 純は右手と右足でブレーキを操作し、ブルブを停めようと試みる。しかしスピードは一向に落ちる気配が無かった。

「あ、あれ…?」

 焦ってガチャガチャと何度もブレーキを操作する純。だが、どれだけ試しても結果は変わらなかった。

「ふむ、考え方としては実際間違ってはいない。我々の身体は器としたものの特性を引き継ぎ、確かにそれは減速のための装置だ。しかし、だからといってそっくりそのまま同じというわけではない」

「そ……そうなの?」

 ブルブの言葉を受け、純は間の抜けた声でルルイに問いかけた。

「え?ええ、まあ、私もそうですから……」

 それもそうだ、などとのん気に思った瞬間、ブルブがいきなり前輪を浮かせてウィリー走行の状態になった。完全に不意を突かれた純は、遂にハンドルから両手を放して後方に放り出される。

「だっ……ええいッ!」

 純は咄嗟に両腕からワイヤー──純はこの呼び方が一番しっくりきていた──を射出し、先端を左右のハンドルに巻き付かせた。そのままブルブの後方数メートルの距離に着地し、両足で直接ブレーキをかけ始める。

「ぐ、う……ッ!」

 純は全体重を後方にかけるが、それでもブルブのスピードは殆ど変わらなかった。

「純さん、無理です!ここは一旦退きましょう!」

「いや、でもここまできて……」

 純がそう言った直後、直進を続けていたブルブが右へとハンドルを切った。

「えっ、ちょ、うわッ!?」

 バランスを大きく崩した純はそのまま倒れ込み、仰向けの状態でブルブに引きずられ始めた。

「うおあああああああああ!?」

 派手に火花を散らしながら引きずられる純。市中引き回しとはこんな感じだったのか、などとまた余計なことが頭に浮かび始めた。

「だ、けど…こうしてれば、お前を逃がすことはないぞ!」

「ふむ、まあ確かに私も無条件に走り続けられるわけではないが…この器もあまり好みではないな。お前と一緒に捨てるとしよう」

「捨て、えっ、なんだって!?」

 身体を必死に動かし、仰向けから俯せへと体勢を変える純。進行方向に目を向けると、町の中心を流れる櫻川さくらがわにかかる橋が見えた。

「おい、ちょっと……待て!」

「生憎と、待つのと止まるのは嫌いでね」

 ブルブは橋の中央近くまで走ると歩道に乗り上げ、その勢いで宙に舞い、欄干を越えて川の真上へと飛び出した。

「では、さらばだ。次は速さで挑んできてもらいたいものだな」

 そう言い残し、ブルブのミタマがバイクから抜け出て川の下流の方へと飛び去っていく。

「あっ、待て!」

「純さん、早く放して!」

 ルルイに言われ、すぐにワイヤーを引き戻そうとする純。しかし焦りから操作が上手くできず、ハンドルに引っかかった先端を外すことができなかった。

「わっ、あっ、あっ!?」

 数秒後、純は健闘も虚しく、バイクに引きずられる形で櫻川の中へと落ちていった。

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