第44話 道路舗装

「ではこれより作業を開始いたしますわ」


 村の前には、ドラゴンによって輸送されてきたドライアド達留守番組の魔物達が居た。

 村の護衛をする際に、村人から追加で依頼された仕事をこなす為だ。

 彼等からの依頼は、谷で魔物に襲われる危険を減らす方法は無いかという内容だった。

 この町は周辺から町や村と谷で隔離されている為、何かしらの用事で向かう際に不便だからであった。


 先日の谷上部の魔物の間引きは終わったが、再び新しい魔物が来ては意味がない。その為谷の崖っぷち周辺と谷底に、魔物が嫌う匂いを放つ蔦植物の種を植える事にしたのだ。

 もちろんただ植えただけでは育ちきるまで時間がかかる。

 だから植物を操る能力を持つドライアドがやって来た訳だ。

 

「さぁ、お目覚めなさい!」


 ドライアドが声をかけると、植えられたばかりの種から芽が飛び出し、急成長を始める。


「おお! あっと言うまに魔物よけの蔦が生えてゆく!」


 村人達が驚きに声を上げる。


「これで弱い魔物ならばここには近づけなくなりました。 ついでですので崖崩れ防止に深く根を張る植物も一緒に植えておきますわね」


「おお、そんな事まで、ありがたやありがたや」


 村人達はドライアドの善意に感謝の言葉を告げて拝むが、当のドライアドの本音は違った。


(崖崩れが起きて魔物よけの蔦達が傷ついては可愛そうですものね)


 ドライアドにとって魔物よけの匂いは害にならない。むしろ同族が増えるので大歓迎な依頼だ。


「ただ、魔物よけはあくまで魔物が嫌う匂いを発するだけですので、無理をすれば中に入ってこれます。ですので決して魔物を刺激しないようにお願い致しますわ」


「勿論です! 子供達にも良く言い聞かせておきます」


 村人達の言葉に気分良く頷くドライアドであった。


 ◇


「よーし、そこを削ってくれ!」


 また別の場所では土や岩に関する魔物達が岩壁で作業を行っていた。

 力自慢のミノタウロス達が、崖の壁を上から削っていき、側面を三角形に削りとる。壁面の縦と横が短い辺で、斜めの部分が一番長い辺になる逆立ちをした三角形の形状だ。

 それが完成したら今度は斜めの面に段差を作ってゆく。

 そう、階段だ。

 村人達が魔物よけの蔦の管理をし易い様に階段を作っていたのである。


 さすが大工の所で修行していただけあり、ミノタウロス達は細かい作業を難なくこなしてゆく。

 彼等が粗暴で愚かな魔物と信じている人間達から見れば驚くべき光景だろう。

 実際ミノタウロスは種族によって性質が大きく違う。

 水場を好む水牛種や穏やかなホルスタイン種、性質の荒い黒牛種など様々なのだが、人間でソレを知っているのは魔物使いと一部の魔物研究家くらいのものであろう。

 しかもミノタウロス達は力が強い。繊細な技術と豪快な力であっという間に階段は完成してしまった。


「よーし、次は反対側の壁面にも作るかー」


「いやいや、階段が1つだけだと何かあったときに不便だ。もう1つ作ろうぜ。で、そっちは中をくりぬいて螺旋階段にしようぜ!」


「そういうのは反対側を作ってからにしろよ。あとそれなら外の光を取り入れる為の穴を開けておかないとな」


 一仕事終えたばかりだと言うのに、体力の有り余ったミノタウロスは即座に次の仕事に向かう。


「俺は壁画とか描きたいなぁ」


「良いねぇ」


 後の時代において、この階段は高度な技術力を持った古代ミノタウロス文明が作った歴史のレリーフと呼ばれる事になる。

 そのせいで未来の歴史学会に大きな波紋を呼び込み、同時に様々な矛盾も発生する為に真偽についての議論が紛糾して大騒ぎに発展する事を彼等はまだ知らなかった。

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