第39話 特別輸送部隊?

「さて困ったぞ」


 ソイドからの依頼を受けたライズは、ドラゴンを使って特別な薬を輸送する予定だった。

 しかし依頼主であるカーラの発言により、目的地上空は気流が荒く、薬を揺らさずに運ぶ事は非常に困難である事が判明した。


「あ、あの、く、薬の輸送はどうなるんでしょうか?」


 薬を運べないかもしれないと分かったカーラが顔を青くしてライズにしがみつく。


「ふーむ、途中まではドラゴンに運ばせて、そこから地上を輸送って所かなぁ?」


 ライズは折衷案として二重の輸送計画を思案する。


「ですが馬車で運ぶにしても運ぶ為の馬を用意できませんよ」


 と、そこでソイドから待ったがかかった。


「え? 馬は馬車を運んできた馬を使えば良いのでは?」


 何故馬が使えないのかと困惑するライズだったが、ソイドの次の言葉で疑問が氷解した。


「馬ではドラゴンに怯えてしまいます。現に今もドラゴンが来てから馬達は怯え通しです。この状態で馬を運んでも、現地についてから繊細な輸送が出来るとはとても思えません」


「そうか、馬は普通の生き物だもんなぁ。となるとユニコーンとケルピーに運んでもらうか?」


 ライズは牧場で寛ぐユニコーンとケルピーの姿を見る。

 ケルピーは後ろ半分が魚の水棲の魔物であるが、馬に変身して普通の馬よりも何倍も優れた名馬になる事が出来るのだ。


「ほう! ケルピーを従えておいでか! さすがは千獣の王!」


 ケルピーの名を聞いてソイドが興奮をあらわにする。

 名馬と名高きケルピーは軍人や商人にとっては垂涎の魔物。もっとも、度を越してケルピーを酷使すると、後で復讐される事になるのだが。

 だが、ライズが気になったのはその後の言葉だった。


(俺の二つ名を知っているって事は、ドラゴン馬車の事を聞いて仕事を頼みに来た訳じゃなさそうだな)


 ライズは表面上は笑顔を見せつつも、ソイドに情報を伝えた人間を警戒する。


「ケルピーって凄いんですか?」


 この中で唯一ケルピーの事を知らないカーラが声をあげる。


「ええ、ケルピーは比類なき名馬として有名な魔物なのですよ」


 カーラの問いにソイドが答える。


「凄いですねー、でもそれなら谷に行く為のつり橋でも馬さんが怖がる事はありませんね!」


「……」


「……」


「あれあれ? お二人ともどうしたんですか?」


 カーラからポロリと漏れ出た問題点にライズとソイドは頭を抱えたくなった。


「陸路でも揺れるのか……」


「つり橋という事は間違いなく谷の強風にあおられますね」


 本来の選択肢であった陸路にまでケチが付き、二人は泣きたくなりそうな気持ちになる。


「空路もダメ、陸路もダメ、となるとどうやって運べば良いんだ?」


「え? え? ダメなんですか!?」


 輸送に振動が厳禁だと言う事の重要さに未だ気付いていないカーラだけが、状況の深刻さを理解していなかった。


「ライズさん、何か良い魔物はおりませんか?」


「いやいや、そんな都合の良い魔物はいませんよ。空路も陸路もダメなんですよ他に方法なんて……」


 万策尽きたソイドがライズに一縷の希望を抱くが、当のライズもお手上げの状況であった。

 しかしそこに救いの声が上がる。


『ならば水路で行けば良かろう』


「え?」


『空も陸もダメならば、残るは水路だろう?』


 突然の声に振り返ったライズが見たのは、白い壁、ではなく、巨大なイカの魔物クラーケンだった。


『薬は、我が運んでやろう』


「クラーケン!?」


『目的地が谷だというのなら、当然そこには水の流れがあるのではないか?』


 かなりの暴論ではあったが、ありえない話ではない。

 ライズ達がカーラを見ると、カーラは突然現れたクラーケンに釘付けだった。


「すごーい! おっきーい! しろーい!」


 子供か! と叫びたくなるのを必死でこらえてライズはカーラに問う。


「カーラさん、目的地には大きな川はありますか?」


「ほえっ? 川ですか? ええ、ありますよ。だって村はウィーユス河の上流、源流の近くにあるんですから!」


 えっへんと誇らしげに語るカーラの姿に、ライズとソイドは一筋の光明を見出す。


「水路か、川の流れが激しくなければ空路やつり橋よりはよっぽどマシだな」


『川の流れがイカに激しかろうと、我が肉体ならばあらゆる衝撃を吸収できる』


 そういってクラーケンが近くにあった岩を自分の体に押し当てる。


「成る程、弾力のある体なら、ゼラチンスライムの様に振動をギリギリまで吸収できますな!」


 全ての問題が解決した事を悟ったライズとソイドは互いにうなずきあう。


「よし! 荷物はクラーケンが輸送! それに道中の護衛役も連れて行くぞ! セイレーン、ラミアは人員の選別を!ドライアドは事務所に残って通常営業を頼む!」


「はい!」

「お任せください!」

「承知いたしましたわ!」


 ライズの指示を受けて、ラミア達が牧場に駆けて行く。


「では我々もそれに従いましょうか。馬車から馬を外しておきなさい」


「分かりました!」


 同様にソイド達も出発の準備を開始する。


「頼むぞクラーケン!」


『任せるがいい。ドラゴンにできない事を我が成し遂げてみせようぞ!』


 自信満々に答えるクラーケン。

 どうやら、それがクラーケンの立候補した理由だったようである。

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