第12話 家を作ろう
カンカンカンと釘を打つ音が聞こえる。
ここはライズの何でも屋兼牧場であるモンスターズデリバリーの敷地だ。
事務所が廃墟となってしまったので、新しい事務所を建築中なのである。
建築費用は大工の親方の行為である時払いとなっている為、ライズとしてはありがたいやら申し訳ないやらだ。
そうした事情もあり、定期的に大工の手伝いに行っているラミアの給料も建築費用代として返済に充てられていた。
だがラミアの給料はそれほど高くなく、やはりドラゴンの収入が借金返済の重要な収入源となっていた。
(早く稼いで借金を返済しないとな。親方達にも生活があるから迷惑はかけれられない)
彼等の生活を多少なりとも圧迫している事を自覚し、ライズはどのようにして今以上に金を稼ぐかを考える。
だが当の大工達はというと……
「ラミアちゃーん! ちょっと降りたいから運んでくれるかい?」
「はーい!」
作りかけの事務所の二階部分で待っていた大工の体に尻尾を伸ばしたラミアが後ろから抱きつく。
「おほっ」
そして大工が落ちないようにギュッと抱えながら地上へと降りる。
その最中の大工の顔は緩みきっており、ラミアとの特定部位の接触を心から楽しんでいた。
そんな彼等の内心には、建築費用後払いへの苦悩など欠片も見受けられなかった。
「みなさ~ん、そろそろ休憩されてはいかがですの~」
ドライアドが自分の蔓をお盆状にして木製のカップに入った水を運んでくる。
「おう! お前等! ちっと休憩すんぞ!」
「「「へい!」」」
「トレントが森で採取してきた果物もありますわよ」
親方の号令で大工達がぞろぞろと建てかけの事務所から出てきて、ドライアドから水と果物を渡される。
「いやー、ドライアドちゃんの水はほんと美味ぇなぁ!」
「ふふふ、只の水ですわよ」
大工達のお世辞をドライアドがさらりとかわす。
「いや、実際美味いぜ。井戸水を沸かした水とはどこか違う」
親方の言うとおり、ドライアドの用意した水は只の水ではない。
朝露だけを集めたその水は、ドライアドの魔力を受けた特別な水だ。
その水には魔力がふんだんに込められており、弱い疲労回復効果があり、魔法使いが飲めば消耗した魔力を回復させる魔力回復薬としても使う事が出来る。
魔法関係の道具を扱う店で買ったら銀貨一枚はするであろう特別な水を、彼等は無自覚に楽しんでいた。
「親方、どれくらいで家は完成する予定ですか?」
休憩している親方にライズが完成予定日を質問する。
「そうだな。結構デカイ家だから本来なら半年以上かかるんだが、お前さん家の魔物達が手伝ってくれるからな、もう2、3ヶ月は早くなるかも知れんな」
親方の言うとおり、新しい事務所の建築には、ライズの魔物達が自主的に強力を申し出ていた。
伐採したばかりの生木を建材として利用する為には木の内外を乾燥させる必要がある。
その為大きな屋敷ほど建材として使う木材の製造には時間が掛かるのだ。
更に言えばデクスシの町があるテンド王国東部は雨季になると雨が多い。
その為材木の確保には金と時間が掛かる。
だがライズの魔物達が手伝う事で、その手間が大幅に減少する事となった。
魔物が居る為に人が入らない大魔の森で魔物達が建材となる木材を伐採し、簡易的に作られた掘っ立て小屋の内部でサラマンダーが火を起こし、ハーピーが羽ばたいて温風を木材に送る事で短期間での木材の乾燥を可能としたのだ。
そしてトレントの様な触腕を持った魔物やミノタウロスの様な二足歩行が可能な魔物が建材を運んだり、数人がかりで行なう作業を手伝った。
コボルトのような小型の魔物は大工の指示に従って簡易作業を手伝い、精度の必要な部分にだけプロである大工達は専念できた。
「何人か預けてくれりゃ、俺達の仕事を仕込んでやるぜ」
ミノタウロス達の働きぶりを気に入った親方が上機嫌で勧誘してくる。
「それだと仕事が減りませんか?」
「バカ野郎、俺達が手伝いに雇うんだよ! そんな簡単に職人の仕事を盗める訳がねぇだろうが」
それもそうだとライズは思った。
自分もそうだが、専門職の仕事と言うのは勘に頼る部分が大きい。
やり方を教わっても熟練の先達の手際にとはどこか違うのだ。
彼等の一種美しいとすら思える手際を覚えるには、自らも時間をかけて自分に最も適した手順を見つけ出すしかない。
職人の世界とは、職人の数だけ最適解があるのだから。
「それでしたら、何人か腕の良いのを見繕ってくださいよ。本人が望んだら鍛えてもらってかまいませんから」
「おう、ちょうどスジの良さそうなのを何人か見繕ってたところだ!」
既に親方はスカウトする気満々だったらしく、候補をチェックしていたらしい。
(親方の仕込が上手くいけば、事務所が壊れても自分達で修理できるしな。そうなりゃ修理代も安く済ませる事ができるってもんだ)
ライズもまた、親方の提案にメリットを感じていたのでそれを受ける事に異論はなかった。
「しかしまだ数ヶ月か、こりゃあ事務所二号に頑張ってもらわないとなぁ」
ため息を吐きながら、ライズは視線の先に立てられた新しい掘っ立て小屋を見つめる。
住む場所がなくなったライズに親方が壊れた建材を再利用して作ってくれた掘っ立て小屋2号だ。
もはや完全に雨を凌ぐ為の屋根が付いた木組みでしかないが、それでもライズにとっては大事な我が家であった。
尚、壁と言う概念が無いので、嵐が来ても風がすり抜けて倒壊しない親切設計である。
「この辺りなのよね」
掘っ立て小屋を見つめていたライズは、突然聞えてきた声に体を動かす。
振り向いた先には、フードを目深に被った二人組がこちらにむかって歩いてくるのが見える。
「この辺りに、魔物が暮らす牧場があるのよね」
「そのはずだが……」
どうやら二人はライズの暮らす牧場を探しているようだ。
だが肝心の事務所が倒壊してしまった為に場所がわからなくなっているらしい。
「柵はあるからどこかに家もあるはずなんだが、見えるのはあの屋根の付いた……付いたなんだろアレ?」
「私に聞かないでよ! ともかく、この辺りに住んでいるのは間違いないんだから……あっ! あそこに誰か居るわ! 丁度良いから聞いてみましょ! すみませーん!!」
二人組の内、女性と思しき声の主がライズの元へとやって来る。
「すみません、この辺りにライズ=テイマーって人は……」
と、そこで女性の言葉が途切れる。
「えっと、ウチに何か御用ですかね?」
会話の内容から自分に何か用があるのは間違いないと感じたライズだったが、当の女性が急に黙ってしまったので彼も困惑していた。
「あのー……どちら様でしょうか?」
「おーい、待ってくれよ……って、あれ? ライズ?」
女性を追いついてきた男性が、ライズの顔に気付いて声をかけてくる。
「お前……メルクか?」
「そうだよ、僕だよライズ。久しぶりだね」
メルクと呼ばれた男性がフードを下ろすと、そこには二枚目と形容するに相応しい見目麗しい容姿の男性の姿があった。
「お前が来たって事は……」
ライズの視線がフードの女性に向けられる。
女性は一瞬ビクリと震えるるが、すぐに姿勢を正して頭に被ったフードを下ろす。
「久しぶりだな、レティ」
そこには、強気そうな目つきをした少女が、はにかみながら佇んでいた。
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