第254話 決断の時

 邪龍との戦いが終わって早くも一ヵ月が経過した。その間にもトウハイの復興作業は急ピッチで進められ、それと並行して戦没者の大規模追悼式が首都『東果』にて慎ましく執り行われた。

 喪服を着た人間が首都に詰め掛け、戦いで命を落とした強者達の尊い犠牲を悼む様は悲壮にして心を打つものがあった。数多くの人々が悲しみに暮れて涙を流し、トウハイの未来を守った英雄達に別れと感謝の言葉を告げた。

 特に十二神闘流に属していた鳥敬、奉犬、馬還の三人は国家を守った英霊として祀り上げられ、旧王宮の敷地内にある墓地へと弔われた。その名誉は故人の功績を永遠と照らし、そして残された者達も誇らしい栄光に心を震わせた。

 また十二神闘流の殆どが今回の戦いを機に師範の代替わり世代交代(を推し進めた。これは十二神闘流が未だに健在であると国内外に知らしめる事で、内部の不安を払拭しつつ外部を牽制するという二重の効果を期待してのものだ。

 幸いにも万が一に備えて各々が事前に後継者を定めていた事もあって、世代交代はスムーズに進み、面倒な後継者争いも起こる事無く無事に終了した。とは言え、ドレイク帝国の動向も気掛かりな為、旧師範達が本当の意味で隠居するのは当分先になりそうだが。

 そしてヤクト達がトウハイを出立するまでのカウントダウンもゼロ間近にまで迫っていた。既にトウハイで知り合った人々や三賢人とも別れの挨拶を済ましており、後は出立の時を待つばかりとなった。アクリルを除いては――


「ガーシェルが眠り続けて一ヵ月……か。あっちゅー間やな」

「うむ……」


 石造りの桟橋からヤクトとクロニカルドは、北岳の港に停泊している一艘の船に目線を留めていた。桟橋と船を繋ぐ橋の上を屈強な男達が何度も往復し、次から次へと荷物を船内へと積み込んでいく。

 ガーシェルが昏睡状態に陥ってから早くも一ヵ月が経過したが、依然として目覚める気配は見えなかった。アクリルは何時かガーシェルが目覚めると信じているみたいだが、流石にこれ以上待つのは時間的にも状況的にも限界であった。


「……で、とうとうガーシェルを捨て置けと言ったのだな?」

「非道な言い方はやめーや。ガーシェルが目覚めるには時間が掛かるさかい、俺っち達だけでも先に出発しようやってオブラートに言ったんやで? まぁ、最終的に俺っちも失敗してしもうたけど……」

「で、結果がアレか」

「姫さんもああみえて我が強くなったもんやなぁ……」


 昨夜、ヤクトは汚れ役も覚悟の上でアクリルにガーシェルを置いて先に進むように促したのだ。だが、結果は予想した通りに難航に次ぐ難航を極めた。手を変え品を変えと言わんばかりに説得の言葉を連ねるも、アクリルは頑固として首を縦に振らなかった。

 アクリルにとってガーシェルは家族同然の存在だ。それを置いていくのは家族との離別を意味し、既に育ての親を失った彼女の心に新たな傷を設けるにも等しい行いであった。

 ヤクトとてソレは知っていた。寧ろ、ガーシェルを置いていく事に少なからぬ罪悪感すら芽生えていた。しかし、それ以上に状況は待ってくれないという焦りと、説得が思うように進まない苛立ちが合わさり、思わず口からポロッと本音が零れてしまった。


『このままの状態が続けばガーシェルは遅かれ早かれ死ぬんや! その時が来るまで悠長に待っていられる時間なんてあらへんのやで!』


 と、ヤクトは自分の失言に気付いて顔を蒼褪めるも、時既に遅しであった。ガーシェルが死ぬという現実を突き付けられ、アクリルの目からポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。純粋な悲しみは絶望に、そして絶望を受けれたくないという理不尽な怒りへと変貌した。


『ガーシェルちゃんは……ガーシェルちゃんはアクリルの家族なの!! ヤー兄のバカぁぁぁぁ!!!』


 アクリルは怒りのままに結界を発動させた。半透明の壁が風船のように急激に膨れ上がり、ヤクトを御堂の外へと強制的に追い出した。そして現在もアクリルは結界を張り巡らした御堂の中に立て籠っており、徹底抗戦の真っ最中という訳だ。


「やれやれ、どないすれば良いやろうか……」

「気に病む必要はあるまい。言い分としては貴様の方が正しいのだ。アクリルはまだ幼いから、そういったものを受け入れて心を御する術が未熟なのだ」

「せやけど、姫さんの気持ちも分からへんでもない。あの子にとってガーシェルが現時点で最後の家族なんや。これでもし両親を探して、どちらもこの世に居らへんって事になったら、それこそ悲惨過ぎて目が当てられへんわ」

「ううむ……」


 その時、陸地に面した桟橋の方から「ヤクトさん、クロニカルドさん」と名を呼ぶ声が聞こえてきた。それに反応して二人がパッと振り返れば、大きく腕を振るマリオン王妃とイーサン王子の姿が目に入った。その後ろにはキューラと角麗が控えている。

 だが、彼女達の登場にヤクト達は驚きを顔に表さなかった。何故なら立て籠ったアクリルの説得をマリオン達が請け負ってくれたことを知っていたからだ。そしてヤクト達はマリオン王妃の下へと足を運んだ。


「マリオン様……」ヤクトは面目ない面持ちで尋ねた。「姫さんはどうでした?」

「残念ながら――」マリオンもまた無念そうに首を横に振った。「此方の声が届いていないのか、それとも拒絶しているのか。反応は全くありません」


 そうですか……と、呟いたヤクトは落ち込んだように俯いた。だが、彼の呟きは説得に失敗したマリオンへの失望ではなく、このような事態を引き起こしてしまった自分の浅慮に対する自責の念に対するモノで占められていた。


「如何します? 結界を打ち破って強引にアクリル殿をお連れしますか?」

「でも、そうすると余計に拗れそうじゃない?」

「キューラの言う通りだな。下手に踏み込めばアクリルは我々を逆恨みにしかねん。此処は一つ、あやつの魔力が切れるのを待つしかあるまい」

「魔力が切れるって……姫さんの魔力が膨大なのはクロニカルドも知っているやろ?」

「ああ。しかし、奴の精神力は既に限界だ。飯も碌に食わず、睡眠を削ってガーシェルに付きっ切りだと言う。如何に魔力が膨大だからと言って、不眠不休で結界を張り続けるのは不可能だ。って三日が限界であろう」

「三日か……」


 ヤクトが御堂のある方角へ振り返ると、他の皆も釣られて振り向いた。健闘寺は海沿いの港から見て横長な山脈に隔てられている為、此処からでは寺を見通す事は不可能だ。しかし、彼等の目には結界に囲まれた御堂の全貌が鮮明に映し出されていた。


「アクリルさん、大丈夫でしょうか?」


 独り言ちるようなイーサンの疑問に答えられず、ヤクト達は不安気な眼差しを地面に落とした。皆、ガーシェルの安否を気遣っているが、それでも家族という認識が人一倍強いアクリルには負ける。

 先へ進むにしても、このまま残るにしても、どちらにせよアクリルが心に傷を負う未来に変わりはない。それどころかガーシェルを失った時、アクリルの心は壊れてしまうのではないかという危惧が全員の胸中にあった。


「どちらにしても、その時が来れば動き出すのだ。今は待つしかあるまい」


 現状においてクロニカルドの提案は最善にして最適解の選択肢であった。しかし、だからと言って心の奥底に溜まった暗い澱が薄らぐ事も無かったが……。



「貝原ぁぁぁ!!」


 突き出された拳をサッと躱し、私は里山の顎に掌底を打ち付けた。彼の身体が突き上げられるように宙を舞い、そのまま屋上に敷き詰められたコンクリートの床に叩き付けられる。

 里山は起き上がろうと藻掻くが、今の一撃で意識が朦朧となっているのか手足の制御が出来ず無意味にバタつかせるだけに終わった。そして「ち……くしょ……」という悔しさを滲ませた悪態を吐き、その場で大の字に手足を投げ出して気を失った。


「やれやれ、真正面から勝てないからって不意打ちするなんてどうかと思うけど……」


 私は呆れと憐みを込めた眼差しで、周りに倒れている四人ばかしの男達に目を遣った。彼等は里山の呼び掛けで集まった不良仲間であった。その目的は集団で私を痛め付ける為だが……結果は御覧の通り返り討ちで終わった。

 そもそもの発端は学校を終えて帰ろうとした時、近頃全く絡んで来なかった里山に呼び止められた所から始まる。そして長々と喧嘩腰で詰め寄られたが、要件を抜粋すると以下の通りだ。


『俺と最後の勝負しろ。これでお前が勝ったら二度と望月との仲は詮索しないし、お前に絡みもしない』


 私が望月と付き合い始めたという事実は誰かに漏らすでもなく、何時の間にか学校中に噂となって広がっていた。しかし、様々な方面で活躍する私とスポーツ万能な彼女となら理想のカップルだと誰もが認め、それを妬みすらもしなかった。里山を除いては。

 恐らく彼は未だに望月の事を好いている。が、その隣に並び立つ私という存在にどう足掻いても敵わないと悟ったのだろう。だからこそ、喧嘩という形で自分の心に決着をつける彼なりのケジメに一種の男気を見出し、私は申し出を受ける事にしたのだ。

 ところが、喧嘩の場として指定された学校の屋上に行けば、まさかの一対五という展開が待ち受けていた。これはどういう事かと非難を込めて問えば、里山は悪びれた様子も無く平然と言い放った。


『テメェを半殺しにすれば望月との噂も消える! そして望月をオレのモノにしてやる!!』


 どうやら彼は自身のプライドよりも、私に勝つという目的の方が重要だったらしい。しかし、それは男気を見出して感動していた私の心を裏切るにも等しかった。また彼女を自分のモノにせんと憚らない里山の態度にも腹が立った。

 そして私は完膚無きにまで五人を打ちのめした。如何に相手側にプライドが無いとしても、自分一人に対して敗北を喫したという事実は知られたくない筈だ。となれば、これで少しは大人しくなるだろう。

 目的を達成して足早に屋上から立ち去ろうとした矢先、ひらりと綿のような氷の結晶が鼻の上に落ちた。頭上を見上げれば重々しい曇天が広がっており、そこから産み落とされた雪がヒラヒラと無風の中をゆっくりと舞い落ちていく。


 既に季節の歯車は告白を受けた夏を終え、秋を通り越して冬に差し掛かろうとしていた。一年の終わりも目前まで迫っており、私の学園生活も残すところ僅かとなりつつあった。



「遅い!」

「ごめんごめん」


 学校の門前で待ちぼうけを喰らっていた望月に怒られ、私は困ったように苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。流石に里山と喧嘩をしていたと言う訳にはいかず、先生に呼び出されて手伝いをされていたと説明すれば、彼女は一旦怒りを収めてくれた。


「帰りにコンビニ寄って肉まん買ってよ。勿論、アンタの奢りね」

「ええ……? こっちだってアルバイトの入金前で金欠なのに……」

「何言ってんのよ、彼女を待たせる罪は重いのよ?」

「はいはい」


 学校からの帰路を仲良く並んで歩いていると、私の腕に彼女が凭れ掛かるように身を寄せてきた。上目遣いで此方を見上げる姿は可愛らしく、思わず私は頬を赤く染めて目線を外す。すると、くすくすと笑う声が鼓膜を叩いた。


「相変わらず初心だねー」

「望月は何ともないの?」

「うーん、別にそういうのもないかなー。というか、もう一線超えちゃってる――」


 私は慌てて彼女の口を塞ぐと、周囲を慎重にされど素早く見回した。12月は重要なイベントが目白押しである月にして、師走と呼ばれる一年の幕開けに向けて奔走する多忙な月でもある。それは田舎でも同じであり、たかが高校生の男女の遣り取りに意識を向ける暇人など誰一人としていなかった。


「もー……」私は安堵と共に望月の口から手を放した。「そういう事をホイホイと言わないの」

「にししし、何々~? 照れちゃってるの~?」

「あんまり言い触らしたくないの。そもそも、この手の話はもっとデリケートに取り扱うべきでは?」

「まぁー、良いじゃん。学校でもアタシ達は公認カップルみたいなもんだし。そうなると、そういった下ネタだって投げ掛けられるもんよ」

「まぁ、そうだけども……」


 彼女の説得を諦め、私は呆れたような溜息をひっそりと吐いた。これ以上、この話題に付き合っていたら自分の心が色んな意味で保たない。そう判断した私は「ところで――」と、話題を切り替えたい一心で強めに言葉を切り出した。


「卒業後はどうするか考えているの?」

「アタシはスポーツ推薦が来ているから進学かなー」

「水泳だっけ?」

「そうそう。貝原はどうすんの?」

「私は――うん?」


 視界の端であるものを捉えた途端、私は無意識に立ち止まって振り返った。国道を挟んだ向かい側にある小さな公園では、五歳ぐらいの少女と飼い犬が仲睦まじく遊んでいた。少女がゴムボールを蹴飛ばすと、雑種の子犬が全力で追いかけてソレとじゃれ合う。

 日常風景の中に溢れる、されども幸せを象徴するかのような風景だ。しかし、私の心は幸せに感化されるどころか、奇妙な既視感デジャブに囚われていた。そして自分に予知能力があるかの如く、この後に起こる少女の未来さえも手に取るように把握していた。


「どうしたの、貝原? 早く行こうよ?」

「あ、えっと……」


 今自分が経験している現象をどう説明したものかと悩んでいると、少女が蹴り損ねたボールが公園を飛び出して車道へと転がり出た。少女はボールにしか目が行っておらず、周囲も碌に確認しないままに車道へと飛び出した。

 それを目にした私の脳裏に程無くして訪れる未来がフラッシュバックのように浮かび上がった。間も無くして少女が立っている車線に大型トラックがやって来る。しかし、そこまでだ。少女が助かるか否かの肝心なシーンまでは予知出来なかった。


「くそ!」

「ちょっと、何してんの!」


 ガードレールを飛び越えて渡ろうとする私の手を望月が掴み取る。私は少女を救いに行きたい気持を抑えて望月の方へと振り返った。


「あの子が危ないんだ! あのままじゃトラックに撥ねられてしまう!」

「何言ってんのよ!? トラックって――」


 ブオオオンッと大型車特有のエンジンの唸りが言葉を遮り、望月と私は其方へパッと振り向いた。引越センターで使われるような大型トラックが、路面の雪解け水を盛大に撒き散らしながら此方にグングンと迫って来る。

 望月が目を丸くして私の方を見た。如何にも何で知ってたと言わんばかりだが、それを説明する時間さえも惜しい。しかし、いざ飛び出そうとすると、彼女は見た目に寄らない力強さでソレを食い止めた。


「バカ! 今飛び出したらアンタが轢かれちゃうでしょ!?」

「でも、あの子を放っておけないよ!」

「もう助からないわよ! 諦めなさい!」


 その一言に耳を疑った私は、望月をマジマジと見た。里山の時は純粋に裏切られたという怒りがあったが、彼女の場合は『こんなの彼女らしくない』というショックが圧倒的に上回ってた。


「何を……言ってるんだ……?」

「当り前じゃない」望月は冷淡に言ってのける。「あの子が飛び出したのは自業自得でしょ? 何で貴方が命懸けで尻拭いしなきゃいけないのよ……」

「違う……」

「何が違うのよ! 貴方を思って――!」

「違う! キミはこんな事を言わない! あの時だって――!」


 あの時と口走った瞬間、またしても自分の中に違和感が芽生える。だが、今度はそれを只の勘違いと片付けてスルーしなかった。あの時とは何だ、思い出せ! そう自分に言い聞かして違和感の正体を芋蔓のように手繰り寄せる。

 そして私の頭の中に一つの光景が浮かび上がった。それは今とは異なる世界線――いや、此方が真の世界線と言うべきか。その時の私と望月は付き合っておらず、昔みたいな仲の良い友人関係を続けていた。

 高校生活最後のある冬の日、下校途中に私達は今みたいに子供がボールを追い掛けて車道に飛び出す場面と遭遇してしまった。直後にトラックがやって来るのを見て、子供を助けるべく飛び出そうとした。しかし、それは私ではなく望月だった。

 私はトラックに轢かれるかもしれないという恐怖で身動きが取れず、されども彼女の身を案じて止めさせようとした。だが、正義感が強い彼女はそれを望まなかった。それどころか口先だけの私に対し、生まれて初めて明確な怒りを突き付けてきた。


『アンタに足りないのはやる気や行動力以前に、自分の本心と素直に向き合う気持ちよ! やろうと思えばやれるのに、アンタは何時もああだこうだ言い訳をして、挙句安全牌を出して逃げる! そんなんだから何時までも経っても成長出来ないんでしょ!!』


 そう言い残して彼女は私の制止を振り切って車道へと飛び出し、トラックを目の当たりにして身を竦ませた子供を突き飛ばした。そして子供の身代わりになるようにトラックに撥ねられたのだ。それが――私が見た彼女の最後の姿だった。

 それを思い出した途端、私の頭の中に真の世界線の記憶が濁流となって溢れ返った。此処一年で体験していた出来事の全てが嘘偽り――心地良い夢に過ぎなかったのだと。自分が学校中の人気者にチヤホヤされるのも、望月と相思相愛になるのも、希望溢れる未来も……。

 本当の私は最初から最後までウジウジしたうだつの上がらない男だった。そしてブラック企業に勤めていた最中に命を落としたのだ。それが事実だ。

 もしかしたら、これはやり直しと呼ばれる出来事かもしれない。惨めな私の人生を憐れんだ神様がくれた二度目のチャンス――しかし、こんな自分にとって都合の良い世界はごめんだ。


「ごめん」


 望月の表情に一瞬安堵が浮かんだ。恐らく、それは自分の考えに賛同したからだと思い込んだのだろう。だが、その気の緩みを狙ったかのように私は望月の手を強引に振り払った。視界の端にショックを受けた彼女の顔が見えたが、既に私は子供に向かって駆け出していた。

 望月と相思相愛になれた世界は平和そのものだった。しかし、憧れだった彼女が子供を見捨てた途端、彼女に対する……いや、この世界に対する思いが急激に冷めてしまったのを自覚した。


 何よりも、自分の気持ちに二度と嘘をつきたくなかった。あの時、自分は子供を助けたかったのだ。しかし、恐怖に負けて動けず、代わりに彼女が犠牲となった。それが私にとってトラウマにして、大きな後悔という名の楔となって私の心に打ち込まれていた。


(もう二度と……後悔はしたくない!)


 私は地面に身を投げ出すように飛び出し、トラックを目にして怯える子供を思い切り突き飛ばした。瞬間、突き飛ばされた子供の姿に別の子供が重なって見えた。長い銀髪で愛くるしい顔をした、西洋人形のような可愛らしい幼女――。


「アクリルさん?」


 無意識に口から名前が零れ落ちた直後、私はトラックと激突した。ゴシャッとけたたましい轟音が鳴り響き、激しい痛みの余り頭の奥底で眩いスパークが弾け飛ぶ。

 しかし、心の中は後悔を克服した満足感に満たされていた。そして視界の四隅から暗闇が広がっていき、そのまま私は意識を手放した。

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