第4話 一狩りいこうぜ!
翌日、目覚めると朝(深海に朝も夜も無いが、体内時計から察して恐らく朝)から複数の稚貝達がわちゃわちゃと一ヵ所に集まって何かしていた。死骸を見付けたのかと思いながら近付くと、それは死骸ではなく生き物だった。
見た目はまんまカブトガニだが、体はクラゲのようなゼリー質で構成されている。自分達以外にも海底で活動している生物が居たのか。名前が分からないけど、昨日手に入れた鑑定スキルで見れるかもしれない。
【鑑定スキル:対象となる物体を数秒見詰めると、情報を手に入れられる】
鑑定スキルの情報に従い、その生物に視線をロックオンして見続けると、ステータスに鑑定した生物に関する情報が表示された。
【プーカ:海底に生息するクラゲ。主に海中のプランクトンを主食としている。戦闘能力は皆無で、リトルシェルでも寄って集れば簡単に狩れてしまう。】
ほうほう、プーカと言うのか。可愛い見た目をしている上に戦闘能力は皆無と聞くと、何かスライムを思い出すな。そしてリトルシェルにとってプーカは経験値稼ぎの的であり、餌でもなる。正に二度美味しい存在と言う訳だ。
一匹のプーカに集まっているリトルシェル達を遠巻きに見遣ると、貝の隙間から麻痺針と思しき針を出してプーカを滅多刺しにしている。何という数の暴力。
やがて麻痺が効いてきたのか、只でさえ遅いプーカの動きが一層鈍くなると、一匹の稚貝がトドメと言わんばかりに心臓と思しき球形のコアに針を刺して、息の根を止めた。そして仕留めるのと同時に稚貝達が群がり、プーカはあっという間に彼等の胃に収まっていく。
成程、ああやって狩りをするのか。それじゃ俺もプーカとやらを探して狩ってみよう。
「ソナー」
ソナーを発動すると、稚貝達よりも若干大きい影を発見した。大体7時方向……約十数mぐらいの距離だ。ジェット噴射を活用して海底を飛ぶように移動すると、センサーでキャッチした場所に案の定プーカが居た。そして自分以外にも既に到着していた三匹の稚貝達が、プーカを狙っていた。
よし、ここは同族の誼で協力し合おうじゃないか! 誰から攻撃を仕掛ける? 私から? それともキミ達からかな?―――なんていう私の気持ちが稚貝達に伝わる訳がなく、彼等は新参者の私を無視して一斉にプーカに襲い掛かった。
ああ、うん。そうなるでしょうね。分かっていましたとも。生まれたばかりの稚貝に作戦云々を一瞬たりとも期待した私が馬鹿でしたよ。だけど、この勢いに便乗して狩りに参加しよう。若干出遅れたけど、相手はまだ動いている。
他の三匹が前方と右側面に集まっていたので、私はプーカの左側面に回り込み、麻痺針を貝の隙間からニュッと突き出し攻撃した。麻痺針は安全ピンのように短いが、献血用の注射針以上の太さと鋭さを持っており、まるで豆腐を箸で刺すかのように楽々とプーカの身体に食い込んだ。
しかし、流石に一回だけでは効いていないのか、相手の動きは止まらない。その後二度、三度と必死に針を突き刺すと、ビクンッと体が揺れて動きが止まった。
チャンスだ! そう確信した私は即座にバッと飛び上がり、身体の中心にあるコア目掛けて麻痺針をブスリと突き刺した。柔らかいゼリーを突き刺すような軟質な感触とは異なる、ガラス玉を貫いたような硬質な感触が針を通して伝わって来る。手応え有りだ。
そしてゼリーの中で爛々と輝いていた円らな目から輝きが失われ、プーカは動かなくなった。初めてにしては中々に順調な狩りであった。
【経験値が規定数値に達しました。レベルがアップして6になりました。各種ステータスが向上しました】
【初戦闘ボーナス:レベルがアップして7になりました。各種ステータスが向上しました】
【攻撃魔法:泡魔法を獲得しました】
【戦闘ボーナス発動:各ステータスの数値が通常よりも多めに上昇します】
おお、一気に上がった! しかも念願の魔法を手に入れたぞ!! 別に願ってもいなかったけど、もしあれば欲しいなー程度の軽い気持ちはありました。そして戦闘ボーナスとやらでステータスが普通よりも多く上昇しているみたいだ。早速確認しよう。
【名前】貝原 守
【種族】リトルシェル
【レベル】5→7
【体力】270→370
【攻撃力】17→27
【防御力】70→84
【速度】7→11
【魔力】17→27
【スキル】鑑定・自己視・ジェット噴射・暗視・ソナー・砂潜り
【攻撃技】麻痺針
【魔法】泡魔法(NEW)
おお、それぞれ通常アップに+2がおまけされて大幅に上がっているじゃないか! 体力に至っては+20でかなり上昇したぞ! まぁ、速度は相変わらずの低さだけど。それとは対照的に防御力の上昇率がヤバい。『流石は貝だ、何ともないぜ!』という台詞が飛び出す日も近いかもしれない。
でも、今はなるべく戦いは避けるべきだろう。せめてリトルシェルからリトルが外れて、普通のシェルになるまでは我慢だ。無論、シェルになってからも波風を立てる気なんて更々無いのだが。
さて、考察もそこそこに初めての狩りで仕留めた食事を食べるとしよう。というか、一緒に狩りをした他の仲間達は私の存在を無視して、既に食べ始めている。少しは遠慮したまえよ、キミ達。
死骸の血肉を引き剥がすのとは違う、弾力の強いゼリーを千切るような感じで黙々とプーカを食べていたら、またレベルが一つ上がった。今度は食事によるレベルアップだったので、戦闘ボーナスは付かなかった。ちょっと残念である。
さて、腹も満たしたところで折角だから魔法とやらを試しに使ってみるか。何となくではあるが、この貝の身になってから体内に人間だった頃には感じなかった気や力の流れを鮮明に感じる。恐らくがコレが魔力だろう。
その使い方についても、泡魔法を覚えたのと同時に頭の中に入っている。恐らく魔物が魔法を使うのって、こうやって魔力の使い方を自動で覚えるからかな。便利で良いですなぁー。但し、ヒエラルキーの底辺で生まれるのは勘弁です。
そんな事よりも……ええっと、体内にある魔力を外へ押し出す操作をしつつ、頭の方で魔法をイメージする。その二つが結び付いた瞬間、私の身体から大きな泡がプクリと放出された。やった、成功だ! しかも、海底の水圧にも割れない頑強さを持っており、これは色々と使えそうだ。
そして魔法を使うと、体の中にあった力が幾分か減ったのを感じた。これが魔力を消費するという感覚なのだろう。では、ステータスでどの程度魔力が減ったのか確認してみよう。
【名前】貝原 守
【種族】リトルシェル
【レベル】8
【体力】400
【攻撃力】30
【防御力】89
【速度】12
【魔力】25/30
【スキル】鑑定・自己視・ジェット噴射・暗視・ソナー・砂潜り
【攻撃技】麻痺針
【魔法】泡魔法
おー、成程。泡魔法は一回使う度に魔力5を消費するのか。丁度キリ良く6回分使えるな。魔力を使い切るのは怖いから、精々あと2回~3回ほど練習して泡魔法の使い方と特徴を把握する事にしよう。
先ずは泡をどれだけ大きく出来るかだな。よし、可能な限り空気を送り込むイメージでやってみよう。慎重に…慎重に…うおおお、今の自分が二・三匹は入れそうな大きさになったぞ。
もう少し大きく出来るかなーというところでバンッと泡が弾け、中に詰まっていた空気の圧に押される形で後ろへ引っ繰り返ってしまう。び、ビックリしたぁ~。幸い、反射的に殻を閉じたから良かったけど、下手したら自爆技になっちまう所だ。
【泡魔法の派生技『バブルボム』を会得しました】
うお、何だ? バブルボムを会得したというメッセージがステータスに出たぞ?
これはアレか、単なる泡魔法も使い方次第では特殊技としてカウントされると? それじゃあ発想が閃き次第、ポンポンと試し撃ちするだけでも成果を得られるのか? これは良い事を知ったぞ。それじゃ早速残りの魔力に気を付けながら、早速幾つかテストしてみよう!
☆
うむむ、予想以上に魔力を使ってしまった。そもそも先程の泡爆弾で魔力を10も消費していた事実を知らなかったせいで、最終的に魔力の残数が5になってしまった。新しい事実を知って調子に乗ってハイになった結果がコレだ。反省、いや猛省しなくては。慢心! 駄目! 絶対!
けれど、それに見合う収穫はあった。先ずは泡魔法で生み出した泡は自分の意思である程度操作可能であること、そして泡を圧縮して小さくしたり、元の大きさに戻す事も可能ということが判明した。泡爆弾と組み合わせれば小型且つ強力な誘導弾として活躍してくれるかもしれない。
そして小出しにした泡を繋ぎ合わせて連鎖みたいに作ってみたところ、『バブルチェーン』なる派生技を会得した。今はまだ用途を考えちゃいないが、後々役に立つかもしれないので覚えておいて損は無いだろう。
さて、魔力を使って疲れたから寝るかぁ~。一晩寝て魔力が回復している事を祈りながら、明日も死骸漁り&プーカ狩りに励みますかぁ~。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます