第9話 大会当日

 ドッチボール大会当日。三学年の、5クラスが体育館へと集まる。全生徒が整列する。そして、ほとんどの生徒があまり、良い表情をしていなかった。欠伸をしたり、頭の後ろをかいたり、周りの人と話をしていたり。しかし、B組の生徒だけ、しっかりと前を向き、楽しそうに笑っている人がほとんどだった。



 大会は体育館全体を使って行う。トーナメント形式で、参加していないクラスは上で観戦することになっている。一番最初の組み合わせは、B組とD組だった。

 基本、ドッチボール大会はやる気のある生徒は全体の半分くらいしかいない。D組も、やる気のある人とない人がいて、ない人は楽しそうに友人と話している。やる気のある人は、ほとんど運動部の生徒で、楽しそうにボールを持っている。


 試合が始まる前、B組は全員で輪になる。


 「担任に言われた作戦、みんな覚えてんな?」


 森本の言葉に、全員が頷く。


 「よっしゃ、行くぞB組!」


 森本がそう声をかけると、全員が元気良く声を上げた。そんなB組の姿に、体育館にいた全員が目を丸くした。他のクラスの生徒も、先生も。谷岡一人が、優しく笑って頷いている。


 試合が始まり、B組の外野は全員女子。そして内野は横に広がり、女子の男女交互になるように並んでいる。B組の並びに、体育館はざわつく。そんな中、ジャンプボールをやる生徒がコートの真ん中に集まる。D組は男子の中で一番背の高い人が来た。対してB組は、一番背が高い女子、吹奏楽部の山内が真ん中に出る。


 「……なめてんの?」


 D組の男子の威圧に、山内は鼻で笑う。「……いいえ?」

 そして山内は、谷岡のある言葉を思い出す。


 『ジャンプボールは捨ててください。ボールを取ったときに、相手が転んで、審判に文句をつけられるのは避けたいので。山内さん、なので飛ばずに、すぐに皆と混ざってボールから逃げる準備を。……あ、それと、相手をイラつかせるのも、良いかもしれませんね』


 審判により、ボールが上へと投げられる。D組の男子は真っすぐ高く飛び、山内はすぐに皆のところへ戻る。


 ニヤニヤと笑うB組に、D組の男子は眉間にしわを寄せる。

 「なめやがって……っ!」と、D組の男子が思いっきり投げる。そのボールを、真ん中にいた森本がキャッチ。


 「よっしゃー!」


 森本は「早水!」と、早水にボールを渡す。早水はボールを持ち、谷岡の作戦を思い出した。


 『最後に、ボールを投げるときのポイントを。狙うはただひとつ』


 早水はボールを低く投げる。そしてそのボールは、D組の生徒の足下に。


 『足、です。上半身に当たって痛い、と言われないように。みなさんなら、必ずできます』


 早水の投げたボールが当たり、B組の生徒たちはハイタッチをし合う。そしてゲームがすすみ、B組が勝利した。


 B組の全員が歓声をあげ、そして全員が思った。

 ──本当に、優勝できるかもしれない、と。




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