迷走フラグ

大原 慎太郎

第1話 迷いの逃走者

1 迷いの犯罪者


歩いて駅まで十分 そこから五駅分乗り

降りる フミヤはいつものように携帯を取り出しメッセージアプリに集中する周りには高校生のフミヤと歳が離れた高齢者と子どもが二桁に満た無い程度いる そんな事はどうでもいいとフミヤは電車に揺られている

一駅 二駅 三駅…と乗っているうちにフミヤはウトウトとするが最寄りの駅が終点なので乗り過ごしの心配が無い

四駅目を過ぎ 同年代の女の子が乗ったのを薄目に見つつフミヤは意識を落とした


電車が大きく揺れたのをきっかけにフミヤは目を覚ます


「…」


しばらくボーと呆けていたが すぐに時間を確認する


「…まだか」


終点の予定時刻には着いていないのでフミヤは自分の睡眠時間の短さに苛立ち 足を小刻みに揺らす

そこから数十秒…フミヤはやっと異変に気づいた

時計を確認し 窓から外を見る 車内を歩くフミヤはそれらの全てに「は?」と声を漏らし動揺していく


「なんだよ…これ」


時計は針が全く動いてなく起きてすぐ確認してから時間の表示が変わってない 窓の外はまるで光の強いトンネルに入ったみたいに白く照らされるだけ 車内は不思議と揺れもなく いるはずの誰も乗客も…運転手さえいない


「どうなってんだよ!」


戸惑いが隠せず大声で叫ぶ 乗客がいないためもはや周りの迷惑など考えない

しかしそんな事しても何か変わるはずもなく…


「そうだ 携帯」


冷静に思考しフミヤの頭にすぐ出てきた答えがそれだった 普段ならすぐ触るのだが思いつかなくなっているのがこの状況の異様さに混乱している事が分かる


「やっぱ…繋がんないか」


電波の表示は思った通り圏外

他に手掛かりは…と周りを見渡すと アナウンスは流れなく電光掲示板に『セントラル』と記される


「そんな駅あるんだ…っていうかどこだよ…」


もう疲れたと言う代わりにフミヤは「ふぅ」とため息をつき 椅子に座り込む

「待つしかないか」と呟きほぼ諦め半分で最後の車内確認をする


「え?」


いるはずだったのがいなくて

今度はいないはずのその人がいる

四駅目で乗り込んだ 終点に一緒に着くはずだった女の子…名前も何も知らないが その女の子しか手掛かりが無く 同じ状況なら仲間になる

こういう悪い状況ほど仲間を探したくなるのが人間の弱さだが 時にそれは強みになる

フミヤは足を一気に進める

だが思いを裏切る感じで無情にも電車は止まり開いたドアからその女の子は降りてしまう


「やっ…やばい」


急いで女の子を追う 人混みを駆け抜け見逃さないように速足になる

そのせいで背中にぶつかる感触がする


「あっ…あの」


当たった方はすぐに謝罪をする

それに対してフミヤは見失わないようにと「あ…」と半分無視して女の子を追う

かき分けて進み続ける 首都駅のように人が多いのは恐らく『セントラル』という駅名のためだろう


ふと大きな段差にきづかず情けなく転ぶと体が軽くなり周りの重圧が無くなる…つまりは人混みを抜けたのだ


「あれ?どこいった」


その代わりにフミヤは例の女の子を見失い 手掛かりも無くす

「やばい…」と焦りに脂汗を浮かべ 周りをキョロキョロしていると ふと何かの視線に気づく


「あの! そこ…」


声の方を向くとフミヤがぶつかった人が何かパクパクと話しているが

それは上手く耳に入らない なぜなら他の人からも異様な視線を浴びているからだ

なぜだ?という風に目を使って状況を把握する 民衆や声をかけてる人がいるのはフミヤより一段上がった場所 そしてフミヤがいるのは砂利より少し大きい石が敷かれている場所 さらにフミヤは先程電車から降りた つまりは…


「あっちが駅のホームで 俺がいるのが…電車の降りたところつまりは…え⁉︎」


気づいた頃にはもう遅い

誰かが通報しフミヤの見慣れない格好をした 恐らく警備員が「ちょっと君 何をしている」と二人で迫ってくる

フミヤは「やばい…やばい…」とブツブツ呟き完全に身体が固まる


「あっちに!走って!」


叫び声がした フミヤは耳では無いどこかで聞こえたそれを不思議に思いながらも方向だけはしっかり分かったように走り出す

フェンスを越え ざわつく人混みを背に走り抜ける


「これって…完全に犯罪じゃないか…」


「君 待ちなさい!」


すぐに駅員は追ってくる フミヤはどうしようもなくとにかく逃げ切ろうと走る


「はぁ…はぁ…どこだよ ここ」


気がつけばフミヤは路地裏に立っていた 知らない土地のためどこにいても迷う事に変わりないのだがこういう入り混じって 人気(ひとけ)が無い場所だと危険性も増してくる


「しょうがないか」


フミヤは足を止めて 追いかけてくる警備員を待つ

懸命な判断と言えるだろう これ以上逃げても何も解決しない さらにもっと状況が悪くなる方が可能性が高いだろう


「事情を話せば…正直で素直で誠実であればなんとかなる…」


普通なら混乱する事態にフミヤは深呼吸をして 穏やかな表情を浮かべる

それはきっと心にある言葉が残っているから


「やっと追いついた 何であんな事をしたんだ!」


「え! えっ…えと…」


フミヤは息を軽く吐き 決心を決めて言葉を出す


「申し訳ございませんでしたぁぁあ」


フミヤは反応が怖いのか薄目で警備員の様子を見る そこには怒りでも納得でも無く驚愕の表情をして もう一人のなぜか倒れている警備員を見ている


「あなた達いい加減にしなさい」


駅員の後ろから声の主が現れる

フミヤからは姿は影でよく見えないが背丈はそんなに高く無くシルエットや声の感じから女性という事が分かる


「その人 困っているでしょう」


「それはこの方が列車を…」


「お黙りなさい」


影で隠れた例の人は理不尽にも言葉を遮る

その姿にフミヤも警備員も「え?」と声を揃える


「あなた達の行動は見てました その人が怯えているのに無理に何か聞き出そうとして 事情は知りませんが許せません」


「え…なんだよ…あの人」


フミヤも警備員も同じ事を思ったのだろう同時に困った顔をして 頰を掻く

例の人はそんなこと気にして無いようで手のひらを警備員に向ける


「とにかく喰らいなさい 制服を着た悪党さん」


「わっ私は本当の…」


例の人は警備員の話を聞かずに 「ショック」と呟く すると不思議な光がどこからともなく発せられ警備員を包み 警備員はそのまま電流でも受けた様に倒れる


「大丈夫?あなた」


驚きと戸惑いに固まっているフミヤに例の人は近づき精神の安定を問う


「な…」


「な?」


「なにやってるんですかぁぁあ」


側から見れば救世主に見えなくも無い例の人にフミヤは思いっきり怒鳴る

例の人は数秒間何か考えた様子で「…え?」と可愛らしく声を震わす





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