第61話 絶対的法則《absolute rule》と過呼吸と、離れ慣れたと思って見るウリッツァ

 マギヤが己に課した絶対的法則absolute ruleの一端を、トロイノイに明かしたその日の夜。

 寝静まるタケシをよそに、己の高ぶりを鎮めんとするマギヤがいた。

 一応言っておくが、性的な興奮からではない……はずだ。

 両親が死んでから――というのが今のマギヤの認識――、何かある度に増えていった絶対的法則。

 むやみに生き物を殺さない、などわざわざ言われなくてもほぼ誰もが守っていることから、緊急時やあの人以外を相手に接近戦をしない、など律儀に守ると若干不利になることまで様々ある。

 トロイノイが死なない限りトロイノイを離さない。

 以前マギヤ本人も言っていた通り、トロイノイの父親が何者か、マギヤはよーく理解している。

 かつてマギヤが、惚れ込んだと言ってもいいあの人である。

 そんなあの人のこの世で唯一の肉親を失うわけには、いくまいと影ながら? 奮闘すべきときに、あの人がおそらく気まぐれで付きまとっている女にかまっている場合ではなかった。

 己の過ちに気付かせてくれたトロイノイに、畏敬……崇敬……尊敬はなんとなく違う……などと考えながらマギヤは寝落ちた。



 追放もとい出奔同然のあれをして以降、ウリッツァ班を見ないようにしていた、いや、班移動にまつわるあれこれの忙しなさから見られなかったマギヤ。

 タケシ班にも慣れてきたことだし、ウリッツァへの重い思いも少しは軽くなっただろうと、ウリッツァ班が聖女ヴィーシニャを見張る日にウリッツァ班の様子を見ることにした。

 マギヤ自身があそこにいないことを除けばマギヤがいた頃と大して変わりなく動いている。元タケシ班の……マギヤがパッと名前を出せないあれもウリッツァ班に馴染んだようだ。

 班移動のあれこれはお互い様なようで何もおかしことではないはずなのに、なぜかそれにどこか落ち着けない、いや、腑に落ちないと感じるマギヤがいた。

 


 さて夏が来たということは夏休みも、試験も近付いているということにこの上ない。

 トーナメント表から個人戦の初戦でウリッツァと戦えることが分かったので、今に至るまでウリッツァに内密にしていたあれやこれやや、新たに会得した魔法やらなんやらをどう披露してやろうか、そもそもルール的に試験で披露できるのかなどと考えていたらタケシに声をかけられた。

「なんですかタケシさん。今いいところなのに」

「相変わらずさん付けが抜けないな……マギヤ」

「なんと呼ぼうと私の勝手でしょう。で、私に何かご用ですか? 男子個人戦の対策ならあちらの、班対抗戦対策なら、そこのノートでも読んだらどうでしょう? 去年のデータが中心とは言え、読まないよりはいいでしょう?」

「わお、びっちりじゃねえか。頼りになるな、経験者マギヤ

「褒めても何も出しませんよ」

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