第18話 名前を最後まで呼べないあの人

 先代聖女マナの過去を知ってから数日経ったある日。

 ウリッツァとマギヤとトロイノイとプリストラは共に話をしていた。

「まず、トロイノイって、マギヤとプリストラの両親がある男に……えっと、

 二重の意味でられたって話は知ってるっけ?」

「に、二重の意味?」


「ああ、知らないよね……。

 あの話をした時、僕達男子しかいなかったもん。

 ちなみに二重の意味っていうのは性的な意味と暴力的な意味だよ」

 トロイノイの、両親共に性的にやられたの、という驚きのこもった問いに他の三人が頷く。


「……マナ様のあれとおあいこね。それでその話がどうしたの?」

「……犯人について話をしようと思いまして。まず、あの人の名前は、ロリ……、ロリ……、ロリィィィィ……」

「えっと、ロリィィィィさん?」

 『あの人』の名前を呼ぶのに苦心するマギヤに対しウリッツァは尋ねる。

「違います、次の文字は……アス・パソビエです」

「つまり、ロリ……ロリ……ロリィィィィ……」

 ロリアス・パソビエ。それがウリッツァらが言おうとしている名前である。



「……フルネームを呼ぼうとすると話が止まるので、ロリさんとしましょう。

 あの人……ロリさんは両親と同学年で、その年の完璧すぎる大魔導師オーバーパーフェクトオーバーウィザードで、私の恩人……だったんです」

 ウリッツァが、ロリさんが恩人って? と聞くとプリストラが答える。


「ちっちゃい時にマギヤが病気で手術を受けることになって、父さんとお見舞いしてた時に訪ねてきたお医者さんがロリさんだって、マギヤが退院してから父さんが言ってた」

「退院してから時々学園の卒業アルバムに載っているあの人を見ていた時期もありましたが、

 ある日写真からあの人の姿が消えて、

 一人であの人のフルネームも呼べなくなり、

 あの人がアルバムに写らないことなどが当たり前になろうとしたとき、

 両親は殺され、それから私は、私達兄弟は逃げて、あの人の名前をどうにかして、駆けつけてきた聖女親衛隊や警察組織の方に告げた……のですが、あの人は未だ捕まっていないのです。

 ……あれからもう十年は経つのに」

 そのことについては、そのうちみんなで調べようということになった。



「……トロイノイ、例の人のフルネームとかを聞いてから、しばらくだんまりだったけど、どうかした?」

「……姓がパソビエの奴に心当たりがあるんだけど……」

 男子達がその名を問う。


「ローレンス・パソビエ。ヴィーシニャのプレゼント資金のために行ったバイトで会ってるはずだけど……」

 ウリッツァ班男子が、ローレンスって確か……、と考えた直後、出た言葉は、

「後ろ姿しか見えませんでしたが、トロイノイとやたら距離が近かった、トロイノイより少し背が高い肩にかかる黒髪を一つ結びしていた人でしょう?」

「調理場のあれこれ爆発事件が起きる前にオレが調理してたとき、オレのほぼ真後ろでトロイノイといた、トロイノイよりも小柄で黒ぶち眼鏡をかけてた肩にかからないくらいの黒っぽい灰色の髪の人だよな?」

「ウリッツァと交代して調理していたとき、トロイノイのそばで、トロイノイと同じくらいの背丈で肩にかかる長さの白っぽい灰色の髪の人だっけ?」

「待って、なんで同一人物の容姿説明がバラけんの!?」

 どれが正解なのかと男子達が聞くとトロイノイはウリッツァと答えた。

「ねぇ、マギヤ、プリストラ、二人ともあの時、眼鏡合ってなかったの?」

 ストノスト兄弟はあくまで否定する。

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