第7話 旧聖女と現聖女

 美術の授業が終わり、昼休みになる。

 生徒たちが思い思い過ごす中、ウリッツァ班の男子組は図書館の棚の前にいた。

 ウリッツァが、ヴィーシニャとその十代前までの聖女について記されたファイルを取り出してマギヤに渡し、マギヤが選ばれたヴィーシニャの絵を縮小したものを聖女の肖像を入れるスペースに魔法で貼り付ける。


 聖女ヴィーシニャの肖像に選ばれたのはプリストラが描いた絵だった。

 ヴィーシニャへの愛を込めて本人らしさを留めつつ本人以上に美しく描いたら採用されたのである。

 自分の絵がおさまったのを見届けたプリストラがマギヤからファイルをもらい、自らが描いた絵をほれぼれと眺めて、こう言った。

「はぁ~、僕が描いたヴィーシニャの絵がこうして枠に収まってる。いいな~」


 プリストラが、前の聖女のページをパラパラとめくっていたが、あるページで、ぴたりと止まった。

 目を見開いて固まったプリストラを見てウリッツァが、どうした? と尋ねた。

「これ、母さんじゃ……!」

 プリストラがウリッツァとマギヤに絵を見せる。


 その聖女の名前はヌミア。青緑色の長い髪で黒曜石に例えられる黒い瞳を持ち、左目の泣きぼくろが特徴の柔らかい雰囲気を持つ女性だ。

「え、おい、マジなのか!? マギヤ!」

 マギヤは胸を押さえながら答える。

「はい……、私達の母です……」

「確かお前らの両親って……」

「……殺されたよ。僕達が五歳の誕生日を迎えた日に……!」


 ウリッツァとヴィーシニャが孤児ということは、覚えているだろうか。

 養護施設兼聖女育成施設で育っていたウリッツァとヴィーシニャが五歳の頃、マギヤ達が駆け込んできたのだ。


「今でも目に浮かぶんです。……あいつが両親を辱しめて殺して、二人が死してなお辱しめる様が……!」

 それを聞いてシリアスな顔になろうとしたウリッツァだったが、マギヤの発言の一部が引っ掛かった。

「えっと、雰囲気ぶち壊すこと聞いていい? 両親を、なんて?」

「辱しめて殺して……と言いましたが?」

「両親ってさ、父と母で、男と女だよな?」

「そうだよ? なにかおかしな点でも……」

 プリストラが何かに気づいたような顔をした後、ウリッツァはマギヤに尋ねる。


「えっと、殺人鬼の性別、分かる? 嫌なこと思い出させるかもだけど」

「男性……です! 中性的で整った顔をしていますから、彼のことは今日まで一度も忘れたことがありません」

「……その殺人鬼、男もいけるの?」

 沈黙が訪れる。プリストラがそれを打ち破った。

「……うん、そう、なっちゃう、ね……。僕、あの時逃げるのに集中してて誰が追ってたかとか全然気にしてなかったけど、今それを聞いて逃げきれてよかったって思った……。

ていうか、マギヤ、あの時そんなやばい光景見てたの?!」

 予鈴のチャイムの音が鳴り響き、三人は静かに図書館を去った。



 午後の授業が終わり、ウリッツァ班をはじめとした日常警護班らと聖女ヴィーシニャは聖女邸に向かった。

「そうだ、ヴィーシニャ。今日誕生日だろ? オレたちからプレゼントがあるんだ」

 そう言ってウリッツァがプレゼントが入った細い箱をヴィーシニャに手渡した。

「え? なあに?」

 ヴィーシニャがリボンを解くと桜色の石が下げられたペンダントだった。

「皆でお金を出し合って買ったの」

「うれしい? ヴィーシニャ」

「うん、ありがとう、みんな」

 ヴィーシニャがペンダントをつけようとしたところ、待ってくださいとマギヤが止めた。

「私たちがそばにいるので大丈夫だとは思いますが、見失わないように位置を把握できる魔法をかけさせてくれますか」

「うん、お願い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る