第6話 学園生活

 ここは聖女と日常警護班そのまもりびとたちの住む館、聖女邸。

 聖女は天蓋付きのベッドで目覚め、寝ずの番をしてくれた女性班員に労いの言葉をかける。

 寝ずの番をしなかった守り人たちは、男二人、あるいは女二人一部屋の二段ベッドで目が覚める。


 二段ベッドの上段で寝ていたウリッツァは天井に頭をぶつけないようにそっと起き上がり、梯子をおりて、下のベッドにいるマギヤに声をかける。

「おっはー、マギヤ」

「おはようございます、ウリッツァ」

 マギヤは櫛で整えた銀色の髪を首の辺りでまとめながらウリッツァに朝の挨拶をした。

「朝から悪いんだけどさ、オレの時計の魔力マナがそろそろ切れそうだから、補充してくれない?」

「ええ、構いませんよ」

 マギヤはウリッツァから時刻が数字で出ている時計を受け取り、

 時計の魔力マナ量の目盛部分に手をかざし、魔力マナをこめ、ウリッツァに手渡した。


 モンス島の道具の多くは魔力マナで動いている。

 人は体内魔力マナの十倍回、魔法が使える。

 例えばウリッツァの体内魔力マナはたったの10で百回しか魔法を使えないが、

 マギヤは58で五百八十回魔法が使える。

 道具の魔力マナの補填は一回分の魔力マナ消費で満タンになる。


 マギヤから時計を受け取り、サンキューと言葉を返したウリッツァは時計をベッドの上に置き、制服に着替える。

 ウリッツァ達の学校の制服は、上が紺のブレザーに白いシャツと赤いネクタイ、下が男子は青いズボン、

 女子は青いチェック柄のプリーツスカートである。



 聖女親衛隊日常警護班の全五班と、聖女ヴィーシニャと、聖女邸の管理をしている職員らが大広間に集い、朝食をとる。

 朝食は日常警護班が毎日交代で作る。

 今日の朝食当番はご存知ウリッツァ班。

 マギヤとトロイノイが調理を担当し、ウリッツァとプリストラが配膳を担当する。

 前にウリッツァが調理に関わったとき、調理中の鍋が爆発したり、フライパンが爆発したり、蛇口が爆発したりしたためウリッツァは絶対に調理に関われなくなっている。


 ウリッツァ達が食事の準備をしているついでにウリッツァ班以外の日常警護班について簡単に紹介しよう。

 聖女親衛隊日常警護班は四人一班で、班の数はウリッツァ班を入れて五班ある。

 日常警護班では最低一人は女性を入れる決まりになっている。

 聖女といやらしい意味ではない夜伽よとぎの相手になるためだ。


 ウリッツァ班の他に、逆ハーレムもとい男子三人女子一人の班、ハーレムもとい女子三人男子一人の班、

 トロイノイのルームメイトが所属するプリストラのルームメイトのドン・カセが班長を務めるドン班は男女同数の班で、トロイノイに対抗意識を持つ女子だけの班もある。

 それぞれの班がそれぞれの思惑で聖女ヴィーシニャを守っている。



 モンス島の学校は我々で言う小学校中学校高校大学大学院などの学校が一か所でまとまっている。

  ウリッツァ達はその中の後期中等教育校舎、通称後中こうちゅう校舎へ向かう。


 一時限目は美術。今日のテーマは座っている聖女ヴィーシニャの肖像画を描くことである。

 マギヤが描いている絵を見てマギヤの右隣の席に座っていたプリストラはこう声をかけた。

「えーっと、マギヤ。確か僕達、目の前のヴィーシニャを描けって言われているんだよね? 桜の木を描けとは言われてないよね?」


 マギヤの美術実技の成績があまりよくないといわれている理由、それは、描いたもののクオリティは悪くないのに、それとモデルが合致しないからである。

 マギヤ本人としてはちゃんと目に見えたものを描いたつもりなのだが、眼鏡が合っていないわけでもないのに、なぜか描いたものがモデルと合致しないのだ。


「いやぁ、九年生の最後の授業の時、あたしのことを牛肉とキャベツの甘辛丼に描いたときに比べればまだましだと思うわよ。

ちょっと前に知り合いから聞いたんだけどヴィーシニャって、とある北国の言葉で桜って意味らしいし」

 そうマギヤの左隣りに座っているトロイノイがマギヤのフォローになっているか否か怪しいフォローを入れた。


「へー、そうなの? いや、でも、髪と瞳の色が合ってるだけっていう現状は変わってないよ!?」

 そんなプリストラのツッコミをよそに、マギヤの後ろに座っていたウリッツァがヴィーシニャの絵を描き上げた。

 ウリッツァの絵は、なんというか、色こそ間違えてはいないが普通に下手な絵だった。

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