第一章 聖女を追って
聖女を守るもの
第3話 聖女交代式のあと
聖女交代式が終わって、観客たちが全て集会所から出て、係員が集会所の扉を閉めた後、元聖女となったマナが、すっ、と横に倒れて仰向けになった。
聖女交代式は何事もなく執り行われたはずだ。なのにどうして元聖女マナは倒れたというのか。
マナが倒れているのを見た付き人の女性が医者を呼び出し、マナを見てもらった。
マナは呼吸も脈も無く、瞳孔も動かなかった。
完全に死んでいる、そう判断されようとしたとき、ヴィーシニャが口を開いた。
「あの、わたし、立ち上がる時にマナ様の手に触れたんですが、その、映像が見えたんです。
……マナ様、いえ、マナ様の形をした
右手でワンピースの胸元をつかみ、その甲にある白い十字架――聖人因子の紋章――を無意識に見せながらヴィーシニャは言った。
聖人因子とは、毎年一人、十五年に数人の者が生まれつき持つもので、これを持つ者は聖人の名の通り、良心的な者が多い。
その紋章は利き手――両利きの者は右手――に現れる。
そして聖人因子を持つ者は生まれながらに魔法とは別の特殊な力――マナの死期を見つめる目や、ヴィーシニャの無生物の記憶を読む手など――を持っていると言われている。
また、聖女になった者の多くは、この聖人因子の持ち主である。
今、目の前にいる元聖女マナが何者かに作られた
ヴィーシニャの因子の力が導いた答えに人々がざわめく中、
「あの、その映像の中にマナ様は、いらっしゃるのですか?」
マギヤがヴィーシニャにそう尋ねた。
ヴィーシニャはちょっと待ってください、と言ってマナの紋章のある手に触れる。
因子の力と魔法は混同されやすいが、たった一つだけ違いがある。
それは、魔法は目をつぶっても使えるが、因子の能力は発動している間、何があっても、どうあがいても目をつぶれない、ということである。
現に、何者かに作られたマナの記憶を読んでいる最中、ヴィーシニャの目は、ぱっちりと開きっぱなしだ。
しばらくするとヴィーシニャが記憶を読み終え、映像の中にマナがいたことを報告した。その報告を受けて、式に参列していた警察軍の上官はこう言った。
「聖女親衛隊各班に告げる、新聖女ヴィーシニャ様の警護と先代聖女マナ様の捜索を命じる!」
ウリッツァ、マギヤ、トロイノイ、プリストラをはじめとする聖女親衛隊の面々は御意の声を上げた。
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