第2話 『彼』と聖女と人形と

 ヴィーシニャという新しい聖女の誕生を見守った彼は一人、家に向かっていた。

 彼は「手作り人形 Posobiyeパソビエ」という看板の出た店の向かって左側にある袋小路に入り、

「関係者以外立ち入り禁止 御用の方はブザーを鳴らしてください」と縦書きで書かれた張り紙がある引き戸の鍵を開けて地下へ降りる。



 喪服を着ていた彼は喪服から長袖で丸首のグレーのシャツと黒いジーンズに着替えて、愛用の黒いエプロンをはき――エプロンをはく、とはどういうことかって?

  彼はあらかじめエプロンの後ろの紐を結んでおいた状態にしておいて、それでズボンをはくようにエプロンを着るのだ。もちろん、首に胸当てから出ている紐もかけて――、軽い昼食をとった後、仕事に入っていた。


 何の仕事かというとドール作りの仕事である。

 モンス島の、彼をはじめとした人形師たちは聖女交代式の後、新しい聖女の人形を作るのが暗黙のルールになっている。

 元々これは、彼がこの世で一番愛している彼の祖母が個人的に始めたことなのだが、いつしかそれは広まっていき今に至っている。


 彼は一人、工房の真ん中で道具棚や材料の箱へ意識を集中させる。

 すると、道具や材料たちが彼の意のままに動き出し、人形を作り上げていった。

 モンス島において魔法が使えることは何もおかしなことではない。

 通常は体内にある魔力マナを言の葉に乗せたり、指などを動かして魔力マナを拡散させたりして魔法を使うのだが、訓練すれば彼のように言葉を発さず、指などを動かさずとも魔法が使えるようになる。



 新聖女ヴィーシニャの人形を作り、使った道具や材料を片付けた後、彼は自室に向かい、エプロンと靴を脱ぎ、ベッドの上で寝ている元聖女マナの人形の鼻に目を開けて口づけた。

 そして彼はベッドに寝転び、彼女をそっと抱きしめた。

 彼女は命がないゆえに、お世辞にも温かいとは言えなかったが、彼はそれゆえに昂っていく。


 マナ。そう目を潤ませ、甘く熱を帯びた声でその名を呼び、頭部、首筋、腕から指先、さらにまとっていたワンピースを脱がせ、鎖骨、胸、腰、脚、つま先に至るまで念入りにキスと愛撫をし、彼も着ていた服をすべて脱ぐ。


 彼女の背中に手を触れて、入れるよ、と囁く。

 潤滑液を寝かせた彼女の中に塗りつけ、そこに彼自身を入れ、彼はゆっくりと動き出した。

 眠るようなマナの顔を見つめながら、彼はマナのことに意識を飛ばす。

 聖女の座がマナに代わった交代式の日には、自分がマナとこんなことをしたくなるとは微塵も考え付いていなかった。

 その日から今に至るまでのことを思い返していくうちに、彼はマナの体を起こして激しく彼女を突き上げていき、彼女の中に激情を吐き出す。


 彼女から自身を抜き取り、吐き出したものがこぼれるのを見て、彼は、あ、と我に返る。

 彼は少し考えた後、あー、もうと小言をたれながらマナのなかにぶちまけた彼の劣情やもろもろを魔法で取り出し、それをちり紙に包み込んでくずかごへ投げ捨てる。

 自身に付いた液体も拭って、また投げ捨てる。

 眠いのをこらえながら時間を確認すると、そろそろ夕食を作らねばならない時間だった。

 彼は眠気覚ましと汗流しを兼ねて浴室に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る