第3話 クレンザー-Cleanser

 放課後。

「チッ、弾切れか。分目わんめ、わりーけど、クレンザー取ってきてくれ!」

 廊下に居る須穀すごくの声が響き渡る。それはベランダでラーフルの粉を叩いていた庶迂しょうの居るポイントでさえ例外ではなかった。

(おい、名指しで叫ぶな、頼むから。)

「くそっ!なんてしつこい汚れなんだ。だがこの程度で俺が諦めると思うなよ?」

 そして再び、大喝一閃。

「分目ェ、クレンザーはまだかッ!」

 教室に戻ると他のクラスメイトから同情の視線と、何とかしろよと言った白い視線を一斉に受けてしまった。

「分目からクレンザーが届いた暁には貴様なぞあっという間に落として見せるわ!」

 続けてカランという音がしたのは空になったクレンザーの容器を地べたに投げ付けたからに違いない。

「……。」

 俺は覚悟と、二度と宿題を写させてやらねぇ事を心に決め、保健室へと向かった。クレンザー目的で訪れるのはこれまでに三回ある。前々回は

「またクレンザー?」

 と冗談交じりに聞かれ、少し迷ったが嘘をついても仕方ないので、はい、と肯定したところ笑顔を凍らせながら渡された。前回に至っては庶迂が要件を言うと、明らかに怪訝な表情を浮かべたまま無言で渡された。今日はどうなるだろうか。

「失礼します」

 庶迂は定石通り、ノックをして入室した。庶迂が何かを言う前に、

「君か。ちょっと待ってくれよ」

 と把握した様子で奥の棚に向かった。

「お手数、掛けます」

 ついに顔パスで通じる域に来てしまったか。いや、背を向けていたから声パスか…。

「なに、困った時はお互い様さ。」

 クレンザーを手にし、真っ直ぐこっちへ向かって来る…と思いきや急に方向転換。ベッドシーツの上に置かれていたビニール袋を左手で掴み取り、そして、その袋を手渡された。

「これを“木曜日は必ず理科準備室前に居る少女”に渡してくれ」

「ちょっと真意が解りかねるのですが」

 しかし取り合ってくれない。庶迂の肩をポンと叩くと、

「こっちは報酬の前渡しだ」

 と袋の中に、不本意な対価(クレンザー)を入れられた。

「ハハッ…有難うございます」

 これには庶迂も愛想笑いを浮かべるしかなかった。

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