第15話 初めてのお姫様抱っこ~♪
秋葉原アリスは16才の高校生。彼女は運命の女神ディスティニーちゃんと出会い、命を助けてもらう代わりに運命の騎士ディスティニーナイトとなることになった。アリスは今日も不幸な運命と戦うのであった。
第9話。
ついに決戦の時が来た。弟アインと怠惰のベルフェゴールとのゲーム対決の日を迎えた。果たして運命の騎士ディスティニーナイトのアリスと傲慢のルシファーは勝つことができるのだろうか。
ここは1DAY1UPのゲームの世界。
「それではルールを説明します。アイン様は左のコースから、アリス様は右のコースからスタートして、大岩を壊して次の町に先に着いた方が勝ちです。」
「わかった。」
「それでは正々堂々と勝負しましょう。」
「ああ、吠えずらをかかせてやる。いくぞ、ひよっ子。」
「はい。」
簡単に状況を説明すると、4人がいる現地点から2ずつ左右に移動する。まず大岩を攻撃力7で破壊しなければいけないと思われる。そして次の町までの距離が20ぐらいである。
「ベルちゃん、今回のゲームに負ける要素はないの?」
「ご安心下さい、アイン様。何が起こっても負けることはありませんから。」
ニタっと不気味に笑う怠惰のベルフェゴール。そんなベルフェゴールを信頼している弟アイン。果たして傲慢のルシファーの秘策とはいったい何なのだろうか。ついに運命のゲームが幕を空ける。
「ゲームスタート!」
いよいよゲームが始まった。弟アインと怠惰のベルフェゴールは7日分の7ポイントの振り分けをアインは均等に、ベルフェゴールは攻撃力に7ポイント全振りした。
「それでは私が大岩を破壊します!」
「おお! パチパチ。」
「アイン様、行きましょう。」
「ああ。・・・それにしても、姉貴の方は岩を砕く音が聞こえないな?」
「相手は傲慢だから、岩を砕くより地中に押しつぶすとかをやっているかもしれませんね。」
「バカバカしい。」
バーンっと怠惰のベルフェゴールが拳で大岩を砕いた。それに関心もなく拍手をする弟アイン。一方の運命の騎士ディスティニーナイトと傲慢のルシファーは秘策を決行していた。
「いくぞ、ひよっ子!」
「わかったわ!」
「位置について!」
「よ~い・・・ドン!」
ついに秘策を決行する2人。犬猿の仲なのだが、傲慢なルシファーと高飛車なアリスの息はピッタリだった。合図と共に2人は猛スピードで走り出した。しかし大岩の方向でも、次の町の方向でもなかった。
「アイン様、町が見えてきましたね。」
「やっぱり僕たちが勝ったね。」
「あれ?」
「ベルちゃん、どうしたの?」
「後ろから傲慢のルシファーとアリス様が走ってきます。」
「え? えええええ!?」
傲慢のルシファーの秘策。ゲーム素人の姉アリスがステータスポイントの割り振りをミスってしまったため、大岩を砕くことを諦めた。大岩は弟アインたちに壊させて、ルシファーとアリスは全ポイントを素早さに割り振り、弟アインたちを追い抜き、次の町に先に着くことを思いついたのである。
「お! あいつらだ!」
「私たちの方が走力は上だわ! 勝った! この勝負!」
現実逃避ゲーマーの弟アイン、怠け者ゲーマーの怠惰のベルフェゴールの2人だが、この1DAY1UPというゲームで、今までに大岩を自分たちで砕かずに、対戦相手に割らせて、その後を追い抜こうという対戦相手は初めてだった。ついに2組が並んだ。
「さすが傲慢のルシファー!?」
「俺は傲慢だからな。」
「ベルちゃん、感心するな! 姉貴! 卑怯だぞ!」
「何とでも言いなさい! 勝てば官軍よ!」
「最低・・・。」
こんな姉貴が自分の姉で恥ずかしいと思う弟アイン。少し見た目がよく、少し頭が賢い、それだけで周りの人間からチヤホヤされる。兄アーサーが引きこもりのダメ人間と世間から陰口を叩かれても、姉アリスはがんばっていて偉いと言われ、弟の自分はダメ兄貴と輝く姉貴をもった落ちこぼれの弟といじめられてきた。
「抜かせない! 怠惰のアンハッピネス!」
「怠惰ぐらいで俺の傲慢は抑えられないぞ! 傲慢のアンハッピネス!」
「やりますね、ルシファー!?」
「おまえこそ、怠けている割には腕が落ちてないな!? おい! ひよっ子!」
「はい!」
「俺はここでこいつを抑えている! 先に行け!」
「わかったわ。あなたの屍を越えて行くわ!」
「勝手に殺すな!」
傲慢のルシファーと怠惰のベルフェゴールの力量はほぼ互角だった。ルシファーは先にアリスを次の町に行かせて、ゲームの勝利を目指す。しかし姉アリスの前に、復讐、怒り、嫉妬に憑りつかれた弟アインが立ち塞がる。
「姉貴に僕の何が分かるというんだ!? 僕が引きこもりのダメ人間の兄とアイドルモドキの輝いてる姉を持って、周囲の人間から受けた嫌がらせの数々。」
「アイン・・・あなた、そんなに苦労していたの!?」
「他人事かよ!? どうせ弟がいじめられていても、まったく気づかなかったんだろうよ!? どうせゲームばかりしてダメな弟だと思っていたんだろうよ!?」
「そうよ。だって、あなた何も言わないから、私が分かる訳ないじゃん。」
「やっぱり!? そうだったんだ!? 恥ずかしい弟だから、輝かしい私の妹ってバレないようにしてよね、とか思ってたんだ!?」
「そこまでは言ってない。」
「クソ!? 姉貴なんか倒してやる! ゲームの世界では僕が姉貴よりもヒーローなんだ!!!」
弟アインの抑えていた兄弟に対する不満が爆発する。これは姉アリスに対する嫉妬というよりは、できる姉と比べられて、蔑んで見られてきた弟アインの復讐心は怒りに近いものであった。
「ハアハア~ン。俺、わかったぞ。」
「ギク。」
「ひよっ子の弟を支配していた不幸な運命は、おまえじゃなかったってことだな。」
「大正解!」
「だが、嫉妬のレヴィアタンなら優柔不断だからどうでもいい。しかしひよっ子の弟を支配している不幸な運命は・・・憤怒。」
「はい。私がアイン様が怒らないように怠けさせて感情を爆発させないようにしていたんですけどね。」
「なんで?」
「アイン様とはゲーム友達ですから。」
「はあ!? おまえ悪魔じゃん!? 人間のガキと友達になってどうする!?」
「どうするって言われても、友達になれたから。君とアリス様も友達だろう?」
「ちが~う!? 俺がひよっ子と友達なんてことは断じてない!?」
「はいはい、照れちゃって、かわいい。」
傲慢のルシファー。悪魔の集団、男装の魔女というグループで運命の騎士ディスティニーナイトのアリスに卑劣な嫌がらせをしまくる予定だったが、いつの間にか悪魔なのに人権を獲得している。嫉妬のレヴィアタンが少し可哀そうな思われ方をしている。
「誰が可愛そうだ!」
「あ、来た。」
「お久しぶり。」
「怠惰のベルフェゴール!? それに傲慢のルシファー!? いったいみんなで何をやっているの?」
「おまえに用はない。帰れ。」
「さようなら。」
「バイバイ! またね!」
「・・・素直な奴だ。」
「あれで悪魔?」
「おまえが言うな。」
噂話に釣られて嫉妬のレヴィアタンが現れた。しかし傲慢のルシファーも怠惰のベルフェゴールも呼んでもいない友情出演のレヴィアタンに対して冷たい態度をとった。レヴィアタンは嫉妬するために、基本は優柔不断で素直な性格の持ち主だった。
「おい! ひよっ子!」
「何よ!?」
「弟さんは憤怒の不幸な運命に憑りつかれているみたいだ。」
「憤怒の不幸な運命!?」
「憤怒を司る悪魔は男装の魔女で1番厄介な奴だ。奴が来る前に不幸な運命を破壊しろ!」
「わかったわ! アイン! 覚悟しなさい! 弟の分際で私に歯向かったことを後悔させてやる!」
「それが姉の言うことか!?」
「問答無用! アリス・ディスティニー・ナイト!」
アリスは光に包まれて私服から中世ヨーロッパの騎士のような姿に変身する。手には運命の剣ディスティニーソードとディスティニーシールドを持っている。アリスは運命の騎士ディスティニーナイトになった。
「アイン、謝るなら今のうちよ!?」
「なんだ!? その姿は!? 1DAY1UPには職業なんて実装されてないぞ!? 僕の知らない裏技があるというのか!?」
「ゲームばっかりやっているあんたには分からないのよ! 現代科学は日々進化しているのよ!」
「クソ!? それでも、それでも負けるものか!?」
「アイン! あなたの歪んだ根性と不幸な運命を叩き潰してあげるわ! くらえ!必殺! ディスティニー・ブレイク!」
「ギャア!?」
「間に合わなかったか。」
姉アリスは確実に弟アインの不幸な運命を打ち砕いた。しかし、嫉妬のレヴィアタンがいきなり現れたように、突然、空間から1人の男が現れる。そのスタイルは傲慢のルシファーを背筋を良くしたような凛々しい男に見える男装の魔女だった。
「弟は気絶している!? 確かに弟の不幸な運命は壊したわ!? あなたはいったい誰!? 」
「憤怒のサタン。」
「憤怒のサタン!? あなたも男装の魔女ね!? 傲慢のルシファーみたいに倒してあげるわ!」
「くらえ! 瞬殺! ディスティニー・ブレイク!」
「憤怒のアンハッピネス。」
弟アインの不幸な運命を打ち砕いた姉アリス。しかし、突如出現した新たな悪魔、憤怒のサタン。今までのコミカルパロディーな男装の魔女とは違い、まさに騎士のような物静かな落ち着いた雰囲気があった。
「誰が倒された・・・誰が!?」
「あれ? 違うの?」
「違うわい!」
「でもいいんですか?」
「何がだ?」
「アリス様は、絶対に憤怒のサタンには勝てませんよ。」
「そんなことは分かっている!? あいつは不幸の女神アンハッピネス様のお気に入りだからな。」
憤怒のサタンには傲慢のルシファーと怠惰のベルフェゴールも一目を置いている。それほどにサタンは強く、アリスの放った必殺技ディスティニー・ブレイクを受けても微動だにしなかった。
「ディスティニー・ブレイクが効かない!?」
「おまえだな。不幸の女神アンハッピネス様の安眠を妨げる害虫は! この憤怒のサタンが撃退してくれるわ!」
「誰が害虫よ!? こんなカワイイ子に対して失礼よ!?」
「害虫は害虫だ! 死んでアンハッピネス様にお詫びしろ! 憤怒のアンハッピネス!」
「ギャア!?」
アリス、ピンチ!? 憤怒のサタンが放った憤怒のアンハッピネスの闇に包まれてしまったアリス。不幸な運命を打ち砕き、運命を切り開く運命の騎士ディスティニーナイトに危機が訪れる。アリスの意識が薄れていく。
(ああ・・・私は死んでしまうのね・・・兄と弟を救って死ねるなんて、上出来ね。ああ・・・せめて恋ぐらいはしたかった・・・私は、なんて悲劇のヒロインなのかしら。)
アリスが自分の人生に酔いしれている頃、アリスの目の前にぼやけた男の人の顔が見えてくる。その人はアリスをお姫様抱っこして、憤怒のアンハッピネスから救い出して、アリスを抱えたまま走っている。
(ああ・・・これは幻覚かしら・・・私が欲しがりだから? それとも恋がしたかったという私の願いを神様が聞いてくれたのかしら、カッコイイ王子様が、私を連れ去って逃げている!? 私はこのまま死ぬのね・・・。)
「おまえは死なない。」
「え?」
「誰が王子様だ。」
「ええ!?」
アリスが意識を取り戻し目を見開いてカッコイイ王子様を見ると、傲慢のルシファーだった。弱っていたとはいえ嫌な奴をカッコイイ王子様と見間違えた自分を責めるアリスであった。
「キャア!? 離せ!? 変態!? セクハラ!?」
「離してもいいが、おまえ1人で憤怒のサタンから逃げれると思っているのか?」
「え? 助けてくれたの?」
「ゲームだ!」
「ゲーム?」
「忘れたか? このゲームは死のデスゲームならぬ、呪いのカースゲーだ。まだ次の町に誰も着いていないということは呪いは解けていないし、勝負は着いていない。」
「あ、そっか!? 私たちはゲームの世界にいたんだった!?」
「いいか、俺はひよっ子を助けた訳じゃない、ただゲームに勝ちたいだけだ。」
「・・・素直じゃないのね。」
「俺は傲慢だからな。」
傲慢のルシファーはアリスをお姫様抱っこしたまま、憤怒のサタンの憤怒のアンハッピネスから逃げながら、ゲームに勝つために次の町を目指す。結果的にルシファーに助けられたアリスは少しだけ傲慢のルシファーを理解したような気がして安心してニコっとほほ笑む。
「よし! 俺の勝ちだ!」
「やった! 私たちの勝利よ!」
「わ~い! わ~い!」
そのまま次の町にたどり着いた。これで1DAY1UPの呪いのカースゲーから解放される。嫌い合っていたはずが、勝負に勝ったことを喜び、傲慢のルシファーとアリスは抱きしめ合って、勝利を喜んだ。
「引き分けですよ。」
「ああ!?」
「はあ!?」
「どうして引き分けなんだ!?」
「そうよ!? そうよ!?」
「あなた方のとった行動は、傲慢過ぎてゲームのプログラミングに登録されていません。よって、勝利は認められません。また憤怒のサタンが乱入したことにより、ゲームが自動リセットされ、呪いのカースゲーは解除されています。」
「なんだと!? 俺の努力が無駄じゃないか!?」
「そういうことは、早く言ってよ!?」
「言おうと思ったら2人で仲良くお姫様抱っこで楽しそうに走り去っていってしまったので・・・今も抱き合ってますしね。」
「な!?」
「え!?」
「離せ!? ひよっ子!?」
「キャア!? セクハラよ!? 痴漢!? 変態!?」
「本当に仲の良いことで。」
アリスと傲慢のルシファーは抱き合っていたが、正気に戻ったかのように、相手から飛びのいて距離をとった。その様子を気絶した弟アインを介抱しながら、楽しそうに茶化す怠惰のベルフェゴールだった。
つづく。
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