第14話 ゲームの国のアリス!?

秋葉原アリスは16才の高校生。彼女は運命の女神ディスティニーちゃんと出会い、命を助けてもらう代わりに運命の騎士ディスティニーナイトとなることになった。アリスは今日も不幸な運命と戦うのであった。


第8話。


アリスは色欲のアスモデウスの脅威を知り退けた。謎のドーナツ職人に助けられたアリスは、ドーナツの本場、ニューヨーク仕込みだという謎のドーナツ職人からドーナツ作りの心構えと指導を受けるのだった。



ここは弟アインに部屋。


「僕は不幸な運命なんかじゃない。」


弟アインの部屋にやって来た姉アリス。弟アインには怠惰のベルフェゴールが憑りついていた。アリスはベルフェゴールを退治しようとするのだが、弟アインがベルちゃんと呼びかばうのだった。


「どういうことなのか、お姉ちゃんに分かるように説明しなさい。」

「僕は不幸な運命に支配されていないということだよ。」

「え!?」

「兄貴の時みたいに運命をプレイバックして覗いてもいいけど、僕は自分の意志で今の生き方を選んでいるんだ。」

「どうして!? そんなゲームばっかりのオタクな生活を!?」

「わからないの?」

「わからない。ぜんぜん、わからない。」

「僕は兄貴みたいに不幸な運命に振り回されたくもないし、姉貴みたいにアキバでアイドルしてチヤホヤされたくもないんだ!!!」

「キャア!?」


弟アインの心の声が言葉となって部屋中に響き渡る。口数が少なく目も合わせないので何を考えているのかわからない弟アイン。そのアインの意見をアリスは初めて聞いたような気がしてビックリした。


「あんた、そんなことを考えていたの!?」

「そうだよ。引きこもりのダメ人間の兄とアキバでアイドルな姉を持って、学校に行ってもいじめられ苦労する弟の気持ちなんてわからないだろう!」

「引きこもりのダメ人間のアーサーはともかく、私はスターだぞ!? 自慢のお姉ちゃんだろうが!?」

「姉貴が潰したアキバのアイドルグループのファンだった奴らに恨まれている。」

「え!? ていうか、そんなの逆恨みじゃない!? 私は悪くないわ!」

「姉貴がアイドル的人気が出なければ、僕はいじめられていない。」

「カワイイって、罪ね。」

「こら!」

「クスクス。」


自分の美貌が学校で、いじめまで引き起こすことに、アリスは酔いしれている。弟の境遇を理解しない姉アリスの態度にどんどん怒り呆れる弟アイン。その麗しい兄弟ゲンカを楽しそうに怠惰のベルフェゴールはみている。


「どうしてあなたはいるのよ!?」

「私? 私はアイン様がいじめられて弱っていると思って、怠け者のやる気なし男にしようと近づいたら、あなたとお兄様への復讐心で一杯だったアイン様に逆に捕まえられたんです。」

「それでも悪魔か。」

「それ以降、私もサボるのが専門なのでアイン様の現実逃避のゲームに付き合っています。アリス様が傲慢のルシファーに吹き飛ばされたのも知ってますよ。」

「ど、どうしてあいつの名前が!?」

「だって、ルシファーと同じ男装の魔女ですから。」

「か、か、痒い!? 蕁麻疹が!?」


意識はしていないつもりなのだが、アリスは傲慢のルシファーに対するアレルギー体質になっていて、全身が痒くなる。周りからチヤホヤされて育ってきたアリスには自分の気持ちは理解できないと弟アインは思う。


「姉貴より、ベルちゃんの方が僕の気持ちを分かってくれているよ。」

「そんなことなわ! 私だって弟の心配をずっとしてきたんだから!」

「別に誰かに迷惑をかけている訳じゃないし、いいだろ。僕に構わないでくれ。」

「お姉ちゃんだって、あなたを理解しようとがんばるわ!」

「姉貴に僕の気持ちは分からない!」


姉アリスと弟アインの分かり合えない兄弟ゲンカが繰り広げられる。まぶしい人生を歩んできたアリスと、ひっそりと生きてきたアインの価値観は違い、2人が分かり合えることはないと思われた。


「はいはい、こういうのはどうでしょう? アリス様がアイン様を理解するために一緒にゲームして遊ぶというのは?」

「ゲ、ゲーム!?」

「アリス様がアイン様を理解するなら、ゲームが1番早くアイン様のことがわかりますよ。」

「でも、私ゲーム何てやったことがない。」

「あれれれ、アイン様のことを知りたいというのは嘘だったんですか?」

「そんなことない。やる。やってやろうじゃない!」

「アイン様はどうです?」

「僕はどうでもいいよ。」

「は~い。ゲーム大会の決まりです!」


姉アリスと弟アインの兄弟げんかに助け舟を出したのは怠惰のベルフェゴールだった。こうして、アインの趣味のゲームで兄弟のスキンシップをすることになったアリスだったが、ゲームなんかやったことがない。


「ゲームは何にしますか?」

「僕はなんでもいいよ。」

「じゃあ、アリス様が決めてください。ジャパロボ、カメリアの奇跡、あ、1DAY1UPの方が初心者のアリス様にはいいかもしれません。」

「1DAY1UP?」

「このゲームは1日1回のログイン時に自分のステータスを1つだけ上げることができます。基本は、それだけなのでゲーム上級者のアイン様とも差がつきにくいですよ。」

「それがいい! それにしましょう!」

「それでは1DAY1UPに決定しました。」


アリスは気軽にゲームを決定してしまった。1DAY1UPが、どれほど単純で恐ろしいゲームなのかを考えていなかった。しかし、アインとベルフェゴールは2人に対して、ゲーム初心者のアリスは1人きりだった。


「アイン様は私とチームを組みます。」

「私は1人よ!? 私はどうすればいいのよ?」

「その点は大丈夫です! ゲームが得意な人を手配しています。」

「よかった。私1人じゃ、全く分からないもの。」

「それではルールを説明します。ダラダラやっても仕方がないので、7日後のクエスト、道を塞いでいる大岩を破壊して、次の町に先に着いた方が勝ちということにします。」

「望むところよ。受けて立つわ!」

「ニヤ。」

「それでは自分の生体反応をスキャンして登録したら、スタートです。」

「これでいいの?」

「はい。アリス様、登録完了。それでは、いってらっしゃい。」

「いってらっしゃいって・・・え!? 体が消えてくんですけど!?」

「最新のVRは視覚で楽しむだけでなく、人間そのものを仮想世界に転送します。」

「ええ!? 聞いてないよ!? 」


怠惰のベルフェゴールはアリスの承認を受けてニヤッと笑う。アリスは異世界に転移されて、現実世界から姿を消した。VRメガネが進化したら、視覚ではなく体全体で楽しめるようになるだろう。


「僕たちも行こうか。」

「私が力7にしますので、アイン様は均等でいいですよ。」

「了解。」


弟アインと怠惰のベルフェゴールはさっさと生体反応を登録し、1DAY1UPの世界に転移される。そして1ステータスの割り振りをさっさと済ませる。そして、あっさりVR世界から地上界に戻って来た。


「ただいま。」

「1ステータスを振るだけしかやることがないですもんね。」

「この歳で姉貴の相手も面倒臭いだけなんだよね。」

「そういえばアリス様、まだ帰って来ませんね。」

「ほっとこう。高飛車な姉貴にはいいお灸だよ。」

「そうですね。ダラダラしていたいですもんね。」

「そう言うこと。」


なぜか弟アインと怠惰のベルフェゴールは相性が良かった。やる気のない者と怠けたい者と気が合うのは必然かもしれない。しかし、我らが主人公アリスは、まだゲームの世界に転移していた。



ここは1DAY1UPのゲームの世界。


「傲慢のルシファー!? どうしてあなたが!?」


最新のVRゲームの世界に転移したアリス。ゲーム初心者のアリスのために、怠惰のベルフェゴールがアリスのために、ゲームが得意な助っ人を手配してくれた。しかし、ベルフェゴールの友達は男装の魔女であった。


「ひよっ子!? なぜおまえがいる!?」


怠惰のベルフェゴールに、たまにはゲームでもして遊ぼうよ、君の知り合いも待ってるよ、っと誘われた傲慢のルシファー。最近、地上界に入り浸っているので、久しぶりに顔でも見るかと思ってやって来た。


「まさか!? 私のパートナー!?」

「ああ~!? 俺の知り合いって、ひよっ子のことか!?」

「む、無理。私にゲームなんて無理。ましてこいつの顔を見ないといけないなんて・・・。」

「それは俺のセリフだ!? だが、このゲームは放棄はできないぞ。」

「え!? どうして?」

「聞いてないのか? 1DAY1UPはログインするだけの簡単ゲーで、短期間に勝負をつけるのに向いているゲームだ。それなのに途中で放棄すると、このVR世界に引き吊り込まれるデスゲームならぬ、呪いのカースゲーだ!」

「ええ!? そんなこと聞いてないわよ!?」

「ゲーマーとして常識だろうが!?」

「私、ゲーマーじゃないもん!」

「なんだと!?」


呪いのカースゲーム。ついに来た! パクられ過ぎのデスゲームの次のゲーム候補。アリスの設定が、運命を変える、好奇心から高飛車にまでパワーアップした。

高飛車なアリスは傲慢のルシファーに屈することなく戦っている。


「おい!? ひよっ子!?」

「なによ!?」

「今日の1UPは何に割り振った?」

「素早さ。」

「なんだと!?」

「なんで、そんなに怒られないといけないのよ!?」


ゲームをやらないアリスには、趣味がゲームの傲慢のルシファーは、アリスの素人ぶりに激昂した。今回のゲームのルールは7日後に道を邪魔している大岩を破壊して、次の町に早く着いた者が勝ちである。


「ゲームの帰還は何日だ?」

「7日。」

「ということは、ステータスを上げることは何回できる?」

「7回。」

「今回のクエストのキーポイントはなんだ?」

「7日後に・・・。」

「違う。」

「道を邪魔・・・。」

「違う。」

「大岩を破壊して。」

「そこだ。絶対に大岩を破壊しなければいけないんだ。大岩を壊すことが出来なければ、次の町を目指すこともできないんだぞ。」

「あ、そっか。」

「あ、そっかじゃない!」

「キャア!?」

「もし大岩を砕くのに攻撃力が7いる設定だと、ひよっ子、おまえにはもう岩をくだくことができない。」

「ええ!? なんですって!?」


傲慢のルシファーはゲーム初心者のアリスでも分かるように丁寧に説明をした。成績優秀、頭脳明晰のアリスは呑み込みが早かった。自分がゲームの世界ではやってはいけないことをやったのだと理解した。


「すいません。」

「分かればいい、分かれば。」

「本当にごめんなさい。」

「き、気持ち悪いな!?」

「だって私の性で負けるんだもの。」

「あ、謝るな!? 誰にだって間違いはある!?」

「慰めてくれてるの?」

「ち、違う!? あとでおまえに文句を言われたくないだけだ。」

「素直じゃないわね。」

「俺は傲慢だからな。」


高飛車なアリスも、さすがに精神的ダメージを受けた。自分がやってしまったことでゲームに負けるかもしれないのだ。いつも笑顔で元気で明るく前向きなアリスの顔から笑顔が消えて落ち込んでいる。そのギャップや言い過ぎたかというよりは、落ち込んでいるアリスを見て張り合いがないと思い、戸惑う傲慢のルシファーは気を使った言葉に弱かった。


「一時休戦だ・・・俺に作戦がある。」

「え?」

「ひよっ子、耳を貸せ。」

「はい。」

「ゴチョゴチョゴチョ。」

「ほうほう。」

「分かったか?」

「でも、それっていいの?」

「俺は、どんな手を使ってでも勝つ主義なんだ。」


ドキ!? まるで自分の失態をさりげなくフォロしてくれているように感じたアリスは一瞬だが、傲慢のルシファーにドキッとしてしまった。会えば蕁麻疹が出て痒くなる嫌な奴としか思っていない相手なのに、胸がときめいてしまった。



そして、都合よく、7日が経ったゲームの世界。


「ベルフェゴール! よくも俺をはめてくれたな!」

「アリス様は知り合いだから間違いはないでしょう。」

「なにを!? あとでギャフンと言わせてやる!」

「ギャフン。言いましたよ。」

「ば、ば、バカにしやがって!?」

「ゲームは怠け者の私にピッタリなんです。」


傲慢のルシファーと怠惰のベルフェゴールは仲良しだった。傲慢というのは自分の地位や名誉、立場は気にするが、過ぎた過去を根にもって恨むようなことはない。怠惰もやる気は怠ける方向にしか使えないので、ゲームのような現実逃避のコンテンツを楽しむ才能に長けていた。


「アイン、勝負をつけるわよ。」

「姉貴にゲームで負けることはない。精々、がんばってよ。」

「弟のくせに!? ギャフンと言わせてやる!」

「ギャフン。これでいい?」

「ム、ム、ムカつく!?」


姉アリスは弟のアインに手の平の上で踊らされるように、イライラさせられ心理戦で負けた。アリスは正統派ヒロインだった・・・はず、才色兼備、文武両道、成績優秀だったはず。いつから高飛車なアリスになってしまったのだろう。そうか、傲慢のルシファーと張り合うようになってからか。友達は選んだ方がいいね。


つづく。

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