第12話 師匠、ゴーマンさん!?

秋葉原アリスは16才の高校生。彼女は運命の女神ディスティニーちゃんと出会い、命を助けてもらう代わりに運命の騎士ディスティニーナイトとなることになった。アリスは今日も不幸な運命と戦うのであった。


第7話。


アリスは色欲のアスモデウスの脅威を知り退けた。謎のドーナツ職人に助けられたアリスは、ドーナツの本場、ニューヨーク仕込みだという謎のドーナツ職人からドーナツ作りの心構えと指導を受けるのだった。



ここはドーナツ屋のキッチン。


「いいかい、ここはこうして、こうするんだ。」

「はい、こうですね。」


アリスは謎のドーナツ職人に手取り足取りドーナツの作り方を教わっている。まだ十代のアリスは相手を女生と分かっていながらも密着感に、まるで舞踏会でワルツを踊っているようで気持ちがドキドキして、ドーナツの作りに集中できなかった。


「おい。」

「ドキドキ。」

「おい?」

「ドキドキ。」

「おい!」

「は、はい!?」

「終わったぞ。」

「え!?」

「ドーナツが完成した。」

「わ~!? すごい!? これ私が作ったの!?」


アリスがドキドキと、ときめいている間においしそうなドーナツが完成した。今までのアリスの作っただけの形だけのドーナツとは違い、まるでドーナツが生きているように活き活きと輝いて踊り出しそうなくらい、おいしそうなドーナツができあがっていた。


「そうだよ。心を込めて作ればドーナツだって喜ぶんだ。」

「はい。ドーナツが笑っているみたいですね。」

「いい表現だ。これからもドーナツを真心を込めて作れば、アリスちゃんなら、1人でも食べた人が幸せになれるドーナツを作ることができるよ。」

「私、がんばります! 食べた人の運命を変えられるようなドーナツを作ってみせます!」

「じゃあ、俺はダンスも踊ったことだし、帰るとしよう。」

「え!? もう行かれるんですか?」

「俺は忙しくてね。がんばれよ、ひよっ子。」

「ありがとうございました。」


こうして謎のドーナツ職人はお土産のドーナツと共に去って行った。アリスに大きな衝撃を与えた謎のドーナツ職人が、まさか傲慢のルシファーだとは、アリスは思わなかった。ルシファーがアリスを呼ぶ「ひよっ子」と呼ばれても、ルシファーだとは、全く考えなかった。


「しまった!? あの方の名前を聞くのを忘れた・・・。どうしよう? 師匠はベタでオリジナル性がないし、ミス・ドーナツさんだとドーナツ以外には登場できなくなるし、ルシファーみたいに私のことをひよっ子って呼んでたわね・・・傲慢だからゴーマンにしようかしら? ダメダメ!? 嫌な奴を思い出す・・・。」


アリスは痛恨のミス! 憧れの謎のドーナツ職人の名前を聞くのを忘れた。アリスはいろいろと名前の候補を考えるのだが、どれもパッとしない。アリスにとって、謎のドーナツ職人さんとの出会いは、初恋のような胸の高鳴りだった。


「謎のドーナツ職人さんは、私に夢と希望を与えてくれる、私の運命の騎士ディスティニーナイトに違いない!」


アリスは憧れの謎のドーナツ職人さんのことを、自分の運命を変えてくれる、若しくは自分の運命の人だと思うぐらい胸がドキドキしていた。アリスの目はハート形になっていた。



ここはアンハッピネス城。


傲慢のルシファーが戻ってくると舞踏会も終わっていた。グダグダと椅子に座って飲み食いしている嫉妬のレヴィアタンと強欲のマモン、暴食のベルゼブブ、無のベリアルが会話している所にルシファーが帰ってきた。


「どうだい? ダンスは踊れたかい?」

「俺を誰だと思っている? 傲慢のルシファーだぞ。ばっちりだ。」

「相変わらず、傲慢だな。」

「クンクン、その手に持っているのは食べ物だな。」

「暴食のベルゼブブ、おまえは犬か!? ほれ、お土産だ。」

「ワンワン!」

「色欲のアスモデウスが拗ねてたぞ。ルシファーにお嬢さんを横取りされたって。」

「悪いがひよっ子は、最初から俺の獲物だ。あいつが割り込むのが悪いんだ。」

「傲慢だな。そんなに傲慢でお金が儲かるか?」

「おまえみたいに24時間お金のことばかり考えている訳じゃないぞ!?」

「強欲で悪かったな。」

「ベリアル、おまえもなんかしゃべれよ。」

「・・・巻き込まれたくない。」


無口な無のベリアルは置いといて、嫉妬のレヴィアタンとは通常会話を、暴食のベルゼブブとは食べ物の会話を、強欲のマモンとはお金の話を楽しむ傲慢のルシファーだった。男装の魔女の通常会話の立ち位置だった。


「うまい!? なんだ!? この食べ物は!? こんなにおいしい食べ物は初めてだ!?」

「ドーナツというらしいぞ。」

「ドーナツ!? 素晴らしい! 全部食べるぞ!」

「こら! 我々の人数分は食うなよ! 憤怒と怠惰と色欲の分は食べていいぞ。」

「やった! マモン、優しい!」

「ドーナツを持ってきてやったのは、俺だからな!」

「はいはい、ルシファーも優しいよ。」

「優しいも他人に譲る気がないのか? 本当に傲慢だな。」

「うるさい! 文句を言うなら嫉妬はドーナツを食うな!」

「ええ!? そんな!?」

「ならレヴィアタンの分、食べていい? 」

「いいぞ。」

「ダメ!!!」


とてもじゃないが魔王の復活を目論む悪魔の集団、男装の魔女とは思えないぐらい和気藹々とした雰囲気だった。人間の住む地上界を不幸な運命をまき散らしている連中とは思えなかった。


「ねえねえ、ルシファー。」

「なんだ? 暴食。」

「このおいしいドーナツはいったい誰が作ったの?」

「俺とひよっ子だ。」

「なに!?」

「敵の運命の騎士ディスティニーナイトと一緒に作ったのか!?」

「ああ、初めての共同作業だ。」

「ディスティニーナイト・・・ドーナツ屋さんだったんだね? どうして僕に教えてくれなかったんだ!?」

「おまえに言ったら、店が潰れるだろう。」

「・・・今度、行ってみよう。ムフフ。」

「しかし、これだけおいしいとかなり儲かっているだろう?」

「朝から大行列だ。徹夜組も出る程の人気だ。」

「おもしろい、金になるなら私がマネージメントしてやる。儲からなければ消すだけよ。」

「おまえたちにひよっ子が倒せるかな?」

「食べる!」

「儲ける!」

「ワッハッハー!」


暴食のベルゼブブと強欲のマモンはニタニタ笑いながら、おやすみと言って去って行った。残された傲慢のルシファーと嫉妬のレヴィアタン、無のベリアルも、そろそろお開きにして席を立ち始めた。


「おっと、運命の騎士ディスティニーナイトには親衛隊がいて、命懸けでひよっ子を守っているって言うのを忘れてた。」

「技とだろう。」

「え?」

「ひよっ子とバカにしているけど、運命の騎士ディスティニーナイトのことが気に入ったんだろう?」

「はあ!? 冗談をいうな! そんなことある訳ないだろう!」

「顔を見てたら分かるよ。ひよっ子のことを話す時は楽しそうな顔をしている。嫉妬しちゃうな。」

「ば、バカを言うな!? もう寝る! おやすみ!」

「ハハハハハ!」

「・・・クスクス。」

「お、君も笑うんだね。」

「・・・無でも笑う時は笑うよ。」

「そりゃそうだ。アハハハハ!」

「・・・アハハハハ!」


こうして男装の魔女5人での楽しいトークショーは終わった。しかし自室への帰り道、納得していない悪魔が1人。傲慢のルシファーだ。運命の騎士ディスティニーナイトのひよっ子のことを言われて気になっている。


「俺がひよっ子のことを気にしているだと!? そんなことはあり得ない!」


傲慢のルシファーは文句をブツブツ言いながら自室に就寝のために帰って行く。確かに女たらしの色欲のアスモデウスの魔の手から、結果的にアリスを守ったのはルシファー自身だった。


「ひよっ子が333万匹・・・ひよっ子が334万匹・・・」


この夜、ルシファーは眠れずに羊を数え続けることになる。



ここはアリスの自宅。


「ただいま!」

「おかえりなさい! アリスちゃん!」

「おかえり! アリスおばさん!」

「こら! マリモ! アリスお姉ちゃんと呼びなさい!」

「じゃあ私のこともマリーアントワネット・萌子と呼んで!」

「・・・マリーアントワネット・萌子ちゃん、ただいま。」

「おかえり、アリスお姉ちゃん。」

「・・・」


アリスはアルバイトを終えて自宅に帰ってきた。アリスは今日は充実したバイトの時間を過ごしたので機嫌が良かった。また家に帰って来た時にただいまの挨拶をして、おかえりの返事が返ってくるのが嬉しかった。少し小学4年生の姪の相手をするのが煩わしいかった。


「あれ!? ディスティニーちゃんがいない!?」


アルバイトを終え自宅に帰ってきたアリス。アリスは自分の部屋に行くのだが、留守番をしているはずの運命の女神ディスティニーちゃんが部屋にいない。アリスは嫌な予感しかしなかった。


「わ~い! 変な妖精のぬいぐるみ!」

「違う!? ディスティニーちゃんは女神です!?」

「・・・。」


運命の女神ディスティニーちゃんを探しに居間にいったアリス。そこで目にしたのは女神を鹵獲して振り回している楽しそうに遊んでいるマリモだった。アリスは女神の天罰も恐れぬ女の子の姿に言葉を失う。


「ダメ! それは私のぬいぐるみよ!」

「私に頂戴?」

「ダメ! ダメよ!」

「ケチ!」

「それから勝手に部屋に入らないで!」

「私、入ってないよ。」

「え?」

「そのぬいぐるみがお腹が減ったと言って、冷蔵庫を開けてのドーナツを食べていたのよ。」

「ええ!? ディスティニーちゃん!?」

「キャア!? 怒らないで!?」


アリスにビビるディスティニーちゃん。アリスには運命の女神が冷蔵庫を開けて、お土産のドーナツを食べている姿が容易に想像できた。動くし喋るし変なぬいぐるみでも押し通すことも不可能でさじを投げたアリス。


「そのぬいぐるみはAIが入ってるんでしょう?」

「お母さん、AIって何?」

「人工知能のことよ。言葉を話したり、動いたりするんだって。」

「それよ! それ! ディスティニーちゃんには超高性能の最新型のIAが組み込まれているのよ!」

「アリスちゃん、IAじゃなくて、AIよ。」

「AI! AI! AI!」


運命の女神ディスティニーちゃんは、10才の女の子の前では、AIを搭載した変な妖精のぬいぐるみとして扱われることになった。ただし冷蔵庫のドーナツを盗み食いする所を現行犯逮捕された前科一犯の変な妖精のぬいぐるみであった。


「私が教育してあげる。ニタ~。」

「ヒイイイイ!? アリス助けて!?」

「さあ、部屋に帰って勉強でもするか。」

「アリスの薄情者!?」


こうして変な妖精のぬいぐるみは、マリモのおもちゃとして相手をすることになった。アリスは自分の部屋に戻ろうとするのだが、何か忘れていることに気がついた。


「あ!? そうだ!? アインのことを忘れてた!?」


今日はアルバイトから帰ってきたら、弟アインの運命をのぞき見する予定だった。兄アーサー同様、どこかで幸せになるはずの運命が、何らかの理由で不幸な運命になっていないかを確かめるためである。


「アイン、いる? 開けるわよ。」

「どうぞ。」

「ん!? そちらは・・・お友達?」

「はい、私はアイン様のお友達、怠惰のベルフェゴールです。」

「ええ!?」


姉アリスは弟アインの部屋の扉を開ける。するとアインともう1人いて、仲良くゲームをしていた。弟アインには友達なんかいないと思っていたアリスは珍しいと思いながら名前を聞いたら、男装の魔女だった。


「悪魔!?」

「大正解!」

「傲慢のルシファーに吹き飛ばされたのをまだ恨んでいるわよ!」

「さすが運命の騎士ディスティニーナイト。よくご存じで。」

「どうして!? それを!?」

「怠けていると退屈でワイドショーに興味があるもので。」

「ベルちゃん、手が止まっている。ベルちゃんの番だよ。」

「は~い。アイン様。」

「・・・な!?」


アリスは怠惰のベルフェゴールだけでなく、弟アインにまで相手にされずに放置プレイを味あわされる。それどころか弟のアインの方が、ベルフェゴールよりも立場が強く感じられた。アリスを無視してゲームをする2人。


「ちょっと!? 私を無視するんじゃない!?」

「アリス姉さん、うるさい。ゲームの邪魔。」

「え!?」

「そこそこ! ああ! 惜しい!」

「ベルちゃん、もう一度だ!」

「おお! がんばるぞ!」

「さっきから私を無視して!? ゲームの線を抜いてやるぞ!?」

「いいの? そんなことをしたら、僕はやる気を失って、怠惰のベルフェゴールに僕の運命が不幸な運命に変えられ、僕はダラダラ生きることになるよ。」

「え!? どういうこと?」


才色兼備、文武平等、成績優秀のアリスだが、弟アインと怠惰のベルフェゴールがお友達な状況も把握できなければ、ゲームの線を抜いてゲームを消したら、弟アインは不幸な運命になってしまうというのだった。


つづく。

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