第8話 兄の不幸な運命!?
秋葉原アリスは16才の高校生。彼女は運命の女神ディスティニーちゃんと出会い、命を助けてもらう代わりに運命の騎士ディスティニーナイトとなることになった。アリスは今日も不幸な運命と戦うのであった。
第3話。
アリスは運命の騎士ディスティニーナイトとして、兄の不幸な運命を見ている。どうして優しかったお兄ちゃんが引きこもりのダメ人間になったのかを知ることになる。
「おはようございます!」
アリスの兄アーサーは新入社員として、大手のKK出版社に就職した。アーサーは新入社員ということもあって緊張と期待を心に持っていた。妹のアリスと弟のアインのためにもしっかりと仕事をして、ガッチリお金を稼いでお土産のドーナツを買って帰ると心に決めていた。
「・・・。」
しかし新入社員の挨拶に返事をしてくれる先輩社員は1人もいなかった。アーサーは自分が新入社員で仕事もできないから挨拶が無いのは仕方がないと自分の都合よく考えていた。
「よし! がんばるぞ!」
新入社員の独特の夢と希望は、社会で働く社会人先輩の夢も希望も無いお金のために勤務時間中だけ会社にいる人間とは心に温度差があった。この時点で社会人経験の無い兄アーサーに気づく術はなかった。
大手KK出版社。
朝の挨拶が無い時点で大手KK出版社がブラック企業であるということに。先輩社員は安月給で長時間の労働を強いられ、人間らしい生活など送っていなかった。アーサーは不幸な運命の人間しかいない中に乗り込んでいたのだった。
今日の勤務終了。
「お疲れさまでした。」
兄アーサーは1日の仕事を終えて、KK出版社のビルから出てきた。そして妹アリス弟アインとの約束を守るべく、ドーナツを買うために会社の目の前のドーナツ屋さんに向かうのだった。
「いらっしゃいませ。」
「ドーナツを下さい。」
「どの種類のドーナツにしますか。」
「え!? ドーナツに種類があるんですか!?」
「え!? はい!? ありますよ!?」
「ハッハハハ。男なのでドーナツなんて買ったことが無くて。」
「あ、そうなんですね。」
「初出社の記念に妹と弟にドーナツを買ってきてやると約束したので。」
「新入社員さんなんですね。うらやましい。」
「え?」
「私なんかただのバイトですよ。正社員で就職できなかったんです。」
「ああ・・・すいません。」
「え? えっと、そんな気にしないでください。すいません、お客さんにつまらない話を。」
「いえ。」
「そうだ! 妹さんと弟さんのお土産のドーナツは、普通のドーナツでいいと思いますよ。こういうのは気持ちが大切ですから!」
「そ、そうですね。」
「きっと妹さんと弟さんも喜んでくれますよ。」
「ありがとうございます。」
笑顔で見つめ合う兄とドーナツ屋のお姉さん。
自宅に帰ってきた兄。
「わ~い! ドーナツ!」
「ドーナツ! ドーナツ!」
「おい、おまえら仕事から帰ってきたお兄ちゃんを忘れてないか?」
妹のアリスと弟のアインはお土産のドーナツを受け取ると準備していたのであろうお皿の上にドーナツを置き、ジュースと一緒にドーナツを食べ始める。兄のアーサーは玄関に置いてきぼりだった。
「はあ・・・。」
兄のアーサーが靴を脱ぎアリスとアインのいる食卓にやって来ると、ちゃんと兄のアーサーの分までドーナツをお皿に乗せ、ドリンクの準備もしていた。これには兄のアーサーも妹と弟を見直した。
「ごちそうさま。」
「ごちそうさま。」
「おまえら、もう食べたのか!?」
「うん、おいしかった! お兄ちゃん、ありがとう。」
「おいしかった! お兄ちゃん、ありがとう。」
「お、おう。」
「お兄ちゃん、明日もよろしく。アニメの時間なのでさらばだ!」
「お兄ちゃん、明日もよろしく。さらばだ!」
「・・・。」
アリスとアインはアニメを見るためにテレビのある部屋に去って行った。アインはまだ小さいのでアリスの言うことを真似して言っているだけだった。ちゃっかりとドーナツは食べていき、ジュースも飲み干し、お皿とコップは出しっ放し。
「・・・クス。明日もドーナツを買いに行こうかな。」
兄のアーサーは仕事で疲れているが、妹のアリスと弟のアインの分のお皿とコップも自分の分と合わせて一緒にシンクでスポンジを使って洗う。妹と弟がおいしそうにドーナツを食べてくれたのが照れ臭いほどにうれしかったのだ。
「これからもアリスとアインのために、がんばるぞ!」
それから兄は毎日のようにドーナツを買ってきてくれた。兄のアーサーから妹のアリスと弟のアインを大切にしているのが伝わってくる。兄に何が起こっているのかなど子供の頃のアリスには考えようがなかった。
「ドーナツ屋のお姉さんに会えるかな。」
確かに子供の頃のアリスには兄はカッコよく歴史のアーサー王のような英雄にみえた。まさか兄がドーナツ屋のお姉さんに会うのを目当てに、自分と弟のアインを話題に使っていたとは知る由もなかった。
日が変わり翌日の仕事終わり。
「いらっしゃいませ。」
「こんばんわ。」
兄アーサーは会社の前のドーナツ屋にやってきた。昨日と同じドーナツ屋の店員のお姉さんが店番をしていた。ドーナツ屋のお姉さんは兄アーサーの顔を見て、昨日のことを思い出した。
「あ!? 昨日の人!?」
「どうも。」
「どうでしたか? 妹さんと弟さんは?」
「はい。おいしいと喜んでくれました。」
「良かったです。」
「あの、俺は秋葉原アーサーと言います。」
「はい?」
「君のおかげで妹と弟を喜ばすことが出来ました。ありがとうございました。」
「いえいえ、バイトとして当然のことをしただけですよ。クスクス。」
「アハハハハ!」
「私の名前は、堂奈津子です。」
「奈津子さん。」
こうして兄アーサーだけでなく、妹や弟を想う優しく気さくな兄アーサーの性格に、ドーナツ屋のお姉さんも兄アーサーに対して好意を持つようになった。若い男女の恋物語としていい展開だった。
「なによ!? あの女!?」
大手KK出版社の正社員の兄アーサーとドーナツ屋のアルバイトのお姉さん。お似合いのカップルだったが、それを良く思わないドーナツ屋の正社員の女の店長がいたことを2人は知らなかった。
兄アーサーの日々の仕事。
「あの俺は何をすればいいんですか?」
「コピー。」
「お茶くみ。」
「肩もみ。」
「それ仕事じゃないですよね。」
「なに!? 新入社員のクセに歯向かう気か!? 会社は上司、年上、先輩が絶対なんだよ! 分かったか!」
「・・・はい。」
大手KK出版社は新入社員のお世話をする教育係という先輩がいなかった。特に忙しい訳でもないのだが、新入社員の面倒をみない先輩。偉そうにだけしている上司しかいなかった。パワハラが溢れるブラック企業だった。
「あの仕事を教えてほしいんですが?」
「仕事? うちは大手だから会社の金で偉そうに中小企業に仕事を押し付けて偉そうにしてればいいんだよ!」
「え!?」
「キャバクラに行くことだけ考えていればいいんだよ!」
「え!?」
兄アーサーの会社は大手だったので、公務員や他の大手企業と同様、中小企業に仕事を丸投げして、成功は自分たちの手柄、失敗は中小企業に押し付けて、倒産しても関心はなかった。
「これが仕事なのかな?」
日本の景気は一向に良くならなかった。それもそのはず大金を動かせる公務員や大手企業が責任を取りたくないから中小企業に仕事を任せる。仕事をしない公務員と大企業の性で、日本は不景気のままだった。
ある日のドーナツ屋のお姉さん。
「堂さん。」
「はい。なんですか? 店長。」
「人手が足りてるから、シフトを減らしてもらうわよ。」
「ええ!?」
「嫌なら、やめてもらってもいいのよ。」
「そんな・・・。」
世の中というのは理不尽なもので、正社員で、しかも店長。変な人間であろうが、自己中心的な人間であろうが、嫌な性格の人間であろうが、アルバイトにはいくらでも偉そうにできるのだった。
「どうしよう。」
ドーナツ屋のお姉さんの堂奈津子は困って悩んでしまう。この職場でも嫉妬や憎悪、傲慢など人間の醜い感情が暴れていた。ドーナツ屋のお姉さんも自分の周りの不幸な運命の人間の八つ当たりに侵されてしまいそうになる。
そして、仕事終わりの兄アーサー。
「いらっしゃいませ。」
「こんばんわ。」
兄アーサーはいつものように会社の目の前にあるドーナツ屋に行く。ドーナツ屋のお姉さんの堂奈津子が接客をするのだが、様子がおかしい。なんだか落ち込んでいる様だった。
「どうしたんですか?」
「え?」
「元気が無いから。何かあったんですか?」
「実は・・・。」
「ゴホン。堂さん、仕事中におしゃべりはやめてね。」
「すいません、店長。」
「・・・。」
結局、兄アーサーは堂奈津子が何に悩んでいるのか聞くことができなかった。気持ちは言葉に置き換えると伝わる。相手から教えてもらえなければ、どうすることもできない。
「ドーナツを3つ。」
「はい、ありがとうございました。」
それ以上、2人は会話を交わせなかった。ドーナツ屋の店長が睨んでいたからだ。兄アーサーも堂奈津子も仕事で悩みを抱えていたが、お互いの悩みを打ち明け合うこともできなかった。
ドーナツ屋が閉店する。
「お疲れ様でした。」
堂奈津子がドーナツ屋を店じまいして出てくる。勤務時間中は店長に監視されているように感じて気が気でなかった。精神的に疲れ切っていた堂奈津子はバイトが楽しくなくなっていた。
「ああ~バイト、辞めようかな。」
「こんばんわ。」
「うわあ!? きゃあ!? 変態!? ストーカー!?」
「お、俺です!? 秋葉原アーサーです!?」
「え?」
「妹と弟にドーナツを買いに行ったものです!?」
「おお!」
バイト帰りの堂奈津子の前に現れたのは、堂奈津子が落ち込んでいたのが気になったので、バイトが終わる時間まで待っていた兄のアーサーだった。堂奈津子は自分を心配してくれて待っていてくれたことに感動する。
「落ち込んでるみたいだから気になって。」
「それで待っていてくれたんですか。」
「奈津子さんのことが心配だから。」
「アーサーさん!」
堂奈津子は兄アーサーに駆け寄り飛びついて抱きつく。そして、そのまま2人は夜の街に消えていった。翌朝、アリスとアインは朝帰りの兄アーサーをタコ殴りにするのであった。お土産のドーナツぐらいでは許さなかった。
そして兄に事件が起こる日がやって来た。
「な、何やってるんですか!?」
「見たな!?」
兄アーサーは大手KK出版社で行われている不正の現場を見てしまった。不正の内容はこうだ。小説投稿サイトで小説コンテストを開くのだが、大賞、書籍化、ランキング上位、☆の評価、アクセス数など、全て大手KK出版社の編集部で自作自演だった。コンテストとは名ばかりで結果は決まっている出来レースだった。
「これが出版社の仕事だ!」
「こんなの不正じゃないですか!?」
一般人には想像できないが、1番酷いのは大賞者は、なんと編集長だった。大賞の受賞者の名前を変えているだけで全て編集長の作品が大賞を受賞していた。大賞1作品に100万円の賞金が出るので、編集長には10作受賞で、1000万円のボーナスになるのだった。
「こんなの出来レースじゃないですか!? 夢や希望を持って、小説を書いた人たちのことを騙しているんですよ!? こんなのおかしい!? 絶対にやっちゃダメだ!?」
「なんだと!? 新入社員のクセに編集長の俺様に文句を言う気か! 俺様の自由だ! 俺様が編集長だ! おまえなんかクビだ! 会社から出ていけ!」
「そ、そんな・・・。」
兄アーサーは正義感、真面目過ぎたために、腐りきった社会では不適合者だった。憤怒と傲慢の感情の強い編集長の怒りをかってしまい、兄アーサーは会社をクビになり、無職となってしまった。
会社を出てきたアーサー。
「なんなんだ・・・この世界は・・・。」
兄アーサーは会社をクビになったショックで心身ともにフラフラだった。助けを求めるように兄アーサーの足は会社の目の前ドーナツ屋に向かって行く。しかしまだ昼間だったのでバイトの堂奈津子は居ず、店長が店番をしていた。
「いらっしゃい。」
「あの堂奈津子さんは何時に来ますか?」
「あの子なら辞めましたよ。」
「え!?」
「大手KK出版社の社員に7股をかけていて、その内の1人と結婚することが決まったから、こんなドーナツ屋なんて、さっさと辞めていきましたよ。」
「そ、そんな・・・。」
兄アーサーにはとどめの1撃だった。会社をクビになりショックだったの、さらに自分に優しく接してくれて、信頼できる人間だと思っていた堂奈津子が7股で結婚が決まりドーナツ屋を辞めたというのだ。兄アーサーは落ち込んで下を向いてトボトボとドーナツ屋を後にした。
「クックク。誰も幸せにするもんですか!」
全ては女店長のウソだった。バイトの堂奈津子が大手KK出版社の社員と仲良く幸せにしているのが気に入らなかったのだ。女店長の傲慢、憤怒、嫉妬の感情が兄アーサーと堂奈津子の恋を、愛を引き裂いていく。
後に堂奈津子がドーナツ屋にバイトにやって来た。
「今日もアーサーさん来てくれるかしら~♪」
堂奈津子は何も知らない。店長が兄アーサーに嘘を吹き込んだことを。そうとは知らない堂奈津子は笑顔でアーサーがドーナツを買いにやって来るのを楽しみに待っているのだった。しかし、あれからアーサーがドーナツを買いに来ることは1度もなかった。
アーサーは自宅に帰ってきた。
「なんなんだ!? この世界は!? なんなんだ!? 人間って!? うわあああああ!?」
兄アーサーは気が狂い大声で叫びながら自室で布団を頭からかぶった。人間の醜い歪んだ姿をみた兄アーサー。兄アーサーの人生は3兄弟で仲良く暮らしてきた幸福な運命から、不幸な運命に変わった瞬間だった。
つづく。
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