第7話 ミス・ドーナツ!?
秋葉原アリスは16才の高校生。彼女は運命の女神ディスティニーちゃんと出会い、命を助けてもらう代わりに運命の騎士ディスティニーナイトとなることになった。アリスは今日も不幸な運命と戦うのであった。
第2話
「いらっしゃいませ。」
高校生になったアリスは秋葉原の「ミス・ドーナツ」でお小遣い稼ぎのアルバイトを始めた。ドーナツ店の制服が自然とアキバらしいコスプレに見えるのもアリスが若くカワイイからである。ドーナツ屋の看板娘である。
「アリスちゃん、今日もよろしくね。」
「はい、店長。」
アリスは店長の期待の星だった。アリスの勤務は学校が休みの土日の午前中だけだった。しかし、本物の現役女子高生で可愛いコスプレ付きのアリスの人気は、偽物のメイドカフェのメイドの人気を凌駕していた。颯爽と秋葉原で1番人気のコスプレイヤーの座を獲得した。
「おはようございます!」
「おはようございます!」
「おはようございます!」
「お、おはよう。あははは・・・。」
アリスの出社時間は午前5時前。アリス本人がドーナツ屋で働きたいという希望と安全をきすために早朝のシフトで働いる。ドーナツ屋の前には早朝の5時にも関わらず、アリス親衛隊が約300人はキレイに整列して、出勤してきたアリスに朝の挨拶をする。親衛隊の隊長や幹部がアリスに触ったり恐怖を与える者が出ないように事前にアリスのファンにアナウンスをして統制をとっている。ちなみに隠しカメラや盗聴器の危険性があるのでアリスに差し入れやプレゼントは禁止となった。もちろん近所迷惑な行為もしない良質なアリスファンである。
「よし! ドーナツを作るぞ!」
ドーナツ屋の朝は早い。店の開店は午前7時だがドーナツを作らなければいけないのだ。新人のアリスだが店長のアリス人気の売り上げを見込んで、異例だが新人のアリスにドーナツの生産を許している。アリスが作れるドーナツは生地を油で揚げただけのオーソドックスなドーナツであった。チョコレートなどをドーナツに付けている時間的な余裕はなかった。アリスはアリスで、テントを張っての徹夜組や早朝から列に並んでいるファンのために最低でも1000個はドーナツを作らなければいけないのだった。まさに修羅場、まさにスポーツであった。
「アリスちゃんを休ませろ!」
「おお!」
午前6時30分。ドーナツを作り終えたアリスには開店前に休憩が与えられる。ドーナツを作るのは立ち仕事でかなりの肉体労働であった。アリスには開店後の大事な仕事があるので無理はさせられないのだ。アリスの出勤時はアリスのドーナツしか店頭には並ばない。そしてお持ち帰り用のアリスのドーナツの箱詰め袋詰めは、店長を始め社員とアルバイトが総出で行う。決してアリスに雑用はさせられないのだった。アルバイトも男性は採用不可。気が付けば男性で働いているのは店長だけだった。女性で働きたい理由も、女だがアリスと一緒に働きたい。アリス人気に便乗したて人気者になりたい。といったものが多かった。
「開店しました! いらっしゃいませ!」
午前7時。ドーナツ屋が開店して、アリスの戦いが始まる。
「暖かいコーヒーとカフェオレがありますが、どちらにしますか?」
アリスの仕事は只管にドリンクを注ぐというものだった。なぜドリンクサービス係になったのかは理由があった。
まずレジ係。
「キャア!?」
アリスがレジに入るとお金のやり取りをする時に、お客様がお釣りを渡すアリスの手を離さないという事件が起きた。万世橋警察署から警察が来る騒ぎとなったことがある。もちろん警察署長もアリスのファンである。今年の1日警察署長はアイドルを押しのけアリスで内定している。
次に勤務中のドーナツの製造。
「キャア!?」
ドーナツ屋の2階にはアリスがドーナツを作る姿がガラス窓越しに見ることができる。その結果、ガラスのへばりつくお客様が殺到。驚いたアリスが油で火傷し、ボヤ騒ぎを起こし救急車と消防車が駆け付ける騒ぎがあった。神田消防署から消防車が、三井記念病院から救急車がわずか1分で駆け付け、アリスは無事だった。もちろん消防署長も病院院長もアリスのファンである。今年の1日消防署長と1日病院院長はアリスに決まっている。
以上の結果から話し合いの場が持たれた。
「どうする!? どうする!?」
参加メンバーはドーナツ屋の店長、アリス親衛隊の隊長、千代田区長、区議、署長、院長、政界、財界、そして谷村シンイチなどのアリス命のアリス・ファンで、アリスにどんな仕事が良いのかが話し合われた。
その結果、アリスはドリンクサービス係になった。
「熱いので火傷しないでくださいね。」
ドリンクサービス係。ドーナツは無条件に製造数は売れるので、店長としてはアリスにドリンクを販売させ、利益の上積みを図っていた。ちょうどファンからすると目の前でアリスが注いでくれたドリンクを飲むことができる幸せな気分を味合うことができる距離間だった。
「絶対にアリスちゃんは守ってみせる!」
ちなみにお金のやり取りとドリンクの受け渡しはボディーガードの意味を込めて店長が行う。アリスがいる間に1日の売り上げは通常の10倍以上ある。店長にとってアリスは金のなる木なのだった。アリスにやめられては困るのだ。
午前9時。
「お疲れ様でした。」
アリスは午前9時で仕事を終える。午前5時から午前9時の4時間だけしか働かない。アリスはドーナツを作りたいだけなのでOK! ちなみにアリスはアルバイトだが異例の4時間で日給制の1万円である。
こんな素敵なアリスだが、悩み事があった。
「ただいま。」
シーンとした自宅は帰宅の挨拶をしても誰の返事も帰ってこない。アリスも慣れっこである。返事がないことを悲しいと思う年頃は過ぎ、アリスは返事がないことが普通になってしまった。
「ですよね・・・。」
ここでアリスの家族構成を説明しよう。アリスの父は外交官で母と一緒に中東の日本大使館に勤めていたが、中東の戦争に巻き込まれ亡くなってしまった。今のアリス家の生活は日本国からの遺族年金とアリスのアルバイトで暮らしている。
「はあ・・・。」
しかし、アリスを悩ませているのは両親がいないことではなかった。アリスを悩ませているのは兄と弟である。そう、アリスは3兄弟の真ん中であった。アリスはまず兄の部屋にお土産のドーナツを持っていく。
「お兄ちゃん、ドーナツよ。」
「ワンワン!」
アリスの兄、アーサー。引きこもり歴10年以上の30才オーバー。もちろん無職、甲斐性なしの貧乏人である。1日中、家の中でボーっとしている。今やご飯をくれるアリスを飼い主のように崇める犬にもなれるようになってしまった。
「はあ・・・。昔はカッコ良かったのに・・・。」
次に弟の部屋にドーナツを持っていく。
「弟、ドーナツよ。」
「置いといて。」
「は~い。」
アリスの弟、アインシュタイン。アリスと3才離れた中学1年生である。引きこもりの兄と才色兼備・文武両道の姉を見てきたせいか、ゴタゴタするのが嫌で只管ゲームばかりやって現実逃避に明け暮れている。きれいで人気者の姉も迷惑にしか思っていなかった。
「はあ・・・弟なのに、可愛げがない。」
最後にアリスは自分の部屋にドーナツを持っていく。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
「それは何ですか?」
「ドーナツよ。」
「おいしそうですね。」
「食べる?」
「いいんですか?」
「どうぞ。」
「やった!」
運命の女神ディスティニーちゃん。女神らしいのだが、どう見ても天使みたいな頭の上の輪っかと背中の羽がある。本人曰く、自分は天使ではなく女神だという。いつの間にかアリスの部屋に住み着いてしまった。独特な性格でマイペース。たまにウソを吐くので困っている。
「黙ってドーナツを食べていれば可愛いのにね。」
「何か言いましたか?」
「うんうん、何も言ってないわよ。アハハ。」
アリスは兄と弟と女神に困り果てていた。秋葉原でのヒロインとして輝いているイメージからは想像できない正反対のため息ばかりが出てくるのだった。そんな時、ドーナツをおいしそうに食べている運命の女神が言いました。
「はあ・・・。」
「何か悩み事ですか?」
「えっと、兄と弟が世の中が大っ嫌いで、不愛想で、可愛げが無くて困っているの。ああ~、普通の兄弟が欲しかった。」
「運命を変えればいいんじゃないですか?」
「え!?」
「アリスは運命の騎士ディスティニーナイトなんですから、怠惰の怠け者の堕落しきったお兄さんの不幸な運命と、むむむ!? 弟さんは新感覚の無ですね。」
「無?」
「最近の若者は、夢も希望も無いので無神経、無関心、無表情なのがトレンドなんです。可哀そうな生きる屍ですね。生きているか死んでいるのかも分かりませんん。」
「無・・・そういえばそうね。ディスティニーちゃんって、すごかったのね!?」
「エヘへ。」
兄と弟の不幸な運命を言い当てた運命の女神のディスティニーちゃんを改めて見直したアリスだった。兄と弟の不幸な運命を壊して、幸福な運命にすることはいいアイデアなのだが、アリスには1つ気がかりな注意点があった。
「でも、私的なことに運命の騎士の力を使っていいの?」
「アリスにはお世話になっています。感謝の気持ちを込めて、今回は見なかったことにしておきますよ。(ウソ。)」
「ありがとう。ディスティニーちゃん。」
「エヘ。」
本当は不幸な運命を打ち砕いて、幸運な運命を集めて、早く天上界に帰りたいだけであった。アリスは運命の女神の居かも得たと思い込み、まず兄を真人間にするために運命の騎士に変身する。
「アリス・ディスティニーナイト!」
アリスは運命の光に包まれて、運命の騎士ディスティニーナイトに変身する。中世ヨーロッパの騎士のような姿で手にはディスティニーソードとディスティニーシールドを持っている。
「よし、お兄ちゃんの所へ行くわよ。」
「は~い。」
アリスとディスティニーちゃんは兄の部屋に行く。兄は何をする訳でもなく、ボケーっと窓から遠くを眺めていた。ちなみにディスティニーナイトに変身したアリスの姿は普通の人間には見えない。
「堕落してますね。」
「はあ・・・我が兄ながら情けない。」
「あれがお兄さんの不幸な運命です。」
「あれが不幸な運命!?」
アリスは情けない廃人と化した兄の姿にため息が出る。兄の心に黒い不幸な運命が見える。まさに伊集院イザベラの時と一緒であった。それにしても兄はどうして、怠惰な人生を送るようになったのだろうか?
「少しお兄さんの不幸な運命を見てみましょう。」
「そんなことができるの!?」
「運命の女神ですから。エヘン。」
「見る。見る。見たい。どうしてお兄ちゃんがダメ人間になったのか!」
「それではお兄さんの不幸な運命をプレイバック。」
ディスティニーちゃんが運命の女神の力を使用して、アリスの兄が堕落していく姿を過去に遡って見ていくことになった。アリスは初めて他人の不幸な運命を覗き見るので緊張していた。
兄の10年前の過去の世界。
「おはよう、アリス。アイン。」
「アーサーお兄ちゃん、おはよう。」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんおはよう。」
アリスの3兄弟は朝の挨拶をする家族だった。といっても推定年齢が、兄が23才、アリスが6才、弟が3才だった。兄のアーサーはスーツを着ている。この頃は、まだ父も母も両親は健在だったが、仕事で外国にいた。
「お兄ちゃんが仕事をして、いっぱいドーナツを買ってやるぞ!」
「わ~い! ドーナツ! ドーナツ!」
「ドーナツ! ドーナツ!」
「じゃあ、仕事に行ってくるな。」
「お兄ちゃん! がんばって!」
「ドーナツ! 忘れないでね!」
「おお!」
ドーナツ1つで3兄弟は笑顔で絵をつなぎ飛び跳ねて回れるような素敵な兄弟だった。両親は外交官で海外にいることが多く、兄のアーサーがアリスと弟の世話をよく見ていた。実に優しいお兄ちゃんだった。
「アリス、泣いているの?」
「な、なんでだろう・・・涙が勝手に流れてくるの・・・。」
「人間って不思議ですね。」
アリスは兄の3兄弟が幸せだった頃の思い出を見て、懐かしかったのか、あの頃は良かったと思い出したのか、今の3兄弟のギクシャクした人間関係が嫌なのか、複雑な思いが込み上げて、自然と瞳から涙がこぼれて止まらなかった。
(こんなに、こんなに優しかったお兄ちゃんにいったい何があったの!?)
子供の頃のアリスは不思議で仕方がなかった。優しくてドーナツをお土産に買ってきてくれたカッコよく大好きなお兄ちゃんが、引きこもりのダメ人間になってしまったのか、アリスは、いよいよ兄に起こった不幸な運命を知ることになる。
つづく。
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