私は病気。だって先生がそう仰るから。
「…先生、シュミット先生」
「ん…」
「先生、いい加減起きてください」
「…おー、よく寝た」
「よく寝たじゃないですよ、時間です時間」
「ああ、もうオペの時間か」
「あと一時間ほどで」
「なんだよ!もっと寝かせてくれても」
「寝起きで手術なんてやめてください!」
「は、はい」
「頼みますよ!」
「まったくアンナくんは厳しいな」
「先生が適当すぎるんです!」
「ええっ、す、すいません」
「早く準備してください」
「うーん、といっても今回の患者は…」
「どんな具合なんですか?」
「ありがちな病気で、厄介だが、オペ自体は超簡単だ」
「…なんですかそれは?」
* * *
「それは?」
「今日の患者が書いた…日記みたいなものさ」
「はあ」
「読む?」
「いいんですか?」
「読んでみればわかるよ、この患者の病が」
「では拝見します…」
「…」
「…は?『今宵、我が封印されし闇の能力"ダークネスシュライバー"が覚醒する』…?」
「うおおおお!やめて!読み上げるのは酷すぎる!やめてあげて!!」
「い、意味が分かりませんが」
「だからー、そういう病なんだよ。聞いたことない?中二病ってやつ」
「ああ、これが例の…思い出しました。ということは、これはかなり典型的な症状なのではないですか」
「ああ。もー典型も典型、絵に描いたような中二病だよ。まったく面白いよねほんと。どーしてこんなことになっちゃうかな」
「この病に至る原因は何なのでしょうか」
「まあ、真面目な話をしておくと通過儀礼みたいなもんだと思うよ。"大人の価値観"を得るまでの、ね。いや…ある意味…"価値観"という概念を獲得するための試行錯誤の一種と言ったほうが正確なのかな」
「はあ」
「わかってないでしょ?要するに、自分の好むものを万人が好むとは限らない、ということに気づけないから、こんな病気になる、ということさ」
「ああ、わかりました」
「キミも罹っていたんじゃないかな、一時期は」
「どうなんでしょう…あまり記憶にありません」
「そうかい」
「ところで先生、どのような手術で治療なさるのですか」
「さっきも言ったが、超簡単だ。ただし…厄介だ」
* * *
「じゃ、お大事にー」
「シュミット先生、お疲れ様でした」
「おー、お疲れさん」
「…脳の一部を切除されていたようですが、あれは?」
「あれはね、『好きになる』という感情を持つ部分だよ。あの部分がないと、今後は何かを『好き』になれなくなる」
「なるほど、それならもう妙なものを好きになって他人に迷惑をかけることもないですね」
「そういうこと。今回の手術は超簡単。ところがまた今度が厄介」
「今度ですか?またあの患者がやってくると?」
「そうなんだよ。今度は何もかもが『嫌いだ』と言ってくる。…高二病だね」
「で、その後は大二病ですか?」
「さらにそのあと社二病!」
「中年二年目で中二病というのは?」
「うーん、もう脳みそ全部引っこ抜いちゃおうかな」
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