幻の理想の息子

池本クリニック。

診察が終わった杉三と蘭が、会計を待っている。と、そこへ若い夫婦がやってくる。

男性「今日予約しました、深澤というものなんですが、、、。」

受付「はい、深澤さよさんですね。おかけになってお待ちください。」

女性「あの、できれば別室のほうで待たせてもらえませんか?たしかここのホームページでは、待つのが困難な人に、別室をご用意しておりますと、書かれていたのですが。」

受付「ああ、それはですね、例えば誰かを傷つける恐れがある人が使用するところです。」

女性「誰でも使えるわけではありませんの?」

受付「はい。別室は精神科の患者さんだけしか使えません。」

女性「だって私、精神科を予約したんですけどね。それに、おかけになってと言っときながら、ほとんどの席は埋まっているじゃありませんか。」

受付「そういうこともありますよ。」

女性「なんですか。この病院は。やっぱり精神科って大したところじゃないわ。それで私の苦しみがとれるわけでもなさそうだし。帰りましょう、正雄さん。」

正雄と呼ばれたその男性の顔は、ひどく悩んでいることをうかがわせた。

杉三「カフェテリアは?」

蘭「杉ちゃん!」

と、注意をするが、もう遅し、杉三は二人のすぐそばにいた。

女性「だれよ、この人は。」

杉三「受付さん、ほかの患者さんと一緒にいるのはいやみたいだから、カフェテリアで待ってもらったらどうでしょう。」

受付「杉様、診察が始まって、呼ぶときにどうするんです?」

杉三「あれ、別室に行ってる患者さんには、ポケットベルを渡しているんじゃなかったの?それとおんなじことすればいいと思うんだけど。」

女性「まあ、いいこというじゃない。」

正雄「さよ、わがままを言いすぎじゃないのか?体の不自由な人に、こうして言われてしまうなんて。」

杉三「いえ、僕はただの馬鹿ですから。ああ、名前を名乗りますと、影山杉三です。」

女性「まあ、変な名前。」

杉三「馬鹿にふさわしい名前でしょ。とにかく奥さんを、カフェテリアに行かせてあげてくださいよ。身ごもった方が、精神科の待合室に行くの躊躇するのは、なんかわかる気がします。僕は男だから、わからないけど、きっとそういう心境なんじゃないかって、感じたんですよ。」

女性「どうしてわかるの?あたしのこと。」

杉三「いや、なんか、直観ですよ。ばかの一つ覚えです。ほら、受付さん、連れて行ってあげてくださいな。」

受付「では、こちらにいらしてください。」

と、ポケットベルを引き出しから出して、二人をカフェテリアに連れていく。

蘭「杉ちゃん、余計なおせっかいはするもんじゃないよ。」

杉三「だって、そうじゃないか。」

蘭「あのね、、、。そうか、何を言っても通じないのが杉ちゃんなんだよな。」

杉三「あたりまえだよ。困ってる人助けるのが、なんで悪いことになるんだよ。」

蘭「そういう風に行くわけね、杉ちゃんは。やっぱり、僕たちには無理な発想だなあ。絶対にできないよ。そういうこと。」

と、頭をかきながら、待合室に戻る。

数分後

アナウンス「深澤さよさん、第一診察室へどうぞ。」

と、あの若い夫婦が戻ってくる。

医師「はい、どうぞお入りください。」

正雄「ありがとうございます。」

杉三「スムーズに入れてよかったね。」

正雄は軽く会釈して診察室に入る。さよは、何もいわずに、入っていった。

杉三「いったい何を相談に来たのかな、、、。」

蘭「なんだろうね。それは僕らが知らなくてもいいんじゃない。」

杉三「いや、いちどかかわった人だから、最後まで付き合いたい。」

蘭「帰りが遅くなるよ。そうしたら、晩御飯のしたくもあるでしょうが。」

杉三「じゃあ、電話しておいて。」

蘭「ああ、こうなってしまったらもう止められない、、、。」

杉三「静かに!大事な話が聞こえてくるよ!」

と、言われても蘭にはほとんど聞こえなかった。

蘭「杉ちゃん、もしかして、幻聴が出たの?」

と、言いかけると、

ダダン!

という音。机でもたたいたのだろうか。

杉三「深刻な討論会だ。それに殺人も、、、。」

蘭「殺人?」

杉三「そうだよ。あの二人はこれから生まれてくる命を、いま絶とうとしているんだよ。」

蘭「つまり、、、。堕胎?」

杉三「最高のわがままさ!」

蘭「じゃあ、なんで精神科に相談に来たんだろうね。」

杉三「あのお母さんなのかもしれないね。」

蘭「そうか、、、。今、なんでもかんでもできちゃう時代だからな。」

杉三「挙句の果てに、日本は、これから子供を産まない人のほうが増えて、破滅してしまうのではないかな。」

蘭「そうか、、、。まあ、仕方ないのかな、、、。」

杉三「だめ、それでかたずけちゃ!仕方ないなんて一番汚いよ。」

と、中から、女性の泣き声が聞こえてきた。それを一生懸命止めようとする男性の声も聞こえてきた。

ほかの患者たちもざわざわとしはじめ、池本院長が、病棟からやってきた。きっと、中の医師が説得を手伝ってくれと申し付けたのだろう。

院長「深澤さん、入りますよ。いいですね。」

と、ドアを開けた。すると、

声「どうして私たちだけが、当たり前の子供を産めないの?みんな幸せそうな人生を歩んでいるのに、私もつらい目にあうだろうし、この子だってどうせ、いじめられるとかして長く生きてはいけないはずよ!それなら、生んであげないほうが愛情になると違いますか!」

杉三「さよさん!」

と、診察室に移動してしまう。

杉三「当たり前の子供じゃなくて、こんなに馬鹿でも、生きていて楽しいよ!」

院長「そうですよ。深澤さん。当たり前の子供でなかったとしても、それ以上に幸せになれることもあります。安易に堕胎するなんて、命を軽く見てはいけません。」

さよ「本当にどうして、私だけが、こんなに苦しまなければならないのかしら!」

院長「みんな問題はあるんですよ。」

さよ「きれいごとをおっしゃって!それってある意味逃げじゃないですか。学校とかではそういわれてきたけど、いくらやっても解決には至りませんでしたわ!本当にその手には、ひどい怒りを覚えます。そんなことより、私だけが、なぜ当たり前の幸せが持てないのか、その理由を教えてください!」

医師「教えてくれって言われたって、こちらは人生相談ではないです。新興宗教にでもいったらどうです?」

さよ「みんなそういうのね、結局!どうして私の苦しみをわかってくれないのでしょう!」

杉三「待ってください。いったい何があったんですか?」

さよ「もういいわ。私は、ここに生まれたのが間違いだったのよ。だから、」

杉三「でも、僕に聞かせてくれませんか?」

さよ「あんただって、どうせ、この人たちと同じこと言うでしょ。そして記録するでしょ。」

杉三「はい、僕はただの馬鹿ですから、おんなじことは言えませんよ。それに、あきめくらですから、記録することもできません。僕は、テレビだってみることはできないんです。」

さよ「テレビが見れない?ありえないわ。」

院長「いや、この場では、彼に話したほうがいいかもしれません。はなしてみてください。」

さよ「じゃあ、要点を言えば、、、。先日羊水検査を受けたの。そうしたら、赤ちゃんには必ず、何かしら障害が生じるといわれたの。それではかわいそうでしょう?不幸になるに決まってるわ。だから堕胎しようと思ったん

だけど、この人も、先生がたも、だめだというのよね。しまいには、この人が、ここで相談しようと言い出して、、、。」

杉三「そうだったんですね。それはお辛かったでしょうね。でも、僕はこの生活だけど、不幸だと思ったことは一回もありません。だって、僕の周りにいる人たちは、みんないい人ばかりだからです。」

院長「もし、いやでなければの話なんですが。」

正雄「なんでしょう?」

院長「もしよかったら、彼と生活してみたらいかがですか?彼と接するのは、普通の子供以上に難しいと思われますが、必ず何か得るものはあると

思います。」

正雄「この方と、ですか?」

院長「ええ。まあ、妊娠中ということもありますから、あまり長居は困るかもしれませんが、二、三日でも彼と暮らしてみれば、なんとなくですがシュミレーションができると思いますよ。」

正雄「ありがとうございます!さよ、その通りにしろ少し頭を冷やしてから戻ってこい。」

さよ「なんで私が、、、。」

院長「いや、勉強になると思います。」

さよ「じゃあ、三日だけにして。」

院長「わかりました。それでは今日から、杉ちゃんの家にかえってもらいます。」

さよ「じゃあ、辛抱するから。三日後に迎えに来て頂戴ね。」

正雄「わかったよ。」

杉三「三日とはいわず、いくらでもいていいからね。じゃあ、僕らのうちへ帰ろうか。」

正雄「あとで、着替えを送るからな。宅急便で。」

杉三「お待ちしていますので。」

蘭が、そこへやってくる。

蘭「杉ちゃん、お会計が終わったよ。そっちは終わった?」

杉三「うん、さよさんを連れて帰るんだ。タクシー呼んでよ。」

蘭「連れて帰る?」

杉三「池本院長が提案したんだ。」

蘭「そうか、、、。杉ちゃんはなんでもできるな。じゃあ、一緒に帰りましょう。」

と、スマートフォンをダイヤルし、タクシーを呼ぶ。

正雄「頑張っていって来いよ。しっかり勉強しな。頭が冷えて、無事出産にたどり着いてもらえるように。」

さよ「永久にその話はないわ。」

そこへタクシーが到着する。杉三たちは、運転手に手伝ってもらいながら、

タクシーに乗り、病院を後にする。


タクシーの中。

杉三「デパートによって。カレーの材料を買って帰る。」

運転手「はい、わかりました。」

蘭「カレーなんて、刺激が強すぎないかな?ほかの料理にしたら?」

さよ「気にしないでください。袋入りのカレーはよく食べますから。」

蘭「杉ちゃんのカレーは、そういうもんじゃないですよ。」

タクシーはデパートの前で止まる。杉三たちは運転手に介助してもらってタクシーを降り、デパートに入る。障碍者用のエレベーターで地下におりる。


デパートの地下

杉三は、肉や野菜やカレールーなどの食材を値段も何も見ずに、蘭の用意した籠の中に入れてしまう。

さよ「これって、みんな輸入品じゃない。それを使うの?」

蘭「そうなんですよ。カレーを作るときの杉ちゃんは、いつもこうです。」

さよ「いつもこのデパートで買い物してるの?普通のスーパーには行かないの?」

杉三「普通のスーパー何てないよ。」

さよ「は?」

杉三「だって、ここの肉のほうが良いものを売っているから、おもてなしの時にはこっちにきたいの。」

と、なすを何本かかごに入れる。

蘭「杉ちゃん終わった?」

杉三「もういいよ。」

蘭「この紙を店員さんに渡して。そうすると、大きくて丸いものが返ってくるから、それを僕に頂戴。」

さよ「支払いもできないの?」

蘭「そうですよ。計算ができないので、、、。」

杉三はどんどん会計スペースに行ってしまう。そして、五千円札を店員に渡し、500円のお釣りをもらってくる。

杉三「ありがとうね。」

蘭「早くいこう。待ち賃とられちゃうよ。」

杉三「わかった。」

三人、タクシーに戻る。

さよ「いつも、こんな面倒くさいやり方で買い物してるの?」

蘭「そうですよ。」

さよ「大変じゃない?」

蘭「まあ、杉ちゃんですから、仕方ありませんね。」

さよ「この人のせいでずいぶんと損をしているのに?」

杉三「損?」

さよ「だって、いま払ってきた金額、工夫をすれば、三日ぐらいの食品がかえるわ。なんでカレーだけに、こんな大金使うのかしら。」

蘭「そうですけど、杉ちゃんの感性には、従わなくちゃなりません。まあ、カレーを食べてみればわかります。」

運転手「おーい、降りる支度して。もうつくよ。」

蘭「わかりました。おい、杉ちゃん出るよ。」

杉三は返事をしなかった。


夕方。杉三がカレーを作っている。

さよ「いつまで煮込むつもりかしら。本当なら十五分でできるはずじゃ。」

蘭「一時間ぐらいは煮込みますよ。」

さよ「ええー!時間かかりすぎよ。」

蘭「杉ちゃんのこだわりだからしょうがないのです。」

さよ「こだわり?」

美千恵「そうよ。ああいう障害のある子はみんなそうよ。幸いうちの杉三は、人に迷惑をかけるこだわりは持っていないけれど、私が以前相談をされたひとは、男性でありながら、女性の下着に興味をもってしまって結局、下着泥棒をして捕まるしかなかったんですって。」

さよ「どうしてそうなるんです?」

美千恵「さあねえ。私もあの子を育ててるけど、理由なんてわからないわよ。そんなことより、本人のこだわりが見つかったら、すぐにそれをいいほうへもっていくようにしなきゃだめよ。」

さよ「養護学校とかで教えてくれるんですか?」

美千恵「そんなの頼りにならないわよ。親がしっかり見つけてやらなきゃ、さっき話した人みたいになっちゃうわよ。」

蘭「まあ、最近大人のアスペルガー症候群なんて話題になってますが、僕らからみると、それは大人が責任逃れした結果ですよ。幼いころから、一般的なものを好まないなあと思ったら、親がすぐに何とかするべきでしょう。それを、偉い人に押し付けたって、親子関係がめちゃくちゃになって、しまいには、勘当ってこともあるみたいですし。」

さよ「どうしてそういうことを知ってるんですか?子供もったことないのに。」

蘭「いや、僕の仕事場にそういうことのせいでひどく傷ついてくる子がたくさん来ますからね。でもそういう子って、彫りながら日本の美意識を話してやると、とても感動するんですよね。そういうところが、障害といえるのかもしれませんが、それをつぶさない教育をしてほしいなあと、思ったことはいくらでもあります。」

さよ「はあ、、、。私には、わかりませんわ。」

杉三「カレーができましたよ。」

美千恵は、杉三から皿を受けとり、

美千恵「はいどうぞ。」

と、さよの前においてやる。

さよ「い、いただきます、、、。」

おそるおそる口にする。

さよ「な、なによこれ!」

美千恵「お味はいかが?」

さよ「さすがね。あの時大金をはらったんだから、こんなに味がしっかりしているんだわ。悪いけど、私は、こんな高級品を毎日食べることはできませんから。」

と、匙をどしん!と置く。

美千恵「まあまあ、怒らずに食べてくださいよ。杉三から、もう一つプレゼントがあるそうよ。」

さよ「プレゼント?」

蘭「そんなのあるんですか?」

美千恵「杉三が、古い着物をほどいて作ったんですって。」

杉三「僕の古着から縫ったもので、申し訳ないのですが、よかったら使ってください。男の赤ちゃんだったら使うこともあるでしょう。」

さよ「なんですか、、、?」

杉三「ちょっと待ってて。」

と、自室に移動していき、すぐ戻ってくる。

杉三「これですよ。」

と、一枚の布を差し出す。黒に麻の葉を細かくいれた、大島紬の布。

杉三「まあ、女の子であれば必要ないかもしれませんが、おくるみのつもりで作ってみました。ありあわせの材料ですみません。黒大島です。」

蘭「黒大島で作るなんて、いかにも杉ちゃんらしい。しかも麻の葉で、古来から、子供の健全な成長を願う柄を使うとは、ちゃんと心得てるな。」

さよ「こんな高価な布地、私には持てないわ。」

蘭「確かに杉ちゃんだけしかない発想ですが、本当に赤ちゃんを産んでほしいと思ってるんですよ。杉ちゃんは文字の読み書きやお金の勘定は全くできないけれど、僕らが向かない方向へ向くのは、たまに良いことにもなるんです。」

美千恵「まあね、障害のある子どもっていうと、もうその名前を聞いただけで、絶望的な気分になるわよね。確かに、読み書きもできないし、歩けもしないし、計算さえもできないから、どうしても高級とりになるわよ。でもね、何かあると、普通の子の何十倍も感動が得られるから、理想の息子ではないけれど、杉三の母親でよかったと思ってるわ。障害のある子って、非常に不安かもしれないけどね、意外に面白いわよ。」

さよ「でも、世間的にはどうなんでしょうか?夫も仕事がありますし、ほかの家族もあてにできないから、私も働かなければいけません。障害のある子どもがいると言ったら、私は会社にも努められないだろうし、保育園を探したとしても、入れてくれるでしょうか。皆さんはずいぶんと経済的に余裕があるようだから、そうやって悠長なことを言ってられるんですよ。でも、私は、そんなに裕福な家庭でもないし、障害のある子を育てるとなったら、私たちは破産してしまうことでしょう!」

美千恵「いろいろあるとは思いますが、とにかく新しい命を大人のわがままで殺害することはやめてください。確かに経済的なものはあるかもしれないけれど、それは意外に何とかなると思いますよ。誰だって初めからうまく行くはずはありません。そういう時は、他人の力を借りることもできます。変な話かもしれませんが、見ている人は見てくれますから。」

さよ「もう!私たち庶民とは明らかに生活が違うわけですから、こんなところにいても仕方ありませんわ。帰らせていただきます。」

美千恵「もう遅いですし、ここで一晩泊まってはいかがですか?」

さよ「いいえ、もう、主人を呼び出して帰ります!」

杉三「お酒でも飲んでるかもよ。」

さよ「だったら、代行という手もあります。とにかく、、、あれ?」

と、立ち上がろうとするが、その時点で止まる。

美千恵「どうしたんです?」

さよ「いま、ぬるま湯のようなものが、出たような、、、。」

美千恵「あら、破水かしら?」

杉三「いや違うよ、血だ!」

全員テーブルの下を見ると、さよの足元には、鮮血が流れ出ている。

蘭「大変だ!救急車呼びましょうか?」

美千恵「いいえ、私が連れてく。これは大変なことだから、救急車を待っていたら、手遅れになるわ。」

杉三「僕も行く!」

蘭「杉ちゃん、僕らは歩けないんだから!」

美千恵「蘭さん、タクシー捕まえて、ついてきて!あとご主人にも連絡お願いね!」

さよ「私、どうなるのかしら、あ、、、。」

と、突然腹に手をやる。力持ちの美千恵は彼女を背負って、車に乗り込んいく。

杉三「僕らも早く追いかけよう。」

蘭「そうだね。」

と、スマートフォンをダイヤルする、、、。


産婦人科。ストレッチャーに乗ってさよが、手術室に入る。杉三たちが到着すると、すでに開始されていた。

蘭「どうですか?あ、もう、始まっているのか。」

美千恵「胎盤早期剥離ですって。でも発見が早かったから、帝王切開で何とか間に合いそうって。ご主人は?」

蘭「電話かけてみたんですが、つながらないんですよ。」

美千恵「ご主人も協力してなかったのかしらね。すごくひどい妊娠中毒症もあるって言ってたわよ。」

杉三「そんなはずじゃないよ。」

蘭「放置しっぱなしだったんですかね。確かに男にとっては、わかりにくい問題なのかもしれないですけど、一緒に考えてくれるという姿勢ではなかったのかも。」

杉三「そんなことはぜったいないよ。正雄さんは、さよさんのことも赤ちゃんのこともしっかり考えている人だと思う。」

蘭「それだったら、すぐに駆け付けてくれると思うけどな。」

杉三「そうだからこそ困っているのかも。」

蘭「え?」

美千恵「とにかく、私たちは、ここで待つのよ。」

蘭「はい。」

数時間たつ。まだ正雄は来ない。

杉三「正雄さんの勤務先って知ってる?」

蘭「わからないよ。」

杉三「蘭、池本院長に電話してよ。そうすれば、正雄さんの会社も、わかるんじゃないの?」

蘭「でも、個人情報を聞き出すのはまずいだろ。」

杉三「今は非常時なんだからいいんじゃないの?電話かけて!」

蘭「どうせ、わかんないって言われるのがおちだと思うけど、、、。」

と、スマートフォンをダイヤルし。

蘭「あ、もしもし、不謹慎なことを聞いて申し訳ありません。あの、実はですね。お宅の患者さんである深澤さよさんの赤ちゃんが生まれそうなんです、それで、申し訳ないですが、、、。」

杉三「もう、もったいぶらないで貸して!」

とスマートフォンをひったくり、

杉三「あのね、正雄さんの勤務先を教えて。今すぐ!早く!早くしないと、さよさんも、赤ちゃんも死んでしまうかもしれないんだ!」

受付「杉様、メモ書きさえできないあなたが、どうやって知るんです?そんなことでここに電話されても非常に困ります!」

杉三「いいから!お願い!」

美千恵がスマートフォンを取り、

美千恵「杉三のいう通りの状況です。なので、はっきりとおっしゃってください。これは緊急事態で、嘘ではありません。」

受付「わかりました。泉運送業です。電話番号は、、、。」

美千恵「ありがとうございます。」

と、電話を切り、そのまま、

美千恵「泉運送さんですか?わたくし、深澤正雄さんの知人にあたるものです。正雄さんは勤務中ですか?」

声「はい。配達にいったまま、戻ってきておりません。」

美千恵「どちらへ?」

声「興津のほうです。」

美千恵「すぐもどってきていただけますか?奥様の赤ちゃんがもうすぐ生まれそうなのです。」

声「それが、通信機で深澤を呼んでも返事がないのです。お客様から、配達指定時間になっても来ないという苦情を受けて、何度も応答を待っているのですが、返事が来ないのです。」

美千恵「興津のほうで、なにかあったのでしょうか?」

声「わかりません、私どもは、配達に出てはいないので、、、。」

蘭「インターネットで調べてはどうですか?」

美千恵「まったくお宅も、従業員さんの管理にずさんなのね。深澤さんのことで情報が入ったらすぐ教えてください!」

と、電話を切る。

杉三「すごい雨だな!」

と、窓のほうを見る。夜なので外は見れないが、音で大雨が降っていることが分かる。

アナウンス「こちらは、広報富士です。市内に大雨洪水警報が発令されました、、、。」

杉三「もうちょっと、はっきりしゃべってよ、おじさん!」

美千恵「あれはおじさんじゃなくて機械の声なのよ。」

蘭「お母さん、これを見てください。静岡市清水区に大雨特別警報が出てます。興津って、その真っ只中ですよね。たしかあの辺りは、ここと違って大量に雨が降ることで有名なところですから、特別警報が出てもおかしくないでしょう。」

と、スマートフォンの画面を見せる。

美千恵「蘭さん、ニュース番組出せる?」

蘭「はい、このアプリで。」

と、スマートフォンを見せると、ちょうど臨時ニューズが映っている。

アナウンサー「臨時ニュースです。静岡市清水区興津駅で大規模な土砂崩れが発生し、少なくとも10人以上は死亡していると思われます。」

杉三「死んじゃったんだね。」

蘭「まだきまってないよ!」

杉三「いや、だってあんなに赤ちゃんほしがる人が、生まれそうだと連絡をしても来ないのなら、それしか理由がないよ!だって、僕があったときに、正雄さんは、本当にお父さんになりたいんだなってことがよく分かったから!」

蘭「杉ちゃんの勘は本当によく当たるからな、、、。」

美千恵「とにかく祈るしか私たちにはできないわ。今は、神様からの知らせを待ちましょう。」

雨はさらに強くなっていった。しかし、特別警報には至らなかったようで、それ以上のアナウンスはなかった。

どこかで鶏が鳴いた。周りが少しづつ明るくなってきた。あんなに大暴れした雨もどこかへ行ってしまった。

と、手術室のドアが開いた。全身麻酔で眠らされながら、さよが現れた。そして、小さな箱も現れ、杉三たちの前を通り過ぎていった。

美千恵「手術、終わったんですか?」

医師「はい、無事に生まれました。ただ、息子さんには、何かしらの障害が生じることは、避けられないでしょう。命には別条はありませんが、母親とともに暮らせるかは、また別の問題です。」

蘭「別の問題か、、、。」

杉三「何とか、かわいがってあげられるようにできないだろうか。」

蘭「どうかな。あの時のセリフを聞けば、わかるだろ。」

杉三「もう一度ニュース見てくれる?お父さんの状況がわかるだろ。」

蘭「わかった。」

と、画面を杉三に見せる。

杉三「これはひどい!」

道路は海のようになっており、倒木が家に直撃し、屋根がつぶれている。

アナウンス「この災害で、現在10人の遺体が収容されています。身元が分かっているのは、運送業の深澤正雄さんをはじめ、、、。」

杉三「やっぱり、、、。」

蘭「もう、あの子は乳児院行きになるよ。」

美千恵「何のために生まれてきたのかしらね。」

杉三「当たり前だ!愛してもらうために決まっているじゃないか!僕は説得するから!」

看護師がやってきて、

看護師「先生、深澤さんの意識が戻りました。」

杉三「もう、話せますか?どうしても伝えたいことがあるんです。」

看護師「まだ、出産したばかりですし、生んだ子供のことも話し合わなければなりませんから、後にしてください。」

杉三「だから、その子供のことで、です。」

看護師「何を話すのです?」

杉三「彼を愛してあげてほしいと。」

看護師「そんなこと、意味はありませんわ。あの方じゃ。」

杉三「でも行きます。」

医師「仕方ない、連れて行こう。」

二人、回復室に行く。


回復室

一番端のベッドに、さよが寝ている。

医師「帝王切開、無事に終わりました。」

さよ「そうですか、ありがとう。」

医師「では、養子縁組の手続き、しますか?」

さよ「ええ、お願いします。」

杉三「待って!」

さよ「なんですか、こんなところまで乗り込んで。」

杉三「彼を愛してやってください。人身売買じゃないんですから、簡単に手放したりしないでほしい。」

さよ「私には障害のある子は育てられません。すぐに働かないと生活もできないんですから。」

蘭「じゃあ、いわせてもらいます。ご主人、昨日の大雨で、土砂崩れに巻き込まれて亡くなりましたよ。」

杉三「何のために生活しているんですか?」

さよ「決まってるじゃないですか。私は生活しなきゃならないんです。」

杉三「息子さんと一緒というわけにはいきませんか?」

さよ「だから、なんどもいいますが、生活が大変なのに、口が増えて、挙句の果てに、結果だって出せない子供を持っている余裕がないんです!」

蘭「ご主人に対しても、あなたはそう見ますか?じゃあ、なぜ、あなたはご主人の求め、に賛同したんです?おそらくですけど、娼婦より高いでしょうに。」

さよ「ええ、あの人に言われるがままにしたんです。」

蘭「その結果を放棄するのですか。それではご主人もあの世でがっかりしているでしょうね。」

さよ「二人とも、説教はやめてくださいよ!お二人はもっと大事なことに気が付いてないようですね。あなたたちは、私たちが払っている税金で食べているようなものでしょう、この間のカレーだってあなたはもてなしているように見えるかもしれないけれど、その根源は税金から来ているんです。そうして生活している人に、文句を言う権利なんてありません!」

池本院長が入ってくる。おそらく、呼び出されたのだろう。

医師「あ、池本院長。来てくれてありがとうございます。」

と、耳打ちすると、院長はうなづく。

院長「さよさん、だれでも人間は平等ではありません。でも、母親になった人が、その子を捨てるというのは、やってはいけないことです。」

医師「でも、彼女はそうしたほうが、楽に生きられるのではないでしょうか?」

院長「産婦人科のあなたが、情けないことを言ってはいけません。親から愛情をもらえるってことがどんなに大事か。それを伝えるのが医者の仕事です。母親の育児放棄を幇助するなんて、そんなひどいことをする医者がどこにいますか!」

医師「院長、、、。」

杉三「結局、赤ちゃんが生まれて喜ぶ人は、誰もいないんですね。そうなったら、結果としてどうなるか、考えもしないんですね、、、。」

院長「かなり重度の妊娠中毒症だったので、しばらくこちらにいてもらうことになります。赤ちゃんのほうは、小児病院に搬送しました。何しろ、高血圧で、赤ちゃんにほとんど栄養がなかったんでしょうな、専門外の私もはっきりわかるほど、小さい小さい子でした。」

杉三「どのくらいの大きさですか?」

院長「はい、960グラムです。」

美千恵「それでは、いわゆる超未熟児になるわけですね。栄養が届いていなかったのなら、生まれる前かご飯を食べさせてもらえなかったと考えればよろしいですね。」

医師「これから小児科の先生と連絡を取りながら、治療にあたりますが、免疫力がたいへん弱いので、ちょっとしたことでも命にかかわることがります。覚悟してくださいね。」

杉三「考え直してください。お願いします、、、。」

と、涙を流して頭を下げる。

蘭「ひとまず、僕らは帰ろうか。」

美千恵「そうね。じゃあ、さよさん、また来るから。」

蘭「行こうよ杉ちゃん。」

杉三「お願いします、どうか一緒に生きてください。お母さんとして生きてあげてください。お母さんじゃなきゃできないことはいっぱいある。他人では、それをカバーすることは絶対できないんです!」

美千恵が泣いている杉三の車いすを動かす。さよの顔が見えなくなっても杉三はまだ泣き続けていた。

杉三「生まれて喜ばれない命って、本当にあるんだね。」

と言い、回復室を出ていく。


翌日。さよは乳房のマッサージを受けている。

さよ「痛い!もっと弱く!」

看護師「だめですよ、赤ちゃんのためだと思ってください。今、母乳をたくさん飲んでいるんですって。」

さよ「私が、育てるわけじゃないでしょ!」

看護師「そうなったかもしれませんが、貰い手も何も決まっていませんよ。超未熟児を貰い手にするなんて法律は、どこにもありません。立派なお乳じゃないですか。」

確かに母乳はよく出た。多い日は一リットル近く出る。

看護師「こんな風に、たくさん出る人は、今の人にはめずらしいです。赤ちゃんが退院したら、たくさんお乳をくれてあげることができますよ。それでもよそ様にやりたいんですか。」

さよ「出てって!」

看護師「わかりました。じゃあ、もうしませんから。」

と、道具を片付けて、出て行ってしまう。


杉三の家。

蘭「え?小児病院に行くの?」

杉三「そうだよ。だって彼がかわいそうじゃん。」

蘭「身内じゃなければ入れないよ。お父さんとか、おじいさまとか。」

杉三「池本院長に電話してよ。権限で入らせてくれるかもよ。」

蘭「いや、絶対無理だよ、杉ちゃん。」

杉三「誰も生まれたのを喜んでくれないなら、彼はこの先どうやって生きていけばいいのか、わからなくなるじゃないか。」

蘭「赤ちゃんの面倒なんて杉ちゃんは、見れないだろ?」

杉三「電話してよ!それでも行きたいんだ!」

蘭「あまり、期待はしないで。」

と、スマートフォンをダイヤルする。

蘭「あ、池本院長。実は杉ちゃんが、生まれた赤ちゃんにどうしても会いたいと言ってきかないのですが、、、。」

院長「いや、むしろあってあげてください。さよさんは、乳房のマッサージさえも拒否したそうですから。大変母乳がよく出る人なのに、困っているそうなので。」

蘭「いいんですか?僕たちのような歩けない人間が訪問してしまうのは。」

院長「いいですよ。小児病院には連絡を入れておきますので。」

蘭「わかりました、、、。じゃあ、行きますので、よろしくお伝えください。」

と、電話を切り、

蘭「いってもいいってさ。杉ちゃん、ひどく泣いたりしちゃだめだぞ。」

杉三「うん。タクシー、予約してくれる?」

蘭「わかったよ。」

と、再びスマートフォンをダイヤルする。


小児病院の前。一台のタクシーが停車する。杉三と蘭が手伝ってもらいながら、タクシーを降り、正面玄関から、入っていく。

受付に連れられて、二人は集中治療室に行く。入り口で念入りに手を洗い、着物の上から割烹着のような無菌服を着る。

蘭「えーと、一番奥っていってたよね。」

と、一台の保育器の前で止まる。

蘭「この子だ。」

杉三「なんで頭に点滴をしているの?痛そうじゃないか。」

医師がやってきて、

医師「こんにちは、彼を担当しています、辻村といいます。よろしくどうぞ。」

杉三「影山杉三です。よろしく。」

蘭「友人の伊能蘭です。」

と、頭を下げる。

辻村「手が小さすぎて針が入らないので頭の血管から針を入れさせていただいております。でも、確実に栄養は届きますので、安心してくださいね。」

杉三「痛くないんですか?」

辻村「言葉がないからなんとも言えませんが、きっと気持ちいいと思いますよ。」

蘭「彼は、やはり体のどこかに障害が残ってしまうのでしょうか。僕たちみたいに、、、。」

辻村「そうですね、きわめてその可能性は高いでしょう。未熟児で生まれて、健康な子供になれるケースのほうが珍しいくらいですから。そこの受け入れは、親のほうが成長してもらわないといけません。」

蘭「やっぱり。」

辻村「一つ問題がありましてね。あと三日の間に出生届を出してもらわなければいけません。そうしないと法律違反になりますからね。なので、彼ではなく、具体的な名前を付けていただきたいんですよ。」

杉三「僕は読み書きができない、、、。」

蘭「杉ちゃん、君が名付け親になるわけじゃないだろ。名付け親ってのは、生んだ人か、生んだ人が頼んだ人がなるもんだ。」

杉三「あの人は、名前なんか付けないだろうな。」

蘭「じゃあ、誰かに名付け親を頼もうか。」

杉三「それではあまりにもかわいそうすぎる。ねえ、先生。」

辻村「はい。」

杉三「スマートフォン、持ち込んでいいですか?」

蘭「なに馬鹿なこと言ってる!」

杉三「赤ちゃんの動画を撮りたいんですよ。残念ながら、僕は撮影はできませんけど。お母さんに送ってあげたいんです。」

蘭「でも、そんなものをここに持ち込んだら、不衛生になるじゃないか。感染が心配だから、」

辻村「いえ、短時間なら大丈夫ですよ。」

杉三「ありがとうございます。蘭、彼の全身を動画でとってみて。」

蘭「わかったよ。」


個室。さよはようやく回復室から一般病棟に移った。

医師「まだ安静にしてくださいよ。帝王切開の抜糸も住んでないんですからね。」

さよ「お金だけむしり取ってるだけじゃありませんか!私はもう大丈夫です!」

医師は困った顔をして、個室を出て行った。

と、そこへ、

声「こんにちは。」

と、杉三が入ってきた。

さよ「なに、また来たの?税金泥棒なのに。」

杉三「ええ、来ましたとも。今日は大事な動画があるから、それを見てほしいんです。」

さよ「なんですか。そんな暇はありませんわ。」

杉三「でも、これを見たら変わるんじゃないかな。」

蘭「これです。」

と、タブレットを出して、ある動画を起動する。

蘭「小児病院の先生に許可をもらって撮らせてもらいました。登場人物は誰なのか、考えてくださいね。」

と、タブレットを差し出す。

まず、頭の血管から点滴を受けている赤ちゃん。時々、機械の音も聞こえてくる。体は包帯のようなもので巻かれていて、時折動かすことはあるが、それも弱弱しい。

蘭「呼吸器官がほとんど発達していないみたいで、とりあえず人工呼吸にしているそうですが、それは嫌がることもあるみたいで、こうして体を縛り付けておかないといけないんだそうです。ただ、彼は母乳はよく飲んでいるそうで、期待はできるみたいですけどね。」

さよ「期待できるのならよかったわ。男の赤ちゃん?」

蘭「ええ。退院するのはまだまだ先ですけどね。」

杉三「食欲だけはあるみたいけど。きっと、頭の血管から薬が入って、さぞ痛いだろうな。」

さよ「そうね。」

杉三「いったな!」

さよ「え?なんで?私、その感想を言っただけよ。それはだって、他人の赤ちゃんでしょ?」

杉三「違いますよ!」

さよ「こ、こんななの!?」

杉三「はい。」

さよ「生まれた時ってのは、サイレンみたいになくんじゃないんですか?」

杉三「違います。」

蘭「きっと、帝王切開で全身麻酔かかってたから、わからなかったんでしょうね。でも、彼は間違いなくあなたの息子です。もし、疑うようでしたら、小児病院に電話でもしてください。すぐに彼の部屋に連れていくはずです。」

さよ「そうだったんですか、、、。こんな無残な姿なんですか。」

蘭「食欲旺盛なのが、望みの綱だと、小児病棟の先生が言っていました。だから、これからも母乳をよろしく頼みますと、言われましたよ。」

杉三「こんなに頑張っている息子さんを見ても、幻の理想の息子を追いかけて、彼を他人様に預けますか?」

さよ「私、私、私、、、。」

と、みるみる泣き出してしまう。

杉三「お母さんなんだから、応援してやりたいと思いませんか?お父さんも、きっとみてくれると思います。」

母親「ごめんなさい、、、。」

杉三「僕じゃなくて、彼に謝ってくださいよ。理想の息子を求めすぎてたお母さんが悪かったと。」

蘭「それに、お母さん、早く出生届を出してください。彼ではなく、ちゃんと名前を付けてあげてくださいよ。彼と呼ばせるのもかわいそうですよ。」

母親「そ、そうでしたね。私、なんてことをしていたのでしょう。責任をとらなければ、、、。」

杉三「だったら、彼に早く名前をあげてください。一番きれいな言葉、それが名前です。」

蘭「それをすることによって、責任をとる第一歩になるんじゃないですか?」

母親「わかりました。主人が生きていた際に、一度だけ名前をメモ書きしてくれたことがありました。そのとき私は、ひどく怒ってしまって、そのメモを、ごみ箱に捨ててしまったのですが、、、。」

杉三「それでは意味がありません。もう一度考え直してくださいよ。」

母親「いえ、覚えています。」

蘭「じゃあ、なんて?」

母親「新之助です。あの人は、時代劇が好きだったので、武将のような名前にしたいと、かねてから望んでいました。新しい命、ということから、新しいの新という字を必ず使うのだと言っていた記憶があります。さらに、他人を助けるのが大好きな人でもあったから、助けるという字も使うのだと。なので、彼の名は、新之助です。」

杉三「僕は読めないけど、きっときれいな名前なんだろうな。一番きれいな詩なんだから。」

蘭「そうだね。」









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