嘴の大きな鳥

嘴の大きな鳥: ある雨の日のこと。体調があまりよくない蘭は、テーブルに座って、道具の手入れをしていた。と、突然、インターフォンが鳴った。

蘭「はい、どちら様ですか?」

声「蘭先生でいらっしゃいますか?」

若い男性の声。

蘭「そうですが?」

声「施術をお願いしたいんです。」

蘭「はい、雨ですので、お入りください。まずは、打ち合わせからしましょう。」

声「わかりました。お邪魔します。」

と、ドアをあけ、廊下をあるき、仕事場にやってきたのは、三十代くらいの男性だった。しかし、入れ墨というものには、全く縁のない世界にいそうな風貌をしていた。ブレザースーツをしっかり着込み、黒いネクタイをしめていた。

男性「佐藤一男ともうします。」

蘭「刺青師の伊能蘭です。よろしくお願いいたします。」

一男「こちらこそです。早速ですが先生、この、背中に龍をおねがいできませんか?」

蘭「龍ですか、できないことはないと思いますが。」

一男「できないこととは、何ができないのですか?早く、龍を彫ってもらえませんかね。インターネットによりますと、比較的簡単とありましたが?」

蘭「日本の伝統的な刺青は、簡単ではありません。職人芸ですから。でも、どうして彫ろうと思ったんですか?」

一男「はい、体に怒りを書き込んで、やり場のない怒りを吐き出したいんです。他の人たちに!」

蘭「怒りのための道具にしないでください。やくざのイメージもやめてください。人を怖がらせるものではありません。元々は痛みに耐えて大人になるためのものです。古代からそれは受け継がれている。だから、怒りとして使うとか、暴力団とか、そのためのものじゃありませんし、そういう人には施術しないことにしているんです。」

一男「そうですか、、、。では、先生、私はどうしたらいいんでしょうかね。」

蘭「それはそれは、、、。」

一男「 はい。居場所がないんです。みんなずるいやり方で、僕のことを消そうとしているんだ。」

蘭「ずるいやり方?」

一男「はい。とてもとても。腹がたちすぎて、口で言うこともできないです。」

蘭「そんなに、憎たらしい相手なんですね。どうしようもない怒りを、刺青にしてほしい、という人はよくいます。」

一男「そうなれば、ぜひ、彫っていただきたい。」

蘭「彫って差し上げたいんですが、僕も体調を崩していて。他のかたを紹介しましょうか?」

一男「いや、手彫りのほうがいいんです。先生、首から出るほどつらい感情を一生懸命我慢するのは、辛すぎますから。一人は、本当にさびしいですよ。」

インターフォンがなる。

声「蘭、買い物いこ。」

蘭「杉ちゃん、いまお客さんと一緒。」

一男「もうそんな時間ですか。長居して申し訳ありませんでした。また、明日相談しても良いですか?」

蘭「はい、もう少し早くきてくだされば。」

杉三「蘭、どうしたの。」

蘭「杉ちゃん、玄関のドアの前にいてくれる?いま、お客さんが帰るからさ。」

一男「あ、ほんとに、ご迷惑をお掛けしてしまいすみません。すぐ帰ります。」

と、そそくさと、鞄をもって廊下に出る。玄関のドアを開けると、杉三が待機している。

杉三「こんにちは、杉三です。」

一男「急いでいますので。」

杉三「うでに、やけどでもしたんですか。」

一男「いや、あの、その、まあ、つまり、もともとそうなんですよ。すみません。」

杉三「待って!」

というが、すぐ逃げられてしまった。

杉三「なんだろう、あの人。」

蘭「杉ちゃん、そんなこと気にしなくていいんだけどなあ。でも、悪い癖なのは、仕方ないのか。」

杉三「だって、聞いてみなきゃわからないことってあるじゃないか。」

蘭「そういう発想にいくのも杉ちゃんだ。まあ、やけどのあとだから、ストーブにさわっちゃったとかじゃないの。」

杉三「そうかな。だったらあんな言い方はしないと思うよ。」

蘭「杉ちゃん、あんまり考えてばかりいると、買い物できなくなっちゃうから、はやくいこう。僕も休みたいし。」

杉三「うん、わかったよ。」


スーパーマーケット

杉三「なんだか、いつもと違う。」

蘭「違うって何が?」

杉三「にんじんとか、レバーとか、春菊なんかが、みんなない。」

蘭「安売りだからじゃないの?」

杉三「だって、開店したばかりの時間なのに、もう全部なくなってる。」

確かにそうだ。杉三はいつも開店時刻ぴったりに、スーパーマーケットに入る。

と、そこへニンジンを大量に籠に入れたおばさんと、鉢合わせになる。

杉三「あ、ごめんなさい。通るのに邪魔ですよね。」

おばさん「そんなことより、あんたたちも、ニンジンとか、レバーとか、ほうれん草とか買ってきなさいよ。なんでも、この時代なのに、ペストが流行ってるみたいだから。ビタミンAがよくきくらしいわよ。あんたたちは、歩けないんだから、ペストのせいで、さらに大迷惑をかけないようにね。」

と、いい、そそくさとレジへいってしまう。

蘭「今時、本当にペストが流行るのかな。確かに、中世のヨーロッパで、よくあったけどさ。」

杉三「ねえ、蘭、ペストってなに?」

蘭「伝染病の一つだよ。昔のヨーロッパで大流行して、その当時は確実に亡くなるほど、怖い病気だったけど、いまは、抗生物質があるから、そうでもないよ。よく、西洋美術館で、骸骨が踊る絵が展示されたりするでしょ、あれが象徴するように、気持ち悪い姿になってなくなるんだよね。でも、なんでこんなところでペストが流行るんだろう。」

杉三「こんなところ?」

蘭「そうだよ。日本では、かかった人なんて、ほとんどいないよ。ヨーロッパを旅行でもして、持ってきたのかなあ。それとも、ペストは、ねずみが原因だから、ねずみが出たのかなあ。」

杉三「僕らはどうすればいいんだろう。」

蘭「気にしないことじゃないの、多分、今の時代にペストが流行るなんて、偉い人からみたら、あり得ない話だよ。だから、普通に買い物しよ。」

杉三「そうだね。」

二人、レジへ移動する。

杉三「蘭、あのポスターには何てかいてある?」

蘭「お金払ってから見るよ。」

店員「いいわよ、あたしが読んであげるから。杉ちゃん、あれはね、ペストは、早めに治療すれは、怖くはありません、もし、原因不明の熱が出たら、ただちに病院を受診してください、そう書いてあるの。」

杉三「じゃあ、鳥みたいな顔をしているのは、なに?」

店員「なんだろ、ゆるキャラかな。ペスト対策用の。」

蘭「すみません、いま、細かいのがないので、五千円でお釣りください。あれは、ゆるキャラではなく、ヨーロッパでペストが流行ったときに、治療したお医者さんが着ていたものですよ。鳥の嘴にみえるものは、鼻から感染しないようにするための、マスクみたいなものですね。」

店員「へえ!蘭さん詳しいのね。流石!あ、つぎのお客様がまってるから、これお釣り。じゃ、またきてちょうだいね。」

蘭「ありがとうございます。じゃあ、杉ちゃんいこう。」

ところが、杉三はそのポスターを真剣な目で見ている。

蘭「どうしたの?」

杉三「いまも、ペストにかかるとお医者さんは、こういう格好で診察するの?」

蘭「まさか、しないよ。それは、何回もいうけどさ、ヨーロッパで大流行したときだけだったんだから。今のお医者さんは、今の格好をしてるよ。」

杉三「そうなんだね。わかったよ。」

二人、スーパーマーケットを出る。道路を歩いている人も少ない。

杉三「やっぱりペストのせいなのかな。みんな、家にいるのかな?」

蘭「たまたまなだけじゃないの?」

と、二人の前をパトカーが走っていき、池本クリニックの前でとまる。


蘭の家。夕食を食べている、蘭とアリス。

蘭「明日の天気予報を見なくちゃ。」

と、テレビのスイッチをいれる。しかし、天気予報の画面ではなく、臨時ニュースとでる。

蘭「あれ?もうじき天気予報が始まるはずじゃ、、、。」

アリス「みて!都内で一人、ペストで亡くなったんですって!」

蘭「と、都内!いつ、」

アリス「見ててみなさいよ!」

アナウンス「東京都内の病院で、若い男性が、肺ペストのため死亡していたことがわかりました。病院側も、公表するのは躊躇していたのですが、記者団の依頼で会見をひらいたそうです。本人の希望で、年齢も住所も公表はできないことになっています。」

蘭「ついに出たか。」

アリス「静岡じゃなくてよかったわ。あたしたちの国にも、たまにペストで亡くなったひとはいたけど。」

アナウンス「では、先生、ペストの出始めの症状をおしえてください。」

声「はい、まず40度近い高熱、そうして激しい咳や喀血などを伴い、治療をしないと、数日で死亡します。これが、肺ペストですね。ただ、肺ペストは、あまりよく知られていません。一般的なのは腺ペストで、腺ペストと言いますと、」

アリス「池本院長!」

蘭「最後まで聞けよ。」

院長「まず、至るところのリンパ節が腫れて、そのうち、すごい高熱熱がでます。放置しておきますと、全身の所々で内出血をおこし、真っ黒な体になって死亡します。なので、黒死病と呼ばれております。」

アナウンス「どのように治療をすればいいのでしょう?かつては、鳥のくちばしのようなものをつけて、治療をしたそうですが?」

院長「いまは、抗生物質がたくさんありますので、鳥のくちばしは必要ありません。それは、14世紀辺りに大流行したときの医者がつけていました。それに、ペストワクチンというものもございまして、任意で予防注射もできますので、あまり悲観はしないでください。」

アリス「出世したわね、池本院長。」

蘭「患者を増やす手段になるのかな。医療のお陰で、いろんな病気が治るけどさ、なんか、大事なもんと、引き換えに、病気に勝たせてもらってるような気がする。」

アリス「蘭の言う通りかも。長生きという病、もあり得るんじゃないかしら。ほら、なかなか若い人が成長できないっていうじゃない。」

蘭「いずれにしろ、きをつけないとね。」

アリスはため息をつく。


東京のあるタワーマンションの、一室。その畳の上に、一匹のハツカネズミがいた。いわゆる、実験用のもので、可愛らしいが、ネズミは、もう寿命が尽きていたため、全く動かない。そして、それを拾い上げる、ひとつの手。


数日後。蘭の家。

アリス「こないだより顔色がよくなったわね。」

蘭「そうかな。」

と、インターフォンが五回鳴る。

蘭「杉ちゃんか。いいよ、入んな。」

と、言い終わるより早く、杉三が入ってくる。

杉三「ねえ、蘭、この速達を読んでくれる?」

蘭「はあ、東京都小金井市、、、。なんだか、杉ちゃんには縁がないところなのに、なんで杉ちゃんに手紙が届いたんだろう。」

杉三「小金井市っていうと、あの先生か。」

蘭「あの先生って?誰のこと?」

杉三「佐藤花子先生だ。」

アリス「声楽家の?」

杉三「歌をみんなに歌わせる人。」

アリス「ああ、合唱団のことね。あ、話をもどすと、その佐藤先生から杉ちゃんに?蘭、読んであげなさいよ。」

蘭「うん、合唱団花、演奏会のお知らせ。えーと、日付は、ああ、来月のおわりか。場所、小金井市民会館、、、。」

杉三「佐藤先生がどうしたの?」

蘭「来月の終わりに演奏会をするんだって。その、招待券をくれたんだよ。」

杉三「でも、ちょっとこわいな。」

蘭「何が怖いの?」

杉三「僕には嘴がないから。」

蘭「嘴がない?」

杉三「嘴がないから、東京へは行けない。」

蘭「杉ちゃんは変なことばっかり覚えるんだね、いい、くちばしはね、池本院長もこないだ説明していたけど、ものすごく大昔の話なの。もう、600年くらい前。それに比べれば、いまはいい薬もたくさんあるんだから、かかったとしても大丈夫なの。」

杉三「池本院長がいつ言ったの?」

蘭「ああそうか、杉ちゃんの家にはテレビがないのかあ。あのね、テレビのニュースでペストが流行ってるという報道があって、池本院長が、ゲストで出てたの。」

杉三「池本院長は何を言ったの?」

蘭「ペストってのが、どんな症状が出るかとか、昔みたいに怖い病気ではないってこと。」

杉三「池本院長がなぜ呼び出されたの?」

蘭「あ、あれは、その、、、。」

杉三「だれか重大な症状の人でも出たんでしょ?だから、やっぱり、くちばしは、用意しなきゃいけないんだ!」

蘭「困ったな、、、。こんなに偉い先生から招待状もらったんだから、いかなきゃ失礼だよ。ペストワクチンもあるし、大丈夫なんだから。それなのに、嘴がどうのこうので騒ぐなんて。僕のみにもなってくれよ、杉ちゃん。まあ、こんなこと言ったって効果なしかあ、、、。」

アリス「蘭、これはもしかしたら、杉ちゃんの方が正しいかもしれないわよ。私、知り合いからきいたけど、だんだんおかしくなっているみたいだから。佐藤花子。」

蘭「佐藤先生がおかしい?」

アリス「他言しないでね。あの人、息子と二人暮らしだったでしょ。結婚してすぐに旦那をなくしてさ。息子がすごい親思いで、すごい話題になったけど。」

蘭「そういえば、、、。僕もテレビでみたな。」

アリス「で、最近になって、すごい金持ちと、再婚したらしいのよ。」

蘭「すごい金持ち?」

アリス「そう。」

蘭「たしか、息子を学校に通わせるために、有名な音楽コンクールにでて、一番になったんだよね。まあ、そういう傾向は、アスリートにもあるけどさ。とんでもないほどの、賞金をもらって。」

アリス「そうそう。その賞金で、息子は、すごく良い大学にいったのよ。でも、いまは、それが見事に崩れ去ったみたい。息子のほうが、一回、自殺未遂したんですって。毎日毎日大暴れとか。」

蘭「再婚したのは、それが理由かな。」

アリス「そうかもしれないわね。そのあとは、どうなのか、私はあんまり知らないんだけど、何か訳があったのよ、きっと。だから、むやみに彼女には手を出さない方がいいわ。杉ちゃんを利用して、何かたくらんでいるのかもしれないから。」

蘭「確かに、杉ちゃんは、偉い人たちとすぐ仲良くなるけど、その分利用されることもあり得るね。じゃあ、僕たちは、くちばしをつけてないから、いかないにするか。ね、杉ちゃん。」

杉三「でも、息子さんの方はかわいそうだな。」

蘭「大丈夫。偉い人は、ちっとやそっとでは、動揺しないさ。」

アリス「あ、そろそろ天気予報、もう終わっちゃうじゃない!」

と、急いでテレビの方を見る。

アリス「あーあ、もうニュースの時間だわ。」

アナウンス「先日の、ペストによる死亡者のニュースの続報です。先程、ペストにより死亡した都内の男性の身元が、病院への取材でわかりました。それによりますと、身元は、佐藤浩得さんと判明いたしました。佐藤さんの父親への取材によりますと、佐藤さんは、ハツカネズミを趣味的に飼育しており、このねずみがペスト菌を媒介したと思われます。」

アリス「おかしいわね。なんで今ごろに?だって、亡くなったというニュースを聞いてから、一月以上経っているわよ。」

蘭「葬儀とかなんだとかで、人が興味を持つのが嫌だったんじゃない?」

アリス「まあ、死人にくちなし、ってことかしら。でも、まだわからないところがあるわ。その佐藤浩得が亡くなったのは、確かなんでしょうけど、他に亡くなった人はでないし、新しく患者が出たという話も、一回もないじゃない。」

蘭「そうだね。ペスト菌は、ねずみが媒介するのはよくあるけどさ、かかった人から感染することもよくあったよ。杉ちゃんの言葉を借りれば、くちばしをつけていたのは、鼻からペスト菌が入らないための工夫だし。まあ、全然意味はないとされているけれどね。

確かに、抗生物質もあるから、すぐ治るし、あんまり公表しても、意味がないと思うのかもしれない。亡くなることは、まずないよ。今の時代。まあ、あんまり見てても仕方ない。消すよ。」

と、テレビを消す。

杉三「電話してみようよ。」

蘭「で、電話?杉ちゃん、誰に電話するの?」

杉三「きっと何かあったんだよ。僕は嘴の大きな鳥になりたい。この写真、僕、覚えているよ。」

と、チラシに載っている写真を指差す。

蘭「杉ちゃん、もしかしてこの人は、、、?」

杉三「佐藤浩得さん。」

蘭「ちょっと、チラシを見せて。」

と、チラシを広げる。合唱団のメンバーと、指導者の佐藤花子が写っていた。さらに、チラシの片隅に、二十歳そこそこの男性が微笑んでいた。

蘭「この人が、佐藤浩得さん?つまり息子さんか。杉ちゃん、どうしてわかったの?」

杉三「会ったことがあったから。」

蘭「いつ?」

杉三「僕が母ちゃんと、東京にいったとき。僕は彼と図書室にいた。一生懸命、職員さんが話しかけていたけど、彼はなんにも言わなかった。」

蘭「図書室?なんでまた?」

杉三「うん、母ちゃんが僕みたいに馬鹿な子を育てるための、講座をうけにいったとき。」

蘭「なんだろう、障害児の育て方みたいな感じかな。」

杉三「うん。そのときに、母ちゃんと花先生がなかよしさんになって、僕は母ちゃんと、花先生のリサイタルに招待してもらったの。」

蘭「いつのこと?」

杉三「2014年、1月25日。」

蘭「つまり二年前か。」

杉三「でも、浩得くんは義理の息子なんだよ。」

アリス「義理の息子のために、講座にいったなんて、すごいわね。じゃあ、その前にいた息子はどうなったんだろう。杉ちゃん、そこはきいた?」

杉三「知らない。でも、何か裏があるってのは感じた。浩得くんのためじゃなく、自分の名声をあげるため、だけに講座に行ったんだと思う。」

蘭「なるほどね。杉ちゃんの勘はあたるからね。」

アリス「そういう裏があったわけね。それで、仲良し親子に亀裂が入ったわけか。たしか、浩得は、また別の音楽大学にいったらしいし。あたし、実の子の名前は忘れたけど。花子にしてみたら、実の子に活躍してほしいとおもうでしょうね。浩得は、それよりさらに上の大学にいったらしいから。」

蘭「なるほど。複雑な家庭なんだね。そんななか、感情の嵐もあるだろうね。」

杉三「電話してみようよ。だから。」

蘭「だめだよ、そんなことしちゃ。」

杉三「ううん、池本院長に。聞けばすぐわかるよ。」

蘭「何を聞くの?」

杉三「クリニックが繁盛している理由。いいから、電話かけて。池本クリニックに。」

蘭は、渋々スマートフォンを出してダイヤルする。繋がると、スマートフォンを杉三に手渡す。

杉三「こんにちは」

受付「すみません、今日はあなたの診察の日じゃないんですけどね。」

杉三「じゃあ、それを言うほどだから、すごく混んでますね。」

受付「そう言う反応って、失礼だと思いませんか?」

杉三「忙しい理由を言ってください。ワクチンがどうのとかも、聞こえてくるよ。」

受付「いま、ワクチン希望者が多すぎるんです。あなたは、問診票さえも書けないんだから、しばらく待ってくれませんか?」

杉三「へえ、でも院長は、平等に治療をしようと言うじゃないですか。病院全体へのルールというのなら、作っておきながら、実行していない、自分でルール違反をしている見たいなもんでしょう?」

受付「あのですね、杉様、こちらはね、テレビの影響で、いろんなところから来るんですよ。ルール違反をしているとか、反省している時間もありません!」

杉三「はあ、テレビですか。」

受付「院長がテレビにでちゃったばっかりに。」

杉三「じゃあ、院長が患者さんを受け持たなかったら、また違っていたかもしれませんね。そのうち、古くさいところから新しい建物になれますよ。」

受付「それが楽しみ楽しみ。ペスト自体も時代的には早く回復できるみたいだし。」

杉三「じゃあ、池本院長が、佐藤浩得さんを治療しなかったら、これからも、古ぼけた病院になるよ。そう考えれば、仕事も楽しくなると思うよ。そっちを考えたら?」

受付「そうよ、私も頭のなかでは、佐藤という人が、もっと早く現れたらって気もしたな。」

杉三「わかりました。有難う。」

と電話をきる。

蘭「杉ちゃんの電話はカウンセリングみたいだな。」

アリス「ほんとね。」

蘭「つまり、浩得さんは、趣味で飼っていたハツカネズミから、感染したんだろうね。でもさ、いまは、ペストなんて、ほっとくと確かに怖いけど、抗生物質があるから、そんなに怖いもんじゃないよ。ましてや、肺ペストなんて、すごい稀な病気だし、、、。」

杉三「ねえ蘭、こないだ、蘭のところに彫ってとお願いしにした人がいたじゃん。その人、左手にあざがあった。」

蘭「ペストにかかると、熱が出て、動けなくなるから、あの人は、こちらに来たんだし、違うと思うよ。」

杉三「どうかなあ。そんなことはないと思うけど。もしかしたらってこともあるよね。」

蘭「杉ちゃんの勘はすごいからなあ、、、。」

アリス「とりあえず、演奏会にいってみたら。あれからペストに関する報道はなにもないんだし。」

蘭「そうだね。ペストワクチン、打たせてもらって、いってくるか。あと、抗生物質ももらって。」


当日。新幹線に乗っている杉三と蘭。

蘭「杉ちゃん、僕たちは、しっかりペストワクチンを打たせてもらったんだし、薬だってしっかりもっているから大丈夫なの。だから、あんまりペストペストと、口に出さないでね。」

と、そこへ切符拝見にやってきた車掌が、

車掌「一人亡くなったという報道はありましたが、それ以来、何も患者さんは出ていないようですよ。安心してください。」

といいながら、二人の切符に印鑑を押す。

蘭「ありがとうございます。」

車掌「ぜひ、ご旅行、楽しんでください」

と、次の車両へでていく。

東京駅。駅員に手伝ってもらいながら二人は電車に乗り換える。

杉三「嘴の大きな鳥はいないね。」

確かにポスターも一枚も貼られていない。

蘭「終結したのかなあ。日本の医療はすごいや。」

杉三「ヨーロッパとは、全然違うね。」

蘭「だから、ヨーロッパのは、過去の話だってば。」

杉三「そうなると、かわいそうだね。逆に一人だけ亡くなったとなると。ヨーロッパみたいに、何十にんも亡くなったのなら、おんなじ気持ちをわけあえたかも知れないけど、たった一人ってのは、つらいんだろうな。」

蘭「そうかもしれないね。あ、杉ちゃん、でるよ。」

二人は次の駅で、手伝ってもらいながら、電車をでる。


駅近くのタワーマンションの一室。若い男性が顔中を真っ赤にして布団に寝ている。彼は起き上がり咳をする。と、赤い血が、口に当てた手を汚す。


コンサートホールでは、合唱団花の定期演奏が行われている。中央には浩得の遺影が置かれ、佐藤花子のタクトにあわせ、団員たちは力一杯歌う。そして、浩得の追悼歌が披露されると、客は、会場が割れんばかりの大拍手を送る。そのなかで花子は、マイクをとり、

花子「皆さん、我が息子のために、お集まりいただき、ありがとうございます。息子は、不運にもペストという病にて、命を落としてしまいました。私自身も、このコンサートを開催しようか、本当にまよいましたけど、息子がさぞかしがっかりする、という、団員のみなさんや、お客様のご意見により、このコンサートを成功させることができました。こころより、感謝いたします。ありがとうございました!」

拍手はさらに大きくなるが、杉三は、どうしても拍手できなかった。

コンサートは、無事に終了し、杉三と蘭は、ホールを出る。

蘭「それにしても、長いコンサートだったよ。」

杉三「疲れたね。」

蘭「そうだね。はやく、何か食べたいな。」

二人は、駅まで戻ってくる。

杉三「それにしても富士とはちがうね。こんなにたくさん、四角い建物ばかりなんだもの。」

蘭「まあ、東京だからね。」

杉三「高いところに住んでいて、幸せなのかな。どれくらいの人がきもちいいのかな。いつも空を飛んでいるみたいで、気分悪くしないのかな。」

蘭「杉ちゃんは、ほんとに、変なことに疑問を持つんだね。変わり者だな。」

杉三「だって、ほんとにそう思うから。」

蘭「よくわからないな。さ、富士に帰ろうか。」


タワーマンションの一室。コンサートを終えて、花子が帰ってくる。

花子「ただいま。一男、いないの?」

と、一男の部屋にいく。

花子「どう、薬飲んだ?」

しかし、一男は、布団に横になったまま黙っている。

花子「一男、どうしたの!」

額に触ると火のようである。

一男「さわっちゃダメだよ、母さん!」

みると、腕のあちこちに黒いアザのようなものができている。

花子「くすり、飲まなかったの!」

一男「やめてくれよ、こんなことするの!浩得だけを殺らないで、僕も殺ってよ!」

花子「あんたのためなのよ、浩得が生きていたら、あんたは、一生活躍できなくなるのよ、あんたの、音楽だって、全部浩得に盗られるのよ。それで我慢できる?できないでしょ?あんたが書いてきた音楽だって、みんなみんな、浩得がやったことになって、浩得だけが成功して、あんたは、何を書いても、佐藤浩得の兄、くらいしか、認識されなくなるのよ!それでもいいの?」

一男「いいんだよ!浩得は、浩得で勝手にやってればそれでいいじゃないか!」

花子「何て悠長なことを!テレビもパソコンもあって、簡単に音楽家をなのることができるようになったんだから、その中から選び抜かれた存在になるには、こういうてを使わないと、なれないときだってあるのよ。いい、あんたは優秀なの。浩得は、たいして音楽の才能なんてないわ。私、いろんな国の大学にいったからわかるけれど、才能がなければ、海外の大学を出たとしても、たいしたことには、ならないのよ。いまは、病気や障害を売りにしている音楽家もよく登場しているけれど、たいした才能がないのに、障害ばかりを売り物にして名前をうっているひとは山ほどいる。あの長たらしい名前のくそ男だってそうだったわ。そういう詐欺師のせいで、ちゃんとした才能を持つひとが、どれだけ命を落としているか、計り知れないのよ!」

一男「そうなのかも知れないけど、僕は有名になんか成りたくないよ。単に音楽が好きだし、それだけでいいと思っているさ!だって、浩得は、同じように音楽が好きでも、自分の名前すら言えないじゃないか!その方が、よっぽどかわいそうだよ。僕は音楽の才能がもしあったとしても、それを理由にして有名になるのではなく、誰かの役にたつ方が、よっぽど楽しいなあ、と、最近思うようになったんだ。だから、僕は、浩得のそばについてやりたかったよ!」

花子「どうして、そんなことを考えるようになったの?私と、あれだけたくさん演奏をして、、、。」

一男「ステージでもたくさん演奏したけど、みんな母さんの歌ばかり聞き惚れていて、僕は単に伴奏者にすぎなかった。でも、老人ホームとか、養護学校とか、そういうところで、演奏するとさ、伴奏者でしかなかった僕にも、利用者さんたちが、感想をいってくれる。だから、こんな僕にも、人助けができると思って、嬉しかったんだよ!母さんが、再婚することになって、新しいお父さんができるのも、勿論嬉しかったけど、浩得が、障害があると聞かされたとき、僕は新しい家族として、浩得の世話をたくさんしてやりたかった。浩得がピアノを弾き始めたとき、僕は浩得にありとあらゆる、テクニックを教えてあげたんだよ!」

といい、激しく咳き込む。

花子「だけど、私からみると、、、。」

一男「そう見えたかも知れないね!でも、浩得は、ほんとに楽しそうだった。だから、手取り足取り教えて、一人前にしたいと思った。母さんは、浩得が僕に勝ることを恐れていたようだけど、それは僕がやったことであるから、あいつを亡き物にする必要なんかなかったんだよ!」

一男は、さらに激しく咳き込んだ。生臭い液体が口から溢れたが、花子はそれを助けようとも思わなかった。

花子「勝手になさい!」

立ち上がり、ピシャン!と、ドアを閉めてしまった。その数時間後に夫である佐藤洋一も帰ってきたが、二人は、一男の部屋に行こうとはしなかった。


翌日。洋一より早く起きた花子は、嫌々ながらにも、一男のために葛湯を作った。

花子「一男、はいるわよ。」

返事はない。

花子「一男!」

と、ドアを開け、一男の枕元に近づくと、一男は意識が朦朧としていて、腕全体が真っ黒になっていた。

声「どうしたんだ?」

と、寝ぼけた目で、夫の洋一が一男の部屋に来た。

花子「一男が!」

洋一「放っておけばいいさ。俺の血をわけたのではないんだから。」

花子「あなた!一男をそんな目でみていたんですか!」

洋一「ああ、お前が、浩得を嫌っていたから、俺もそう思っていた。俺たちは夫婦になったんだから、お互いの全部をひっくるめて好きにならなければならないと、俺は亡くなった親父から聞いていたが、お前は全然そうではなかったからな!浩得のペットとして、ハツカネズミをプレゼントしたとき、やっとお前が浩得に歩み寄ってくれたのかと思い、内心喜んだが、大間違いだった。俺は、お前みたいに語学力があるわけじゃないから、まさか、プレゼントが、凶器になるとは、思わなかった!」

花子「当たり前じゃないですか!あなたは、やることなすことにおいて、浩得には大いにほめたのに、一男には、まったくとりなしてくれませんでした。一男ではダメなんですか?なら、その理由は何ですか!全く説明もしないで!おんなじ数学の定期試験でも、浩得の方が点がとれなかったにも関わらず、一男の目の前で、ごほうびを出したりして、一男には、なんにも与えないで!そんなえこひいきして、一男がどうなるかも知らなかったんですか?」

洋一「当たり前だ!浩得は、無言症だったんだぞ!それを直すためには、本当に根気が必要なんだ!病気の人間を無理矢理動かしたら、どうなるかくらい、わかるだろ!それに、心が病んでいるとなれば、もっと大変なんだ。俺は、音楽家であるお前なら、音楽療法との施術ができるかも知れないと、思っていたし、女手ひとつで、子供を育ててきた母親であれば、子供を慈しんだり、癒してやる技術をたくさん知っていると思ったから、結婚を申し込んだが、その効果はなかったな!」

二人の間に、意識のない一男の、咳をする音が聞こえてきた。

洋一「お前の責任だ。これは、お前が片付けろ。」

と、マンションを出ていってしまう。

花子は、しばらく呆然としていたが、まるで、誰かに操られたように、自動的に体が動き始めて、、、。


池本クリニック。待合室で、杉三と蘭が待機している。

蘭「血液検査なんて、いらないんだけどね。ちゃんと、ペストワクチンもやってもらったし、帰ってきたあと、薬もちゃんと、飲んだんだから。」

杉三「でも、心配だから。」

蘭「あんまり細かいことは気にしない方が。」

杉三「やっぱり心配だよ。」

突然、救急車が到着する。

アナウンス「ただいま、救急搬送された患者さんがお見えになりましたので、診察の方は相当な待ち時間が予想されます。ご不快になられました方は、予約変更を受け付けますので、受け付けにお伝えくださいませ。」

蘭「僕らは大したことないから帰ろうか。」

杉三「いや、僕は残る。」

蘭「何で?」

杉三「だって、かかっていたらいやだから。」

蘭「だから、大したことないってば!熱がでたわけでもないし、体の一部が黒い訳じゃないんだから!」

と、回りの患者たちが二人をみている。

蘭「あ、ごめんなさい。」

看護師「杉様、もしよかったら、売店で、何か買われて、食べててくれませんかね。」

蘭「じゃあ、売店いこうか。看護師さん、そこまで運んでいってもらえませんか?」

看護師「売店はB棟です。ご自分でどうぞ。」

蘭「歩けないから、そこへいけないんですよ。連絡廊下までつれていってもらわないと。そこから先はいけます。」

看護師「なんでまた。」

蘭「だって、売店にいけといったのは、そちらですよ。杉ちゃん、連絡廊下から、先に売店でまってて。」

看護師は、ため息をついて、まず杉三をエレベーターにのせて、渡り廊下につれていく。数分後にまたもどってきて、蘭を渡り廊下につれていった。


B棟への入口。蘭が到着する。しかし、杉三の姿はない。蘭は、売店にいってみたが、そこにもいなかった。

声「な、なんで間引きなんかしたんです!」

確かに杉三の声である。蘭は、B棟の中を車いすで移動して、声のする方にいってみた。

院長室の前を通ると、すすり泣きが聞こえてきた。確かに杉三の声だが、ある女性の声もする。

声「どうか、このことは、ご内密に。池本院長なら、TVにも出演されたことがあるほどですから、」

声「絶対だめ!」

蘭「杉ちゃん!」

と、無理矢理院長室のドアを開けてしまう。

杉三が、両手で顔を多いながら、声を立てて泣いていた。

杉三「どうして、、、浩得さんを殺害しようと思ったんですか。二人仲良くというわけには、いかなかったんですか。」

蘭は、状況を理解する。

杉三「しかも、一男さんまで、、、。」

院長「一男さんは、目を覚ませば大丈夫です。それは心配しなくてかまいません。しかしながら、我々としては、外部に伝えなければなりませんね。まず、ペストは、国に報告しなければならない感染症のひとつですから。しかし、日本ではほとんど、見られないペスト菌をどうやって持ち込んだんですか?確かに、ネズミはいますが、ペスト菌を媒介するネズミは、日本ではあまりいませんよ。」

花子「インターネットで入手しました。単に実験用のネズミを売買している海外のサイトで取引しました。浩得が、ネズミというものをペットとして飼うなんて、汚ならしくて仕方ないと思っていたので、それを利用したんです。」

院長「まあねえ、ネズミを飼うのは、確かにかわりものかもしれません。しかし、一歩間違えたら、ヨーロッパであったような、大流行に繋がったかもしれません。」

蘭「恐ろしいことですね。単に、浩得さんが憎らしい、だけではないんじゃないですか?何となく感じるんだけどな。」

杉三「なんで私が、障害をもつ子の母親にならないと、いけないのかしら。私、無理矢理あの人と一緒になったのよ。元々は、ワンマン社長だもん。あたしには、愛情なんて示してくれないわ。きっと、障害のある子の、乳母にするつもりなのよ。」

花子「私が、いついったのかしら、そんな発言。」

杉三「2014年、1月25日。僕は、浩得さんと一緒に、図書室にいました。」

蘭「司書の方に、話しかけられても、なにも喋らなかったそうです。杉ちゃんがいった台詞がほんとうなら、責任感がまるでない。一番の被害者は誰なんですか?」

花子「あたしだけが悪人なの?あたしだって、コンクールにでるために、練習もしたし、ひどい目にあったのも何回もあるわ!なのに、なんで悪人なのよ!」

蘭「本来、そういう人は、俗世間にみを置かない方がいいですよ。そうしなくてもやっていけますし、感性豊かな人は、俗世間では変な人とされ、身に付くのは劣等感と、罪の意識だけです。うちのお客さんにもそのせいで傷ついて、強くなりたいから、という理由で、刺青をお願いする人いますけど、そういう人は、バカな人ではなく、細かいことに美意識を見いだす力があるから、小さな幸せをすぐに見つけて、素敵な人なんだけどな。」

杉三「本人が努力したとしても、芸事は、すぐバカにされるものだから、傷つくんです。」

院長「それにこだわりすぎて、人生を棒に降る人はよくいます。これだけの時代、他人のせわをすることで生き甲斐を見いだすのは、よくあることですから、音楽の場合も同じと考えれば、殺人には至らなかったと、思いますが。」

花子「私と来たら何て、、、。」

杉三「もういいじゃないですか。罪を償えば、みんな、わかってくださりますよ。」

花子は床に座り込み泣き出す。杉三たちは、それを眺めるしかできない。

院長「変な世の中になったもんですな。簡単に再婚できるけど、子供は、付属品じゃありませんよ。」

蘭「一男君は、大丈夫なんですか?ほんとに。」

院長「はい、それだけは大丈夫です。しかし、彼はこれからどうやって生きればいいんですかね。マスコミに知られたら、どうするんだろう。」

杉三「お母さんなんだから、責任とってください!」

花子「あの子も、生きていないようにしてくれませんか?」

杉三「馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」

花子「なんにも思い付きません。すべては一男のため、それだけなのに。」

杉三「なんか、歌はうまくても、他はどうだろ。一男くんのことを、全然判ってない!」

蘭「僕は、思うんですが、誰かが喜ぶ顔を見ると、人間は、幸せを感じるものだと思うんですけどね。」

と、看護師が院長室に走ってきて、

看護師「先生!一男さんの意識が戻りそうです!」

院長「すぐいく!」

杉三「僕もいく!」

蘭「すみません、押してください。」

花子「私は、、、。」

杉三「来なきゃダメ!僕を押してください!」

花子は、杉三の車いすをおして、院長たちのあとをあるく。

全員、集中治療室に入る。一男は、目を開けて天井を見ている。

花子「一男!もう、大丈夫だから!」

一男「もう、知らないよ。あんたなんか。僕は、日本にいたくないから、出ていくよ。」

花子は、もうなにもいえなかった。すすり泣くだけであった。

蘭「しかし、一人で彼が暮らすことができるとしても、マスコミが本当にすごいですからね。難しいんじゃないかなあ。」

杉三「じゃあ、こうしたらどうですか?」


数日後、花子がくちばしをつけている写真とともに、ペスト菌により、浩得が死亡し、一男は助かるという記事が、すべての新聞の一面を独占した。テレビでもコメンテーターを多数呼び寄せ、軍人の会議のようなニュースが次々に流れ出た。

そんな中、一人の男性が、成田空港から飛び立っていった。受け付け係は、佐藤一男という名前をきいたが、話題になっていた佐藤一男とは、全く違う顔をしていたため、佐藤という名字は、日本では一番多い、という発言を信じ、飛行機にのせてしまった。








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