第26話 『小学校卒業』

 ついに卒業の日がやってきた。

千鶴のピアノはいつにも増して絶好調で緊張してミスするようなこともなく完璧に弾き切った。

卒業証書を受け取って、みんなで写真を撮って……。


 それから、珍しいことに風華が在校生代表でスピーチしていた。

ちょっと気恥ずかしかったけど立派なスピーチだったと思う。

やっぱり、風華は変わろうとして頑張ってるんだ。


「堂々とあんなこと言っちゃって、かっこよかったよー」


「それはどうも」


 誉めてあげてるのにツンケンした態度は相変わらずだな。

そこへ千鶴が駆け足でやってくる。

手には愛用しているというピンク色のカメラが握られていた。


「せっかくだから写真撮るよー!」


「はーい!」 「なんで僕まで……」


 千鶴がカメラのレンズをこちらにむけて三人で写真を撮った。

私と千鶴の写真もたくさんあるし、風華と私の写真もたくさんあるんだろうけどこの三人の写真撮るのって初めてじゃないかな。


「風華くん、スピーチすごかったね」


「ありがとうございます」


 あれれ、私と千鶴に対する態度が違いすぎやしませんかね?

む、もしかして身内以外にはあんな感じなのかな。


「すごい感動しちゃって泣きそうになっちゃった。せっかくの卒業式だから笑顔のままでいたかったんだけど顔面崩壊しちゃったもん」


「え。まじですか。もっと泣けない風にしたほうがよかったかな」


 冗談を交わし合う微笑ましい光景。

そのメンバーの一人は我が毒舌ブラザーである。

信じられない。 本当に。


 そしてそんな風華と千鶴のやり取りを見て舌打ちしている女子の軍勢が少しはなれたところにいた。

お兄ちゃんの血を引いてるだけはあるな。

冷や汗が頬を伝った。


「あや。ちょっと報告したいことがあるんだけどいいかい?」


 背後から肩に置かれた手をみて振り返る。

そこにはちょうどいい感じに痩せてイケメンの風貌になったのにどよーんとした雰囲気を醸し出している男の子。

うん、なんとなく察しはついたよ。 どんまい。


「初恋は叶わないっていうし次があるって。羽柴君モテそうな顔してるし千鶴はちょっと鈍感だっただけだから」


「そういう問題じゃないよ~」


 昨日、千鶴の下駄箱にラブレターが入っており、返事の手紙を書いたのは私も知っているし、指定された下駄箱——私の下駄箱を使ってラブレターを書いた人に断りの返事が来ているのも知っている。

どうやら羽柴君がラブレターを書いた張本人だったらしい。


「それに羽柴君、名前書いてなかったじゃん。あれじゃ誰がくれた手紙なのか分からないし、得体のしれない輩と千鶴が付き合うわけないでしょ」


 得体のしれない輩と付き合わせるわけがない、主に私が。

というか私に告白します! と報告しておかなかった羽柴君が悪い。

羽柴君だと分かっていたらもう少しオブラートな返事書かせたのに。


 千鶴にはラブレターが届いたときの対策をしっかり学習させてある。

しつこい相手になっても困るため気弱さはみせずにきっぱり断る。

なので返事の手紙の内容はやや物騒。


「さ、流石は団長」


 流石の副団長も引いたらしい。

もう少し改正してオブラートにしとこっかな。


「というか今、直接告白しちゃえば」


「え?」


 おお、いい案を思いついた。

我ながら冴えてますな。


「よし、それがいい。そうしましょう。そうしましょう」


「ええええええ!? きゅ、急すぎるよ! まだ心の準備もできてないのに無理だよ絶対に無理だって!」


「羽柴君のかっこいいとこ見てみたーい」


「棒読みだよね! 絶対あや面白がってるでしょ!」


 真っ赤になる姿は可愛かった。

ほうほう、これはなかなかいじりがいがあるではないか。

騒いでいると千鶴も気づいたようでこちらに寄ってくる。

ついでに隣にいた風華も。


 風華がついてくると面倒だな。

仲介人が私一人ならともかく。

ここは二人っきりというシチュエーションを作ってみよう。

羽柴君なら仮に千鶴がおーけーしてもギリギリ許せるからね。

まあ会うたびに舌打ちするかもしれないけど。


「風華、帰るよ!」


「もう帰るの? というか腕掴むな、痛い!」


 あとは任せた。

私は風華を強制連行してそのまま車に乗り込む。

結果はあとで千鶴にラインで聞こう。


「にしても姉ちゃんがもう兄ちゃんと同じ中学生か」


「なに? 私が中学生になると風華になにか悪いことでもあるの?」


「同じ学校に通うからには姉ちゃんがやらかしたら迷惑になるかな」


 いつからこの子は正論を言うようになったのかしら。

それも私が心配するはずだったことだし!

私、優等生だからね!? 風華みたいな問題児じゃないから!


「こないだ姉ちゃんの担任の先生に弟君は落ち着いてるんですね、彩華さんは慌ただしくってぬけてますからサポートしてあげてくださいねって言われたばっかりなんだけど」


 おい担任。 余計なことを言うんじゃない。

じと目で私を見てくる風華からの視線を避けつつ私は窓の外に目をやる。

ふん。 今に見てろよ風華、絶対に敬わせてやる!


8.風華になんて負けない!

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