第22話 『弟が行方不明になりました』

『風華が連れ去られた!?』


「うん、それで龍我さんがどこに向かったのか分からなくって」


 支払いが足りて助かった。

けど、お金も返してもらわなきゃだし。

風華も取り返さないとだし。

荷物も重たいしで私はボロボロだった。


『待ってろ。今そっちに行くから』


「お願いします」


 お兄ちゃんに電話をかけてスーパーのベンチで待つこと十分。

全速力で走ってきたのか息を切らしたお兄ちゃんが現れた。


「ど、どどどどうしよう。風華大丈夫かな!?」


「暴力沙汰にはならないだろうが、風華が挑発しすぎてたらまずいかもな」


 短気そうだし、風華とは絶対合わないタイプだもんね。

そもそも風華と気の合う人って相当少ないと思う。


「風華コテンパンにやられちゃうよ」


「コテンパンってきょうび聞かないが……ともかく、会話の流れだと風華が連れてかれたのはバスケットゴールのあるところだろ。学校のグラウンドか、公園かどっちかだろうな。手分けして探そう」


「う、うん」


 何気に荷物を持ってくれるお兄ちゃんの優しさ。

これがモテる男とモテない男の差というやつか。

お兄ちゃんと風華の違いを垣間見た気がするな。


 お兄ちゃんと相談して、私は公園を探すことにした。

スマホはお兄ちゃんが持ってきてくれたので公園に風華たちがいた場合、すぐに連絡するよう言われた。 便利な世の中になったものだ。


「お兄ちゃん荷物半分持つよ?」


「いや、いいよ。それじゃ見つけたらすぐ連絡してくれよ」


 おお。 璃子が惚れるのも納得できる。

我が兄ながら立派だ。

というようなやり取りを最後にお兄ちゃんと別れて公園への道をトボトボ歩く。


 少しだけ夕日が傾き始めて静けさを伴う夜に変わろうとしている頃合いだった。

そういえば、前もこんな時間に歩いたことがあったような。

千鶴とスケートに行ったときだったかな。 懐かしいなぁ。


 気ままに散歩しているところ男子に追われていた千鶴と会って、そのままスケートに行ったのを記憶している。 何年前のことになるだろうか。 

千鶴とよく遊ぶようになったのはあの出来事以来だ。


 あの頃の千鶴は今よりも大人しめでどこか近づきにくい雰囲気を漂わせていた。

ピアノが上手で天才肌の少女。 私の中で出来上がっていた彼女の印象はあの日を境に崩れている。 千鶴だって普通の女の子だ。


 特別な才能があったとしても、風華のように自分に自信を持って過信し、他人を信じない孤独型とは違う。


 千鶴は私の大親友だ。

可愛くって、女子力高めで、ピアノが上手で音楽が好きな。

大事な、存在なんだから。


 前にクラスメイトがこんな陰口を叩いていたのを聞いたことがある。


「千鶴ちゃんってさ、絶対彩華ちゃん利用してるよね」


「どっちもすごいと思うけどさ、彩華ちゃんはボーイッシュな感じだから千鶴ちゃんがお姫様じゃん。実際にモテてるのって千鶴ちゃんだし」


「実は性格悪かったりして。悪女ってやつじゃない?」


「えー、あの天使の千鶴ちゃんに限ってそんなことないって」


「漫画とかアニメとかでいるじゃん。そういうキャラ」


「影響されすぎでしょ。ないない」


「でも彩華ちゃんかわいそー」


「見比べられちゃうもんねー。相当自分に自信ないと無理だって」


「あの二人小さい頃から仲いいし、今さら離れられないんじゃない?」


「あー、親の付き合いもあるしね。めんどくさ」


「あ、そういえば千鶴ちゃんちって離婚してるらしいよ」


「そうなの!? 初耳!」


「本当にお姫様じゃん。主人公とかなれそー」


「だから影響されすぎでしょ」


 千鶴の親が離婚しているのを知ったのはその時だった。

どうして自分に話してくれなかったのか少しだけ不安になった。

でも、それは一時だけで、千鶴の無邪気な顔を見て吹っ切れた。


 誰にだって隠し事はあるんだ。

私にだって誰にもいえない秘密がある。

それと同じで、身近にいる人にほど打ち明けられない秘密もある。

もしかしたら風華にも……。


 冷たい風が頬を掠める。

まだ一月だし、寒くても仕方ないよね。

ぼんやりと視界の隅に街灯が目に入った。


 あれは公園の街灯だ。

それから、ボールをつく特徴的な音。

お兄ちゃんが朝練でボールをつくとよく響くから馴れた音だ。


 こっちにいたんだ。

バスケットゴールが見えてくる。

そして、ちょうどゴールにシュートを決めた龍我と目が合った。

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