第19話 『占い』

「さあ、今日こそ私の勝利っ!」


「勝利とかないから姉ちゃん。たかが占いだろ」


「そう言って風兄も毎朝見てんじゃん」


「ご褒美があるから仕方なくだよ」


「運でご褒美がつくってのもどうかと思うんだが」


「しょうがないよ、発案者は姉だもん」


「お兄ちゃんだって面白いって賛成してくれたじゃん!」


「それは、そうだけど」


 冬休みを終えた私たち桃華家には新たな日課ができていた。

毎朝、放送される情報番組の星座運勢占いで一番上の順位を取った星座の人がご褒美としておやつをもらえる。


 これは受験勉強に勤しむなかでついつい夜食を取ってしまい、体重計に乗ることが恐ろしくなってきた私が提案したものだ。

占いは割と信じる主義なので、神から私に運命が下されたのだ、と思って日々、ドキドキしながら過ごしている。


 おやつが食べられない日は一日中、ネガティブになるけど逆に食べられるとテンション上がりまくる。

全力で羽柴くんの恋路を邪……応援してあげようと思えるほどだ。


「お母さん! 今日のおやつは!?」


「昨日はアイスだったし、今日はポテトチップスでどうかしら」


「よっしゃー! 俄然がぜん燃えてきたああっ!」


「姉ちゃん、食のことになるとキャラが濃い……」


「しかも、姉のやる気は朝から、ずっとじゃん。俄然じゃないし」


 風華と雪華が冷たい眼差しをむけてくるが私は気にしない。

そんな中、テレビのお姉さんが占いコーナーを始めようとしていた。

慌ててテレビの前に正座して待つ。


『本日の星座占いは、一位かに座!』


 そして、崩れ落ちた。 風華が嘲笑するように鼻を鳴らす。

雪華は風華にむかって胡散臭うさんくさそうに顔を顰め、お兄ちゃんは黙って肩を竦めて私の頭をくしゃりと撫でた。


 その対策はしっかりできているぞ、お兄ちゃん。

なぜなら私はまだ髪を結んでいないからだ!

一生懸命、手入れしながら伸ばした髪は腰ぐらいまである。


 小学校では、特に髪形の決まりはないので、お団子や三つ編みもできる。 (あまりに珍奇すぎると怒られるけど)

しかし、中学はそうもいかずに色々な決まりがあるらしい。

耳朶より上で縛るとか、編み込み禁止とか。


 毎日、計画を立ててこの日はこの髪型! とか決めてたのに残念だ。

休日の髪形が重要になってくるな。

うーむ、と思いにふけっていたところ、風華に背中を思いっきり叩かれて我に返った。


「なにすんの!」


「時間を教えてやった優しい弟に言う台詞がそれかよ」


「げっ、遅刻するっ」


 慌てて立ち上がり、ランドセルを背負う。

玄関で靴を履いていた風華を急かして、ちゃっちゃと出発する。

家を出た途端、先に出て行ったはずの風華を呆気なく追い抜いて私は学校に向かう。


 走ってるわけでもないのに、風華は歩幅が小さいのかな?

そういえば身長を伸ばそうとして牛乳をがぶ飲みしていた気がする。

あれって迷信じゃないのかな。


 私の背丈は平均身長ピッタリぐらい。

もうちょっと欲しいぐらいの身長だ。


 ただ、六年生ともなると、男子はぐんと伸びてくる。

五年生の時から予兆があった男の子もいたし、風華も身長伸びたりするのかな。 風華に身長抜かされるって変な感じするけど。

お兄ちゃんもそれほど小さいほうではないし、大丈夫だろう。


「おはよう、彩」


「おはよ、千鶴! 待った?」


「ううん、全然。 私も今ついたとこだよ」


 デートの最初みたいな会話を交わしながら千鶴と一緒に並んで歩く。

千鶴は平均よりも少し小さい。

顔も小さいし、手も小さいし、指も細い。


 女の子の鏡みたいだなぁ、とこの頃思うようになっていた。

女子力も高いし、可愛いし、性格いいし、男子が放っておくわけもないよねぇ。


 あー。 そういえばの羽柴くんは一向に恋愛が発展する様子はなし。

少し痩せたぐらい、かな。 身長も変わらない。

フォローできないところが悲しい。

しかも、女子の間で私との関係が噂されてるのも更に悲しい。


「ピアノどう?」


「うーん、順調とは言い難いけど頑張るつもり」


「クリスマスのコンクールも終わったし、これから打ち込めるんじゃない?」


「……そうだね。頑張る」


 千鶴はなぜか、少しだけ目を伏せた。

気になったけど、千鶴が言葉を先に紡いだ。


「そういえば、彩。羽柴くんとはどうなの?」


 悪戯げに瞳を光らせて千鶴は私の顔を覗き込む。

妙に引きつった笑顔に違和感を感じながらも私は返答した。


「なんともないよ」


「えー、本当に?」


「本当に。なにもないの」


 千鶴の様子に不信感を覚えながらも私は何も問いかけることのできないままでその日の朝は終わった。

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