第18話 『自称ライバル』

 黄零きれい 龍我りゅうが

小学校からバスケの強豪チームに所属し、中学はそのまま公立のバスケ部に。 推薦はあちこちからきていたが彼の想い人がその学校に入学していたために追いかけてそのまま入学。


 しかし、彼の初恋は入学初日に呆気なく敗れる。

初恋の人に彼氏ができていたという事実。

それでも諦め切れない彼は彼女に猛アタックするが玉砕。


 バスケの試合で桃原ももはら 連華れんかと出会い、彼に興味を持つ。 当時の彼はグレちゃった状態で素行も悪い。

これには初恋に敗れたことが原因とされている。


 連華に負け、それ以来、連華をライバル視。

これがきっかけで白石鳥の高等部に入学することを決める。


 高校に入るにあたって、入学式時に青柳あおやなぎ りんと出会い、彼女に惹かれていく。

しかし、このままでは初恋の時のように玉砕するだけでは? と考え、初恋の人が選んだ男のような学校の人気者で穏やかな性格を演じることにする。


 こうして『ラブデイズ』のあの人・・・が誕生するわけだが、中学時代までの彼は髪を金色に染め上げ、ピアスをしている。

この頃のデザインの方がファンの間では人気が高かった。


 しかし、流石に白石鳥では黒髪に戻し、ピアスも辞めている。

それでもときどき出てしまう本性はブラックモードと呼ばれ、そのギャップが人気の秘訣でもある。


 現在はまだ普段からブラックモードなのだろう。

生で見れるなんて最高! と思いたいところだが実際に会ってみると厳つくて怖い。 お兄ちゃんよりも目つき悪い。 いや、悪くしてるのかな?


「なぁ、聞いてんの?」


「き、聞いてます! えと、お兄ちゃんなら――」


 お兄ちゃんを呼ぼうとして振り返ると背後から手が伸びてきた。

見ると、お兄ちゃんがドアを左手で持って私ごと龍我と向かい合っている。


 あれ!? 逃げるに逃げられない!?


「誰かと思ったら龍か」


「腕、大丈夫なのか?」


  あれ、思ってたより親しげで——。


「お前はオレが潰すんだから絶対完治させろよ!」


 違った。 完全にライバル意識してやがった。

お兄ちゃんは苦笑を張り付けて龍我を見ている。

あの~、家の中に帰らせていただいてもよろしいでしょうか。


 風華と璃子の間にいるよりも迫力があって怖いの。


「分かったよ。 というか今日って練習試合じゃなかったか?」


「はあ? お前がいない白石鳥なんて雑魚の集団だ。 オレがいくほどじゃねえよ」


 お兄ちゃんの額に青筋が浮かんだ。

あ、やばい。


「その雑魚の集団に一度も勝ててないのは事実だろ?」


「お前がいるから勝てないだけだ!」


「実際に試合してみなきゃ分かんないだろうが」


 声を荒げる龍我とは違って、お兄ちゃんの声は比較的、穏やか。

が、お兄ちゃんの声は冷めきっていて逆に怖い。


「そこまで言うならボコボコに潰してやんよ」


 やっと帰ってくれるみたいだ。

よかったぁ。


「騒がしいけど誰が来たの?」


「また璃子ババア?」


 そこへやってくる毒舌弟妹きょうだいたち。

ああ、嫌な予感しかしない。

龍我はピタリと凍り付いていた。


「は、いや、まさか連がもうその領域に達していたなんて……」


 うわ、変な勘違いされてる気がする。

お兄ちゃんも感づいたのか慌てて否定する。


「兄弟だ、妹と弟」


「なんだよ、びっくりした」


 龍我さん、意外とドジ?

噴き出しそうになるのをなんとか堪えて龍我を見ると睨まれた。

あれ、心の中を読まれた!?


「カノジョじゃないのか。 なんだよ」


 脱力したように龍我が肩を落とす。

ん? なぜに落胆?


「蓮に先越されたかと思った、ったく」


 それで余計に苛立ってたとかないですよね。

どんだけリア充に恨みがあるんだよ、この人。


「ま、連にカノジョができるなんてないよな」


「失礼すぎるだろ。 オレだって恋愛ぐらいしたことある」


「見栄を張るな。モテないのバレバレだ」


 龍我がヒラヒラと手を振る。

お兄ちゃんは肩を竦めて見せた。

その言葉にイラっときたのはお兄ちゃんではなくうちの精鋭たちだ。


「アンタよりはマシだろ」


「蓮兄モテるし! かっこいいし!」


 今度は龍我の額に青筋が浮かんだ。

風華と雪華が仁王立ちして龍我を睨みつける。


「髪まで染めちゃってさ」


「影響されやすすぎでしょ」


「このクソガキども!」


 風華と雪華に掴みかかろうとした龍我をお兄ちゃんが制止する。

龍我の顔がお兄ちゃんの顔をすれすれの距離にあった。

背丈の大きい二人に挟まれる形で私が残る。


 あの、私、何も悪いことしてないよね?

龍我はしばらくしてから鼻を鳴らして帰って行った。

できればもう会いたくない人物に遭遇してしまった一日だった。


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