取り敢えず初詣には行けたのよ!

 私は箕輪まどか。高校生にして、優れた霊能力を持つ美少女である。


 あのね……。


 急に思いついたように自己紹介で遊ばないでくれる? 何があったのよ?


 


 恐怖の大王にも勝る我が母によって、大晦日も三が日も全部吹き飛ぶと思われたまどかだったが、サヨカ会残党が残した闇の仏具の件が進展したので、何とか最悪の事態は免れた。


 霊感親友の綾小路さやかが気を利かせてくれて、


「年末年始は霊感課の捜査で忙しくなります」


 そう言って、母を説得してくれたのだ。持つべきものは親友だと思ったまどかである。


「感謝しなさいよね」


 さやかに恩着せがましく言われたのは癪だった。


「全部聞こえてるんですけど」


 またさやかに心の声を聞かれたらしい。


「大久保君に言いつけるぞ」


 私は脅かしてみた。大久保君とは同じクラスの男子で、さやかの片思いから両思いに発展し、遂に付き合い始めた。


「や、やめてよ!」


 さやかが心の声を自由自在に聞ける事を大久保君が知れば、破局を迎えるのは必至だからだ。


 我ながら嫌らしい事を思いついたと思うが、さやかはそれくらい脅かさないと怯まないのだ。


「そこ、うるさいわよ。ここは公道なんだから、もっと静かに歩きなさいよ」


 小学校からの親友である近藤明菜に窘められてしまった。


 今、私達は初詣に向かっている。場所は恒例の厄除地蔵尊だ。


 総勢十名という大所帯になった箕輪まどかと愉快な仲間達である。


「何よ、それ?」


 またさやかが聞きつけて半目で私を見る。


 私と彼の江原耕司君。そして、明菜と彼の美輪幸治君。さやかと大久保君。


 更に江原ッチの妹さんの靖子ちゃんと肉屋の力丸卓司君。


 それから、気功美少女の柳原まりさんと中学の後輩である坂野義男君。


 少し前まではさやかが余っていたのだが、今回は全員カップルという組み合わせだ。


「余っていたなんて酷い事言わないでよ」


 さやかが目を潤ませて抗議した。私は苦笑いして、


「ごめんごめん」


 手を合わせて謝罪した。


 思えば、昨年の元日もお地蔵様に初詣に行き、小学生の時に成仏させてあげた男の子の霊と再会した。


 七福神の力を巡って、今は仲間である神田原明鈴さんと戦ったのも懐かしい思い出だ。


 あれれ? 何だか走馬灯のように過去の事が甦って来るなんて、ちょっと不吉な予感だが、気にしないでおこう。


「あ」


 地蔵尊の入口である山門の前に例の男の子の霊が立っていた。


 私達に気づき、手を振っている。嬉しそうだ。


「一年ぶりね。どうしたの、今回は?」


 私は男の子に駆け寄って声をかけた。周囲を歩いている参拝客達が奇異な目で私を見るが、全然気にならない。


「どうもしないよ。只、今日は姉ちゃん達がここに来るってわかってたから、待っていたんだよ。お礼も言いたかったし」


 男の子は屈託のない笑顔で言った。生きていれば、エロ兄貴より年上のはず。そう思うと、何だか切ない。


「会えて嬉しかったよ。また来年も来るよね」


 一頻ひとしきり話し込んだ時、男の子が言った。


「もちろん。また話そうね」


「うん。その頃までに、姉ちゃんのオッパイ、もっと大きくなっているといいね」


 思わぬセクハラ発言に私は絶句してしまった。


「大きなお世話よ!」


 何故か涙がこぼれてしまった私は、天へと昇っていく男の子の霊を見上げて言い返した。


「元気でねえ」


 彼は手を振りながら、空の彼方に光と共に消えて行った。


「まどかりん、俺はまどかりんは巨乳だと思っているからね」


 何を思ったのか、突然江原ッチが耳元で囁いた。


「はあ?」


 私は呆気に取られて江原ッチを見た。江原ッチなりに私を気遣ってくれたのかな?


 ふとさやかと明菜を見ると、確かに私より胸が大きい。まりさんは言うまでもなく、靖子ちゃんにすら負けそうな気がする。


 落ち込みそうになるまどかである。


「ああ、江原君だ!」


 つり目のツインテール女子が現れた。江原ッチと同じクラスの原田ひかるさんだ。


 クラスメートというだけならいいんだけど、彼女、露骨に江原ッチにアタックして来るのだ。


 しかも、始末が悪い事に江原ッチはそれを何となく喜んでいる節がある。


「あ、原田さん」


 以前は「ひかるん」とか 呼んでいて、それはやめさせたのだが、まだどことなく嬉しそうな顔をするのは改善されていない。


「偶然ねえ。こんなところで会うなんて。私達、赤い糸で結ばれているのかしら?」


 どこまでもマイペースな原田さんはどんどん江原ッチに接近し、いつの間にか腕まで組んでいた。


 そこまで図々しいと、呆気に取られて言葉もない。


 原田さんも酷いが、彼女の手を振り払わない江原ッチも最低だ。


「お兄ちゃん、ちょっと!」


 私が動く前に、お兄ちゃん子の靖子ちゃんが江原ッチに詰め寄った。


「あら、妹さんね。江原君に似て、可愛いわね」


 物怖じしない原田さんは、笑顔全開で靖子ちゃんを見た。


 全開とは言っても、我がお師匠様には遠く及ばない。


「あの、兄はまどかお姉さんと付き合っていますので、その……」


 靖子ちゃんがそこまで言いかけると、


「あはは、冗談よ、妹さん。そんなのわかってるって。じゃあねえ、江原君」


 原田さんはケラケラ笑いながら、江原ッチに投げキスをして立ち去ってしまった。


 一体何なのよ、もう……。


「寂しい人なんだね、あの子」


 まりさんがぼそりと言った。すると坂野君も頷き、


「何となくわかります。あの人、僕と同じです。居場所がないんですよ、きっと」


「え?」


 私も江原ッチも、そしてさやかや靖子ちゃんまでも、驚いてまりさんと坂野君を見た。


「気の流れでわかったの。彼女、家に帰ると誰もいなくて、朝起きると誰もいないという生活をずっと続けているみたいなの」


 まりさんが説明してくれた。


「僕はあの人の醸し出している雰囲気が以前の僕とそっくりだったから、何となくわかっただけですけど」


 坂野君は謙虚に言った。


 霊能者四人が揃って気づかなかった事を見抜いた二人。ちょっと衝撃的だ。


「恐らく、原田さん自身、自分の寂しい気持ちに気づいていないんだと思う。だから、霊感では感じ取れなかったんじゃないかな」


 まりさんが言った。


「そうなんですか」


 ここぞとばかりに世界平和へのお題目を唱えた。途端に冷たい視線が集中して来るのがわかる。


 今度から、原田さんにはもう少し優しくしようと思うまどかだった。

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