新学期早々てんやわんやなのよ!
私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。
今まで、冬休みが早く終わってくれないかと思った事など、小学生以来一度もなかった。
しかし、今年は違った。一刻も早く学校に行きたいと切に願った。
理由は簡単だ。家にいると、鬼母が顔を合わせるたびに、
「二学期の復習は終わったの?」
耳にタコができるほど言い続けたからだ。
外出はG県警霊感課の任務以外は禁止されたので、逃走する事もできない。
ドランク○ラゴンの鈴木○さんのようにドロップアウトしたかった。
ところで、ドロップアウトって何?
そして、待ちに待った三学期。これ程嬉しい事はない。
まさにア○ロ・レイの心境だ。
「真っ直ぐ帰って来るのよ、まどか。帰ったら、復習の続きだからね!」
母が背後で叫んでいるのを完全に無視して、私はバス停へと走った。
「おはよう!」
いつものメンバーと顔を合わせ、挨拶した。
彼の江原耕司君、親友の近藤明菜、その彼の美輪幸治君、肉屋の力丸卓司君、気功美少女の柳原まりさん。
みんな、揃っている。
「ちょっと!」
泣きそうな顔で綾小路さやかが私を睨む。
「お約束の事でしょ、本気にしないでよ」
私は苦笑いして言った。そうは言っても、さやかは本当は彼になった大久保健君と通学したいはずなのだ。
でも、私との友情を優先してくれたのである。
「恥ずかしいからやめてよ」
さやかは柄にもなく顔を赤らめて呟いた。
「そういう事を考えるのがあんたの悪いとこなのよ!」
またさやかに突っ込まれた。
「何度も言うようだけど、あんた、心の声を聞かれないようにした方がいいよ。絶対に危ないから」
さやかは真顔で忠告してくれた。
「そうは思うんだけどさ、どうしたらいいのかわからなくて」
それは嘘ではない。実際、何をすればいいのか見当もつかないのだ。
「親父に相談してみたら?」
やり取りを聞いていた江原ッチが言った。
「そうなんですか」
ここぞとばかりに世界に平和と安寧をもたらすお題目を唱えた。
さやかと江原ッチの視線が突き刺さるようだ。でも、私は負けないのだ。
高校の前に着いた。バスを降りるなり、校門の前にいた一団に私達は取り囲まれた。
「何、何?」
思わず後退り、身構えてしまう。その一団はたくさんの男女の生徒で、泣きそうな顔で並んでいた。
「一体何の騒ぎなの!?」
明菜が一歩前に出て大声で叫んだ。すると一番前にいた女子が、
「実は、初詣に行って神社で皆と記念写真を撮ったら、霊が写っていたの!」
悲鳴に近い声で告げ、持っていた携帯電話を差し出した。
「い!」
途端に明菜は私の背後に隠れた。霊感課のメンバーなのに霊が怖いのだ。
「まどか、お願いね」
如何にも管轄違いだという顔で言ってのける明菜に半分呆れながら、差し出された携帯の画面を見た。
「何だ、これは霊じゃないよ。神社の聖なる力が貴女に降りて来ているんだよ」
私の代わりにさやかが答えてくれた。その通りだ。
彼女の周りに光のような輪が写り込んでいるのだが、霊ではない。むしろ、ありがたい輝きだ。
「今年はきっといい事あるから、毎日いろいろなものに感謝の気持ちを忘れずに過ごすといいよ」
江原ッチが言い添える。
「ほ、ホント?」
泣きそうだった顔がパアッと晴れやかになった。ちょっと江原ッチの話は大袈裟だけど、人間、気の持ちようなのは確かだから、前向きに生きた方がいいはずだ。
「お、俺のは完全に幽霊だよね? やばいよね?」
次に野球部の男子が震えながら携帯を差し出した。画面を見ると、そこには確かに霊が写っていた。
「心配ないわ。それは貴方のお祖父さんよ。たまには家に遊びに行ってあげて。寂しがっているわ」
私が言うと、その男子はムッとして、
「ジイちゃんはまだ生きてるよ!」
「わかってるわよ。お祖父さんの貴方を思う心が強くて、生霊として貴方のそばに来たのよ。大好物の○村屋の漬け物を持って遊びに行くといいわ」
私はドヤ顔で教えてあげた。その男子はお祖父さんの好物を言い当てた私を目を見開いて見ている。
「じゃあ、次、私ね!」
そんな事がしばらく続き、余裕を持って着いたはずなのに、遅刻寸前になってしまった。
それでもまだ行列は途切れなかったので、
「また後でね」
私とさやかと江原ッチは追いすがる人達を振り切って玄関に走った。
携帯を持っている彼等は、そのまま学校に持ち込むと没収なので、追いかけて来られない。
私達はホッと一安心して、玄関に入った。
「箕輪さん、ちょっといいかしら?」
ところが今度は坂田郁代先生が現れた。
「はい?」
一瞬、ギクッとしてしまう。何しろ相手は生徒指導の先生。
何か思い当たる事はと考えてみたが、わからない。
「まどか、観念したら?」
さやかがニヤリとして囁いた。すると、
「綾小路さんも一緒に来て」
坂田先生が言ったので、さやかはギョッとした。
「俺は?」
江原ッチが物欲しそうに言うと、
「貴方は来なくていいわ、江原君」
坂田先生の無情な一言に江原ッチは固まってしまった。
そこで、私とさやかは坂田先生の相談事がわかった。
「先生、背中に何かできたのですね?」
さやかが声を落として尋ねた。坂田先生はビクッとして、
「わ、わかるの?」
「ええ、もちろん」
私とさやかは顔を見合わせてから頷いた。すると坂田先生はホッとした顔になり、
「じゃあ、お昼休みに相談させてね」
そう言って、職員室に歩いて行った。
「そんな悠長な事を言ってて大丈夫かな、さやか?」
私は先生の背中に取り憑いているものを見極めて、さやかに言った。
「取り敢えず、大丈夫でしょ。それほどの霊威は放っていないから。今は刺激をしない方がいいわ」
「そうね」
私とさやかは固まって動かない江原ッチをそのままにして、教室へ急いだ。
波乱の幕開けだと思うまどかだった。
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