遂に黒幕の正体がわかったのよ!

 私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。


 いろいろあった二学期も終了し、冬休みに突入した。


 だが、私にはクリスマスイブもクリスマスもなかったし、年越し蕎麦さえない事が確定している。


「当たり前です。このままでは、二年生になれないかも知れないのですから」


 我が母は鬼の形相で告げた。


 二学期の成績が見るも無惨な結果だったからだ。


「はい」


 私は取り敢えず打ちひしがれたフリをして応じた。


 殊勝なところを見せないと、母は許してくれないのだ。


「初詣だけは許可しますが、それ以外は一切外出禁止です」


 母は朱色で半紙に書いた「外出禁止」を私の部屋のドアに張り付けた。


 だが、実は「止」という字が間違っている。「上」になっているのだ。


 頭に血が昇り過ぎてのミスだと思うが、指摘をしたら火に油なのでできない。


 母のあまりの怒りように父はすっかり恐れおののき、会社の忘年会も具合が悪いと言って欠席したらしい。


 ごめんね、お父さん。まどかのせいだね。今度一緒にお出かけしようね。


 え? 父親にすり寄って味方にしようとしているだろう、ですって? う、うるさいわね!


 そんな事ないわよ!


 こんな時、兄貴から緊急連絡が来ればいいのだけれど、などと思ったからなのか、いきなり携帯でスチャラカな着メロが鳴り出した。項垂れている間もなく、私は通話を開始した。


 神様はいる。そう思った瞬間だった。


「はい、まどかです」


「どうした、まだ母さんの説教は続いているのか?」


 兄貴が愉快そうに訊いてきたが、突っ込んでいる場合でもない。


「緊急指令ですね、課長」


 よそ行きの声で尋ね返す。すると兄貴は、


「そこにいるのか、母さん? まあ、いいや。天の助けだと思ってよく聞け」


 癪に障る言い方だが、我慢するしかない。


「闇の仏具の出所でどころがわかった。すぐに江原邸に集合」


「了解しました!」


 私は敬礼して、心の中でガッツポーズをし、


「という事なので、出かけます、お母さん」


 悔しそうな顔で私を睨んでいる母に敬礼して、家を出た。




 自転車で彼氏の江原耕司君の邸に到着すると、すでに親友の近藤明菜も、その彼の美輪幸治君も来ており、まだなのは肉屋の力丸卓司君だけだった。


 やがて、リッキーは兄貴が運転する大型パトカーで現れた。お姉さんのあずささんも一緒だ。


 兄貴め、リッキーにかこつけて、ちゃっかりあずささんを助手席に乗せてきたりして。


 まあ、仕方ないか。鬼母から助けてもらったんだから。


「集まりましたね。では、道場へどうぞ」


 江原ッチのお父さんの雅功さんとお母さんの菜摘さんが出て来た。


 


 道場へ行くと、そこには西園寺蘭子さん、小松崎瑠希弥さん、八木麗華さん、神田原明鈴さん、神田原明蘭さんがいた。


 半端ではない緊張感が漂っている。私は廊下の途中で合流した綾小路さやかと顔を見合わせた。


 同じく廊下で合流した柳原まりさんは落ち着いた表情をしている。さすが、気功少女だ。


「闇の仏具を造った者の正体が判明しました」


 蘭子お姉さんが口を開いた。その事は聞いているにも関わらず、私は生唾を呑み込んでしまった。


「私達がやっとの思いで倒して浄化した内海帯刀と同じ、内海一門を破門となった人物です」


 その言葉に私もさやかも江原ッチも妹さんの靖子ちゃんもまりさんも驚いてしまった。


「一応言っておくけど、その人はこの世にはいないから」


 蘭子お姉さんは苦笑いして私達を見た。すると麗華さんが、


「生きとったら、ホンマのバケモンやで。何しろ、そいつは、戦国時代の生まれやからな」


 ちょっとだけ愉快そうに言うところが麗華さんらしい。


「戦国時代?」


 私が言うと、明菜が小声で、


「今から四百年以上前の時代よ」


 それくらい知ってるわよ、と言いたかったが、「赤点先生」の異名を持つ私には何も言い返せない。


「名前は内海うつみ廉寛れんかん。帯刀と同じく、一門を破門された術者です」


 瑠希弥さんが言った。帯刀と同じ? その言葉にもビクッとしてしまった。


「まどかさんの感じた通りです。廉寛と帯刀は繋がりがあります」


 明鈴さんが引き継いだ。


「帯刀に闇の力を授けたのは廉寛です。彼はその時、帯刀に仏具を授けたようです」


 廉寛が帯刀に授けた? 怖くなってきた。


「もちろん、廉寛はすでに死者であり、直接二人が会った訳ではないです。正確に言うと、廉寛の残留思念が帯刀を呼び寄せたのです」


 明蘭さんの言葉はもっと怖かった。そんな長い間留まっている残留思念て……。


「廉寛一人の残留思念であればそこまで長くは留まれなかったでしょう。その後代々の跡継ぎになれなかった者達の怨嗟や憎悪が集まって巨大化したのです。その全てを受け継いだのが、帯刀でした」


 雅功さんが言った。


「まだいくつか不明な点がありますので、私達は引き続き調査をします」


 蘭子お姉さんが言う。菜摘さんが頷いて、


「そうですね。取り敢えず、錫杖しゃくじょう柄香炉えこうろは我が師匠の名倉英賢に浄化してもらいましょうか」


「そう言えば、独鈷は小倉、いえ、濱口冬子さんが持っているのですよね?」


 蘭子お姉さんが雅功さんに尋ねた。冬子さん。懐かしい名前だ。


 バカ兄貴が涙ぐんでいる。まだその気があるのか、このエロ男は?


「そうです。既に連絡は取ってあるので、お二人でこちらにいらっしゃいますよ」


 雅功さんが爽やかな笑顔で言った。今のを写メに撮って母に渡せば、少しはご機嫌が良くなるだろうかなどと不届きな事を考えてしまった。


「いよいよ、全部終わりますね」


 瑠希弥さんの言った一言に最終回を予感してしまうまどかだった。

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