遊び半分は危険なのよ!
私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。
霊感親友の綾小路さやかにもようやく真っ当な彼ができた。
同じクラスの大久保健君だ。これでさやかもあのもしかすると私の元カレだったかも知れない牧野徹君との事を引き摺る事もないだろう。
「引き摺ってないから」
またしてもさやかに心の声を聞かれてしまった。
「まどか、真剣に考えた方がいいよ。心の声がだだ漏れなのは危険だから」
さやかはいつになく真顔で忠告してくれた。
「そうなんですか」
だから私は世界平和を実現するためのお題目を唱えた。
「真剣に考えてないでしょ?」
さやかに半目で見られた。
私とさやかは、霊感課のホームページに寄せられた一般の方からの情報に基づき、ある廃屋に来ている。
近頃、取り壊される事なくそのまま放置された建物を探検するのが
実際、そういう場所には霊が集まり易いので、私達の立場から言うと、決して好ましい事ではない。
それにテレビ局が面白半分でお笑い芸人達を使って潜入させたり、大騒ぎしたりしているのを見ると、
「見えないっていいなあ」
そんな事を思ってしまうのだ。私達霊能者は、テレビ画面を通じてでも、霊が見える。
芸人さん達が大騒ぎしている場所には何もいず、彼等が一仕事終えて帰るロケバスの中にいたりするのだ。
霊というのは、誰かが見た場所に留まり続けるのではなく、その付近一帯を彷徨っている。
だから、霊感が強い事に自覚のない人が不用意に入り込んだりすると、その人の霊感に触発されて、霊が動き出し、その人に吸い寄せられるように取り憑いてしまう事がある。
「ここには何もいないよ、お兄ちゃん……」
一緒に来ていたはずの我が兄貴はいつの間にか廃屋から数十メートル離れた空き地に避難していた。
しかも、一緒に来ていた事務員の力丸あずささんの陰に隠れるようにして。
恥ずかし過ぎる。
女性の前では格好をつけたがる兄貴なのだが、恐怖がそれに勝ると恥も外聞もないようだ。
「慶君、大丈夫?」
心優しいあずささんは、震える兄貴を気遣ってくれた。
「まどか、もう帰ろうよお」
それでも兄貴は泣きそうな顔でそう言った。私は呆れ果て、
「ここには何もいないよ、お兄ちゃん。恐らく、遊び半分で来た人達に憑いて行ったんだよ」
すると兄貴は何とか正気を取り戻したらしく、
「あずささん、僕がついているから大丈夫だよ」
今更な事を言い出した。あずささんは本当に優しい人なので、
「ありがとう、慶君」
笑顔で応じていた。神対応とはこういうのを言うのだろう。
「どこの誰に憑いて行ったのかは探し出すのは無理ね。想像以上にここを訪れた人が多いから」
さやかは廃屋を見渡して言った。その通りだ。感じられる人数で恐らく百人を超えている。
実際はそれの何倍もの人達が来ているだろう。
そうなるとどの人に憑いて行ったのかはまず解明できない。
例え榊○リコさんでも不可能だと思う。
「取り敢えず、また霊が集まって来ないようにしておきましょうか」
私とさやかは印を結び、摩利支天真言を唱えた。
「オンマリシエイソワカ」
浄化の力が広がり、廃屋の中に澱んでいた重い気の塊が溶けてなくなっていくのを感じた。
本当なら、究極の浄化真言である
『無理よ、まどかお姉ちゃん。西園寺蘭子さんや神田原明蘭さんでさえ、たまには唱え切れない事があるんだから』
一気に現実に引き戻すような事を言う生意気な奴。
零歳児なのに優れた霊能者である我が姪の箕輪小町だ。
実は小町のテレパシーを仲介して、ある
私の彼の江原耕司君は、妹さんの靖子ちゃんと別の場所にいる。
何故私が江原ッチと一緒にいないのかと言うと、カップルに嫉妬する霊が多いからだ。
この組み合わせは小町の指示である。何となくムカつくのだが。
『さやかお姉ちゃんと耕司お兄ちゃんが一緒なのは嫌でしょ?』
小町が私の心の声を盗み聞いて言った。
確かにそうなので、何も言い返せない。
「私はまどかと一緒で嬉しかったよ」
さやかが不意に言った。私は思わず後退りした。
「あんたが普段よく言ってる冗談でしょ」
さやかはまた半目になった。苦笑いするしかない。
「
さやかが難しい英語を使って言った。
「いや、難しくないし」
あっさり言われてしまった。
江原ッチ達も浄化を完了したようだ。
『これでこの辺りは霊の吹きだまりにはならないわ。お疲れ様、まどかお姉ちゃん、さやかお姉ちゃん』
小町がねぎらってくれた。
「お兄ちゃん、この廃屋、出入りできないようにするか、お祓いした後で取り壊すようにしてもらって。そうでないと、また同じ事になってしまうから」
私はキリリとした顔が限界に近づいている兄貴に告げた。すると兄貴は、
「わかった。本部長に上申しよう」
ギリギリのところで真顔で言い切った。
「肝試しもいいけど、皆に迷惑がかからないところでして欲しいわね、全く」
パトカーに戻りながら、さやかが溜息混じりに呟いた。
「そうなんですか」
すかさず本日二度目のお題目を唱えた。
「恥ずかしくないの?」
さやかの冷たい視線に堪えながら、私はパトカーに乗り込んだ。
帰り道、まだ二学期の復習がすんでいない事を思い出し、家に帰るのが怖くなるまどかだった。
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