やっぱり蘭子お姉さんはすごいのよ!

 私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。


 私達が通学しているM市立第一高校の生徒会長だった上田博行は、かつて戦って壊滅させたはずの邪教集団であるサヨカ会の残党の家族だった。


 しかも、上田の母親の桂子はかなりの力を持った霊能者で、私達は彼女の罠に嵌ってしまい、バスで高速道路を移動中。


 そこへ、尊敬する西園寺蘭子さんが、七福神の力を授かったもう一人の仲間である坂野義男君を連れて現れた。


 ここからは私達のターン。そう思いたいまどかである。



「上田の母親、全然動揺していないね」


 私の彼である江原耕司君が桂子が操っている親友の近藤明菜を見て囁いた。


「ええ……」


 ハッタリで強がっているようには見えない。何か奥の手を用意しているのだろうか?


『まどかちゃん、バスを止めるわ。力を貸して』


 蘭子お姉さんが心に語りかけて来た。


 ここにいる皆の力を結集して七福神の力を繋ぎ、明菜を操っている桂子を追い出し、運転手さんを解放するのだ。


 蘭子お姉さんと私、そして江原ッチと妹さんの靖子ちゃんが同時に浄化真言である摩利支天真言を唱えた。


「オンマリシエイソワカ」


 さっきよりはるかに強い浄化の波動がバスを押し包んだ。


「その程度で何ができる!」


 明菜の顔をおぞましい形相にして桂子が私達を見た。


 真言はバス全体を取り巻いて浄化をしているのだが、明菜はおろか、運転手さんも縛りが解けた様子がない。


「そんな……」


 私は唖然としてしまった。蘭子お姉さんが加わって、不完全ながらも七福神の力も作用したというのに、桂子のかけた呪術を打ち破れないなんて……。


『まどか、まだ諦めるんやない! ウチらも来てるんやで!』


 何となく聞き覚えのある声が聞こえた。これは……?


「上か!?」


 桂子が明菜の顔を天井に向けた。窓から上空を見ると、ヘリコプターが接近していた。


「おお!」


 江原ッチと親友の美輪幸治君が、ヘリから身を乗り出している八木麗華さんに気づいた。蘭子お姉さんの親友だ。関西のオバさんも来てたんだ。


『まどか、ウチはオバさんやないで!』


 しっかり心の声を聞かれ、苦笑いする。


 麗華さんは以前と同じく、胸が半分見えている服を着ている。江原ッチは私がいるから我慢しているけど、明菜が操られていて、変に制御が効かなくなっている美輪君は嬉しそうだ。


 やっぱり、蘭子お姉さんにあの事を話そう。


「まどかりん、お願いだから、それだけはやめて」


 江原ッチは慌てて美輪君を抑え込んで涙目で懇願してきた。全く、男って奴は!


『もう一回よ、まどかちゃん!』


 蘭子お姉さんの声が心に伝わって来る。


「オンマリシエイソワカ」


 もう一度摩利支天真言を唱えた。今度は麗華さんも加わっている。


「効かないって言ってるだろうが!」


 桂子が明菜の身体を使って怒鳴り散らした。バスも止まらない。このままではバリケードを突き破ってしまう。


「裏蘭子がいなくなった西園寺蘭子など、恐れるものではない!」


 桂子はけたたましく笑った。


 そんな事情まで知っているの? これはまずいかも知れない。


 ところが、桂子は最後に、


「裏蘭子のいない西園寺蘭子など、残りカスだよ。まあ、西園寺一族自体がそうだけどね」


 ニヤリとして悪口を言い放った。


「え?」


 私と江原ッチはギクッとしてしまった。すぐそばに迫るバリケードの前には仁王立ちの蘭子お姉さんがいた。


 機動隊も坂野君も避難していたが、蘭子お姉さんだけは留まっていた。


「まどかりん、裏蘭子さんが帰ってきたの?」


 江原ッチが泣きそうな顔で尋ねる。私にも何が起こっているのかわからない。


「あ、あれは?」


 蘭子お姉さんの隣に美少女が現れた。この気は間違いない。


 気功少女でボクッ娘の柳原まりさんだ。でも、髪が長くて女の子っぽくなっている。


 何があったのだろう?


「蘭子さん、バスは私が止めます。敵に集中してください!」


 まりさんの身体から台風のような気の流れが巻き起こる。あれなら暴走する戦車も止められるかも知れない。


「おお、あれ、柳原さんなのか!?」


 美輪君だけではなく、江原ッチ、そして肉屋の力丸卓司君までデレッとした顔で叫んだ。


 本当に、男ってバカばっかり!


「上田桂子、貴女に私の一族の何がわかるの!? 何がわかるのよ!?」


 裏蘭子さんを上回る強烈な怒りの波動が蘭子お姉さんから放たれた。


「はああ!」


 まりさんが放った気がバスを停めてしまった。それがわかっていたので、私達は座席に座り、身構えていた。


 だが、明菜を操っている桂子にはわからなかったらしく、明菜の身体が前へと飛ばされそうになった。


「アッキーナ!」


 美輪君が明菜を抱きとめた、それと同時に二人に気づいたまりさんが気を纏わせて、衝突を和らげてくれたので、美輪君も明菜も怪我をしないですんだ。


「おのれ!」


 美輪君を突き飛ばし、明菜の身体を動かす桂子に、


「許さないわよ、上田桂子!」


 蘭子お姉さんの凄まじい怒りの波動がぶつかって来た。


「ぬわああ!」


 その波動は明菜に取り憑いていた桂子の霊体だけを弾き飛ばしてしまった。


『この借りは必ず返すぞ、西園寺蘭子!』


 倒れかけた明菜を美輪君が素早く抱き止めた。江原ッチが運転席に駆け寄り、運転手さんの無事を確認した。


「蘭子さんて、裏じゃなくても怖いんだね」


 江原ッチがそう呟いた事は蘭子お姉さんには内緒にしておこう。


「お姉さん!」


 私達はバスから飛び出すと、蘭子お姉さんに駆け寄った。


「久しぶりね。みんな元気そうで良かったわ」


 こんな状況でそんな言葉はちょっとと思うまどかだが、蘭子お姉さんらしくていいかな。


「まりさん、久しぶり!」


 まりさんと抱き合って再会を喜んだ。


 江原ッチとリッキーが羨ましそうに見ていたので、後で靖子ちゃんとお説教ね。


「それにしても、手強かったな、あのオバはん」


 ヘリコプターから降りてきた麗華さんが言った。


 麗華さんの際どい服には、機動隊の皆さんも唖然としていた。


「しばらくこちらに留まるわね、まどかちゃん。上田親子、かなり危険だから」


 蘭子お姉さんが真顔で言ったので、江原ッチと美輪君とリッキーばかりでなく、坂野君、そしてパトカーを指揮してきた我がバカ兄貴もデレッとしてしまった。


 バカ男共め!


 


 先が思いやられるまどかだった。

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