江原ッチが嫉妬したのよ!
私は箕輪まどか。高校生の美少女霊能者だ。
先日、G県で一番の進学校である県立M高校絡みの幽霊事件が起こった。
事件の元を辿るうちに私達の通っているM市立第一高校の生徒会長である上田博行さんが捜査線上に浮かび上がった。
やはり、私と彼の江原耕司君を入学式当日から有名人に仕立て上げたのは上田さんだったのか?
謎が謎を呼ぶ状態に危機感を抱いたまどかである。
「箕輪、ちょっといいか?」
教室に入り、席に着くなり、声をかけて来た男子がいた。
クラスで一番のお調子者である大久保健君。小柄で、イケメンと言うよりは目がクリクリしていて可愛い感じの子だ。
途端に江原ッチの親友である美輪幸治君が警戒態勢に入った。
私は親友の明菜に、
「美輪君にちょっかいを出す女子がいたら追い払ってね」
そう言われている。少し前までは私もそのうちの一人呼ばわりされていたのだが、美輪君に諭されてやめてくれたようだ。
その逆に、美輪君は江原ッチに、
「まどかりんに近づく阿呆な男がいたら、撃退してくれ。鉄拳制裁も許可する」
そんな恐ろしい依頼をされたらしい。
「何、大久保君?」
私は美輪君に目配せしてから大久保君を見て微笑んだ。心なしか、顔を赤らめたようだ。
もしかして、ホントに告白するの? まあ、速攻で断わるだけだけどね。
「箕輪って、幽霊が見えるんだよな?」
「え?」
いきなりそんな事を言われたので、私は慌てて大久保君を廊下に連れ出した。
「その話、あまりみんなの前でしないでくれないかな?」
苦笑いをして言うと、大久保君はハッとした顔になり、
「ああ、ごめん、俺、どうも気遣いが足りないって、知ちゃんに言われるんだ」
その言葉で大久保君が何を話そうとしたのか、大体わかった。
彼は生徒会副会長である高橋知子さんの幼馴染みなのだ。
その高橋さんの事を心配しているようだ。どんな事なのかまではわからない。
「高橋さんに何かあったの?」
私は時間が勿体ないので、単刀直入に尋ねた。大久保君はびっくりしていたが、
「ああ、そうなんだ。さすが、箕輪だな。そんな事までわかっちゃうんだ」
引きつりながらも、事情を説明してくれた。
高橋さんは、会長である上田博行さんに恋心を抱いている。それは構わないのだが、どうも最近、高橋さんの様子がおかしいという。
以前は、家に遊びに行くと、部屋に入れてくれて、本当に仲のいい姉弟のように話をしたりしていたのだが、今は部屋どころか、家にも入れてくれないという。
理由を訊くと、上田さんが他の男と遊ばないで欲しいと懇願したと言われたそうだ。
だが、高橋さんの友人やクラスメートに尋ねても、高橋さんが上田さんと付き合っている様子はないという。
隠れてデートとかしているのかと思ったが、高橋さんのご両親の話では、上田さんは家に来た事はないし、電話も取り次いだ事はないという。
大久保君は、携帯電話でやり取りしていると考えたのだが、高橋さんは携帯電話を持っていないそうだ。
今時珍しい高校生だと思う。顔はエキゾチックで、イケイケな感じなのにね。
高橋さんは上田さんに操られているのだろうか? でなければ、説明がつかない。
「俺、知ちゃんの事が心配でさ。何があったんだろうと思って……」
大久保君はもちろんの事、学校のほとんどの生徒達が、上田さんが実は霊能者で、何かを企んでいるとは知らない。
どうしたものだろうか?
「大久保君はどう考えているの?」
試しに大久保君の意見を訊いてみた。すると、
「こんな事を言ったって知られたら大変なんだけどさ。上田さんが知ちゃんを騙しているんじゃないかって思うんだ」
そんな答えが返って来た。ちょっとびっくり。
「どうしてそう思うの?」
根拠が知りたいと思った。
「知ちゃんが二年の時、上田さんが知ちゃんに交際を申し込んだんだけど、知ちゃんは断わったんだ。上田さん、がっかりしていたらしいんだけど、最近になって、知ちゃんが上田さんに夢中になってさ……」
嫉妬の炎が見えるくらい大久保君はイライラしていた。やっぱり、大久保君は高橋さんに幼馴染み以上の感情があるのね。
「どうしてそんな事になったのかわからないんだけど、上田さんが何かしたって思えるんだ」
大久保君には霊感はない。その気配すらないのだが、好きな女子のピンチに五感が研ぎ澄まされているのかも知れない。
「だから、県警の捜査員の箕輪に調べてもらえないかな、と思ったんだ。ダメかな?」
大久保君は真剣な表情で私を見た。
「わかった。その件、しっかり調べさせてもらうわ」
「ありがとう、箕輪!」
大久保君は大喜びで私の手を取って握りしめた。何だかドキッとしてしまった。
「その代わり、他言はしないでね。貴方も何かされると困るから」
「うん。わかったよ」
大久保君はニコニコしたままで教室に戻って行った。
「まどかりーん」
江原ッチが泣きそうな声で背後に現れた。いつもと逆バージョンだが、私には何も後ろめたい事はない。
「何でしょうか、江原耕司様?」
更に逆に絶対零度攻撃を仕掛けた。
「ひいい!」
江原ッチは条件反射的に身震いした。
江原ッチに事情を説明すると、
「何だ、大久保って奴、まどかりんばかりじゃなく、高橋さんにまで?」
そして、私の半目に気づき、顔を引きつらせた。
「あはは、高橋さんはやっぱりあの会長に操られているのかなあ」
トボケようとしても許さないわよ。そう思ったが、今は江原ッチを説教している場合ではない。
先日のM高校の一件もある事だから、慎重に動かないと、返り討ちって可能性すらあるのだ。
「じゃあ、また後でね、まどかりん。大久保が変な事したら、すぐに言ってね」
「はいはい」
まだ大久保君に嫉妬しているみたいだ。嬉しいんだけど、やめて欲しい。
いよいよ上田会長と対峙する事になるのかと思うと緊張で胸の鼓動が速くなるまどかだった。
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