遂に直接対決なのよ!

 私は箕輪まどか。女子高生の霊能者。ちなみに美少女から美人への階段を昇るシンデレラである。


 え? 妄想も大概にしておけ、ですって? 余計なお世話よ! 誰にも迷惑かけてないでしょ!


 


 同じクラスの大久保健君に相談をされたのが切っ掛けで、いよいよ生徒会長である上田博行さんの正体が見えて来た。


 副会長の高橋知子さんを操り、自分に好意を持たせるだけに留まらず、私と江原耕司君を入学当日から有名人に仕立て上げた。


 それだけではない。親友の近藤明菜を虜にしたり、G県一の進学校である県立M高校の進学クラスである特Aクラスの生徒の成績が落ちるように幽霊騒ぎを起こしたりしているのだ。


 もはや見過ごせない程の悪行だ。月に代わってお仕置きしなければならない。


 え? 相変わらず、ネタが古いな、ですって? 仕方ないでしょ、作者が昭和生まれなんだから。




 私と江原ッチは放課後になるのを待って、上田さんがいると思われる生徒会役員室に行く事にした。


 廊下を二人で歩いていると、


「おいおい、俺達を仲間はずれにしないで欲しいな」


 どうやって知ったのかわからないけど、江原ッチの親友で私と同じクラスの美輪幸治君と明菜が来た。


「俺も置いてかないでくれよ、コロッケあげるからさあ」


 その後ろから、紙袋一杯にコロッケを持って、肉屋の御曹司の力丸卓司君も来た。


 今までなら彼は足手まといなのだが、中三のお正月に会得した布袋様の力は侮れないものがあるのだ。


 以前、生徒指導部の一番怖い担当である坂田郁代先生が操られた時、坂田先生を操っていた黒幕が手を引いたのは、リッキーのお陰なのだ。


 その黒幕も、恐らく上田さんだ。しかし、一体何のために? それが謎である。


 役員室に向かいながら、私は明菜達に事情を説明した。


「上田さんがそんな人だなんて未だに信じられないんだけど」


 明菜がぼそりと言うと、美輪君の顔が引きつった。


「アッキーナ、そんな事言わないでよ。アッキーナも上田に操られていたんだよ」


 美輪君は慌ててそう言ったが、


「でも、上田さんはイケメンで勉強もできるのよ、美輪君」


 明菜の容赦のない返しを受け、固まってしまった。


「でもさ、上田さんて、高橋さんていうハーフっぽい人と付き合ってるんだよね?」


 リッキーが火に油を注ぐような事を言い出す。明菜はキッとしてリッキーを睨むと、


「高橋さんは上田さんと付き合っているって、自分で思い込んでいるだけなのよ! 間違った事を言わないで!」


 尋常ではない形相でそう言った。おかしい。明菜がまた妙な気を纏い始めている。


 かつて、私の兄貴に纏わりついていた頃の小倉冬子さんが明菜を操った事がある。


 そして、復活の会の神田原明徹に操られた事もある。


 明菜は霊媒体質なのだ。それが災いして、すでに上田さんに取り込まれているようだ。


「美輪、アッキーナにお前の気を注ぎ込むんだ」


 江原ッチが辺りを警戒しながら言う。


「え? どうやって?」


 美輪君は狼狽えている。


「抱きしめるなり、キスするなり、何でもいいから、アッキーナの身体にお前の能力を注ぎ込めばいいんだよ!」


 江原ッチがイラッとして怒鳴った。


「ええ!? そんな恥ずかしい事、俺にはできないよ」


 美輪君は仰天して言ったが、美輪君と明菜は、いつもそんな事をしていると思ったのは私だけではない。


「アッキーナを上田に奪われてもいいのか、美輪!」


 江原ッチのその言葉に美輪君はビクッとして、


「わ、わかったよ」


 言うや否や、明菜を抱きしめるとキスをした。もちろん、唇によ! 


「……」


 本当にすると思わなかったので、私と江原ッチは唖然としてしまった。


「ああ、凄いな、二人共。学校でチュウなんかしたら、校則違反なんだぞ」


 リッキーがヘラヘラ笑って言った。そんな校則はないが、職員室に呼ばれるのは確かだ。


「美輪君……」


 キスをし終えた明菜は、トロンとした目で美輪君を見上げている。


「良かった、アッキーナ」


 美輪君はもう一度明菜を抱きしめた。


「校内でそんな行為をしたらいけないよ、二人共」


 そう言って姿を現したのは、上田さんだった。いきなり現れるとは思わなかったので、私と江原ッチはハッとして飛び退いた。


「僕の事をいろいろと嗅ぎ回っているようだけど、怪我をしたくなかったら、このまままっすぐ家に帰る事だ」


 上田さんはトレードマークである黒縁眼鏡をクイッとあげた。顔は微笑んでいるのだが、目の奥が笑っていないのがわかる。


「帰らなかったら、どうするんですか?」


 江原ッチが挑発的な事を言い、フッと笑う。すると上田さんもフッと笑い、


「お仕置きをする」


 その言葉と同時に上田さんの周囲に竜巻のような気の流れが発生した。


「アッキーナ!」


 美輪君は危険を察知して、明菜を抱きかかえたまま、上田さんから離れた。


「君達などでは僕が出るまでもないようだ。我がしもべに頼むとしよう」


 僕? 会長だけに、ロプ○スでも呼ぶのか? え? 相変わらず古い? うるさいわね!


 上田さんは私達を蔑んだ目で見ると、一歩身を引いた。するとそれと入れ違いに前に出たのは、フワフワッとした巻き毛がよく似合うエキゾチックな顔立ちの高橋さんだった。


 え? どういう事? 高橋さんには霊能力はないはずなのに、何、この威圧感は?


「私のご主人様を虐める悪い人はあなた達ね? 罰を与えます。心してお受けなさい」


 高橋さんの目には生気がなかった。操られているのだ。しかし、いくら操られているとは言え、どうしてこんなに圧迫感があるの?


 どう考えても、超一級の霊能者としか思えない。


「インダラヤソワカ」


 高橋さんがいきなり雷撃の真言を唱えた。


「うわ!」


 私と江原ッチは慌てて後ろに飛んだ。美輪君はその能力故に真言は通じない。


「どうしたの?」


 リッキーも布袋様の力がいつの間にか全開になっていて、全く動じていない。


「ほう。噂で聞いた通りなんだね。君達はその身に七福神の力を宿しているのか。それは困ったなあ」


 上田さんはニヤリとして私達を見渡した。その顔は全然困っているようには見えない。


 どれ程の力を持っているのだろうか?


 予想以上に手強い敵だと思うまどかだった。

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